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【研究成果】薬物性歯肉増殖症の新規治療薬候補の発見 根本的な治療法の開発へ

【本研究成果のポイント】

  • 薬物性歯肉増殖症※1の新規治療および予防に有望な薬剤であることを示す新たな証拠を示すものです。

概要

 広島大学大学院医系科学研究科歯周病態学研究室上田智也大学院生、松田真司助教、水野智仁教授らのグループは、薬物性歯肉増殖症の新規治療法および予防に有望な薬剤を発見しました。
 薬物性歯肉増殖症は免疫抑制剤(シクロスポリン)、降圧剤(カルシウム拮抗薬)、抗てんかん薬(フェニトイン)の副作用で歯肉が肥厚する疾患です。当グループでは以前からの研究で核内受容体※2NR4A1※3が薬物性歯肉増殖症の発症に関与していることを明らかにしました。そこで本研究ではNR4A1の発現を上昇させることが報告されているブチリデンフタリド※4に注目し薬物性歯肉増殖症を試験管内試験(In Vitro)、生体内試験(In Vivo)の両方で改善させました。
 今回の研究結果から、薬剤の変更や歯肉切除術を必要としない治療法の開発が期待されます。
 本研究結果は国際学術誌「BioFactors」に2024年5月22日付けで掲載されました。

発表論文

  • 論文タイトル
    NR4A1 upregulated by n-butylidenephthalide via the MAPK pathway ameliorates drug-induced gingival enlargement.
  • 著者
    上田智也、松田真司、二宮由梨香、中嶋良徳、安田佳佑、古玉大祐、目見田匠、吉本哲也、加治屋幹人、太田耕司、應原一久、水野智仁
  • 掲載雑誌名
    BioFactors
  • DOI番号 10.1002/biof.2077

背景

 薬物性歯肉増殖症は免疫抑制剤、カルシウム拮抗薬、抗てんかん薬の副作用で歯肉が肥厚する疾患です。
 現在、根本的治療はなく原因の薬剤を変更するか、歯肉切除術を行うしかありません。しかし、身体の治療に有効な薬の変更は容易ではなく、また歯肉切除術行っても薬を飲み続けている限り再発する事もあり、根本的な治療とは言えませんでした。また歯肉が肥厚することで、口腔衛生状態は不良となり、う蝕や歯周病の発症、悪化の原因となっていました。
 私たちは、薬の変更や歯肉切除術を必要としない薬物性歯肉増殖症の治療薬開発を目指してきました。その中で、核内受容体4A1(NR4A1)が薬物性歯肉増殖症の治療標的となりうることを報告しました。NR4A1は、歯肉の線維化を抑制することができる分子ですが、歯肉増殖症を発症させる薬は、このNR4A1の発現を抑制していることが明らかになっています。本研究ではNR4A1の発現を増加させるn-ブチリデンフタリドが薬物性歯肉増殖症を改善することを発見しました。

研究成果の内容

 本研究では、まず、歯周病患者と薬物性歯肉増殖症患者においてのNR4A1の発現を評価しました。(図1)その結果、薬物性歯肉増殖症患者では、NR4A1の発現が、歯周病患者さんと比較して顕著に低くなっていることを見出しました。次に植物由来の化合物ブチリデンフタリドが歯肉線維芽細胞のNR4A1の発現を増加させることを確認しました。さらに、歯肉線維芽細胞にブチリデンフタリドを投与するとトランスフォーミング成長因子β(TGF-β※5)の作用を抑制し、コラーゲンの産生を抑え、結果として歯肉の肥厚を抑制することが分かりました。(図2)ブチリデンフタリドの効果をより検証するために、動物モデルを用いて検証しました。その結果、ブチリデンフタリドの局所投与は、薬物性歯肉増殖症を改善することが確認されました。(図3)

図1 歯周炎患者(PD)と薬物性歯肉増殖症患者(DIGE)の口腔内写真(左)
患者より採取した歯肉のNR4A1のmRNA発現(右)

図2 歯肉線維芽細胞をTGF-β刺激後の薬剤のコラーゲン抑制
ヒト歯肉線維芽細胞をTGF-βで刺激したのちブチリデンフタリドを投与することによってコラーゲンの産生を抑制した。
(左)Real-time PCR (右)Western blotting
 

図3 
薬物性歯肉増殖症モデル(右)と治療モデルのマウスのHE染色(左)

今後の展開

 私たちはブチリデンフタリドが薬剤で抑制されたNR4A1の発現を増加させることで薬物性歯肉増殖症を改善させることを発見しました。しかし、ブチリデンフタリドは実臨床で使用するのには、解決すべき問題もあります。
 そこで私たちは、薬として応用可能なNR4A1発現促進物質を見出し、現在特許出願済みです。

用語説明

※1 薬物性歯肉増殖症
免疫抑制剤(シクロスポリン)、降圧剤(カルシウム拮抗薬)、抗てんかん薬(フェニトイン)の副作用で歯肉が肥厚する疾患。咀嚼障害、審美障害、重度のう蝕、歯周炎を引き起こす。

※2 核内受容体
細胞質に存在するタンパク質。ホルモンあるいはリガンドとの結合によって核内に移行し、転写因子として働き、DNAから転写制御に関与する。

※3 NR4A1
生体内のリガンドが見つかっていないオーファン受容体の一つ。細胞周期の調節、炎症、アポトーシスに関連している。

※4 ブチリデンフタリド
トウキの含有成分の一つ。肝がんの細胞においてNR4A1の発現の上昇が報告されている。

※5 TGF-β(Transforming growth factor β)
生体の恒常性を維持するサイトカインの一つ。増殖抑制、細胞の遊走・浸潤・上皮間葉移行、細胞外基質のリモデリング、免疫抑制に関与していることが知られている。

【お問い合わせ先】

<研究に関すること>
 大学病院 歯周診療科 歯周病態学研究室
 助教 松田 真司
 大学院医系科学研究科 歯周病態学研究室
 教授 水野 智仁
 Tel:082-257-5663 FAX:082-257-5664
 E-mail:matsudas*hiroshima-u.ac.jp
 E-mail:mizuno*hiroshima-u.ac.jp
 (注:*は半角@に置き換えてください)


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