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【研究成果】新型コロナウイルス感染症が肺がん患者の死亡率に与える影響を調査~がん検診と治療控えの影響が明らかに~

本研究成果のポイント

  • 2020~2021年の新型コロナウイルス感染症の流行期間中に診断された肺がん患者の死亡率は2018~2019年に診断された患者に比して1.19倍有意な影響を与えていることが、多重媒介分析※1により明らかにされた。
  • 死亡リスクの増加の約50%は、診断時の年齢の上昇、治療の差し控えの増加、がん検診による診断数の低下が寄与していたと考えられた。
  • 本研究成果は、新型コロナウイルスの流行中における肺がん患者の適切な治療と管理の重要性を示唆している。

概要

 広島大学病院 宮森大輔診療講師、吉田秀平診療講師、菊地由花助教、重信友宇也特定助教、池田晃太朗医師、伊藤公訓教授および京都大学病院 紙谷司特定講師、山本洋平教授による研究グループは、広島県における院内がん登録データを用いた多施設研究により、2020年の新型コロナウイルス感染症の流行期間中に診断された肺がん患者において、診断後の死亡リスクが増加していること、その要因として治療の差し控えやがん検診による診断数の低下が寄与していることが明らかになりました。
 この研究成果が2024年5月24日に、米国学術誌「International Journal of Cancer」に掲載(オンライン)されました。本研究により肺がんの死亡ハザード比の増加における治療の差し控えやがん検診を通した診断数の低下の影響が明らかになりました。

背景

 新型コロナウイルス感染症の流行は、医療システムに大きな負担をかけ、がん患者の治療に影響を与えています。肺がん患者は、新型コロナウイルス感染症に感染すると重症化しやすいことが知られており、また、新型コロナウイルス感染症の流行により、診断時の重症度の変化や、がん検診受診率の低下、治療の差し控えなどのリスクあ指摘されています。

研究成果の内容

 本研究では、広島県において2020年および2021年に診断された肺がん患者を2018年および2019年に診断された肺がん患者と比較し(約 6000人)、診断から1年以内の死亡率のハザード比およびそれに寄与する因子を検討しました。新型コロナウイルス感染症流行期間中に診断された肺がん患者は、流行前に診断された患者と比較して1.19倍の死亡ハザード比の上昇を認めました(図1参照)。どのような因子が死亡ハザード比の上昇につながったかを検討するために多重媒介分析を用いたところ、死亡リスクの増加の半分は、高齢化、治療を受けなかった患者の増加、そしてがん検診によって診断された患者の減少によってもたらされており、その割合は、それぞれ17.5%、13.9%、12.4%でした。(図2参照)

今後の展開

 本研究成果は、肺がん患者の適切な治療と管理の重要性を示唆しています。肺がん患者は、感染症の流行下において、呼吸器症状に対する行動抑制などの影響から、医療者とのコミュニケーションの減少、受診率の低下、治療の優先順位の低下などを来す可能性が指摘されており、パンデミックにおける医療弱者となりえます。
 新型コロナウイルス感染症の流行とその病態への理解が十分ではないことに対して不安を抱く患者には、継続的な治療計画の変更や選択肢の提供に関する透明性を担保し、質の高い治療を受けられるような病院内外でのポリシーの策定が必要と考えられます。
 

論文情報

  • 掲載誌:International Journal of Cancer
  • 著者名:Daisuke Miyamori1*†, Tsukasa Kamitani2, Shuhei Yoshida1, Yuka Kikuchi1, Yuya Shigenobu1, Kotaro Ikeda1, Yosuke Yamamoto3, Masanori Ito1
    *筆頭著者, †責任著者
        1.広島大学病院 総合内科・総合診療科
        2.京都大学病院 臨床研究教育・研修部
        3.京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻 医療疫学
  • 論文タイトル:Effects of the Coronavirus disease 2019 pandemic on mortality in patients with lung cancer: A multiple mediation analysis in Japan
  • DOI:10.1002/ijc.35042

参考情報

図1 診断後1年以内の累積死亡率

1年間の累積死亡率において、流行前(2018-2019)と比較して流行期間中(2020-2021)に診断された肺がん患者は粗死亡ハザード比※2が有意に高く、1.19倍であった。

図2 多重媒介分析による各因子の死亡ハザード比増加に対する相対的な寄与率

図1における死亡ハザード比の増加に寄与した因子について媒介分析を用いて解析をしたところ、診断時の年齢の上昇による影響、腫瘍に対する治療(手術・化学放射線療法等)の差し控え、がん検診による診断数の低下が有意に関連しており、それぞれ17.5%、13.9%、12.4%であった。一方で、肺がんの病期(ステージ)、病理学的診断の有無、性別は死亡ハザード比の増加に寄与していませんでした。

用語説明

※1 多重媒介分析
媒介因子分析はある原因変数(暴露変数)が、他の変数(媒介変数)を介して結果変数に与える影響を分析する統計手法です。これまでの媒介因子分析では1因子についてのみ検討が可能でしたが、本研究において用いた手法では、複数の因子に対して検討が可能となりました。本研究では、結果変数(肺がんの死亡)に対して、暴露変数(COVID-19の流行)が与えた影響を、媒介変数(年齢、性別、がん検診受診の有無、がんの病期、病理学的評価の有無)を介した影響を同時に検討を行いました。これにより、各因子がCOVID-19流行期間中の死亡ハザード比の増加に与えた影響の割合を検討しました。

※2 粗死亡ハザード比
死亡ハザード比は、ある集団において、特定の期間内に死亡するリスクがどれだけ高いかを表す統計指標です。これは、暴露変数(例:喫煙、肥満、病気など)と結果変数(死亡)の関係を分析するために用いられます。粗死亡ハザードは、1つの変数のみが死亡に与えた影響であり、年齢や、性別、その他影響しうる変数の影響を考慮せずに算出します。本結果では、COVID-19の流行期間の有無のみによる影響を検討するのにこの指標を用いました。

【お問い合わせ先】

広島大学大学院医系科学研究科・広島大学病院総合診療科

助教 宮森 大輔
Tel:082-257-5461 FAX:082-257-5461
E-mail:morimiya*hiroshima-u.ac.jp
(*は半角@に置き換えてください)
 


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