広島大学病院 消化器内科 河岡 友和
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本研究成果のポイント
- 肝細胞癌に対する特定の治療法(免疫チェックポイント阻害剤を用いた全身薬物療法であるデュルバルマブ+トレメリムマブ併用療法)において、癌が存在するときに血液中に産生される物質(腫瘍マーカー)の変化が治療効果の評価に役立つことが分かりました。
- また治療が効果的かどうかを早い段階で見分けるための腫瘍マーカーの基準値も明らかにしました。
概要
広島大学病院 消化器内科 助教 内川慎介、診療准教授 河岡友和らのグループは、肝細胞癌患者を対象とした研究でデュルバルマブ+トレメリムマブ併用療法の治療効果判定に腫瘍マーカーが有用であることを明らかにしました。
本研究成果は、2024年8月17日に「Hepatology research」でオンライン公開されました。
〈発表論文〉
・論文タイトル
The significance of changes in tumor markers in patients treated with durvalumab plus tremelimumab combination therapy as a surrogate marker for tumor response to unresectable hepatocellular carcinoma
・著者名
Shinsuke Uchikawa1, Tomokazu Kawaoka*1, Serami Murakami1, Ryoichi Miura1, Yuki Shirane1, Yusuke Johira1, Masanari Kosaka1, Yasutoshi Fujii1,2, Hatsue Fujino1, Atsushi Ono1, Eisuke Murakami1, Daiki Miki1, C. Nelson Hayes1, Masataka Tsuge1, Shiro Oka1
1 Department of Gastroenterology, Applied Life Sciences, Institute of Biomedical & Health Sciences, Hiroshima University, Hiroshima, Japan
2 Department of Clinical Oncology, Hiroshima University Hospital, Hiroshima, Japan
* Corresponding author(責任著者)
・掲載雑誌
Hepatology research(Q1) 2024 Aug 17. Online ahead of print
・DOI 番号
https://doi.org/10.1111/hepr.14104
背景
近年、免疫チェックポイント阻害剤というこれまで肝細胞癌に対して用いられていた薬とは全く違った働きで癌に対する治療効果を発揮する薬剤が使用可能となりました。我々の体には「免疫」という機能が備わっており、血液中の免疫細胞が体の中に入ってくる細菌やウイルスなどの異物を排除するようにできています。このうち一部の免疫細胞にはがん細胞を攻撃する性質があり、がんの治療に重要な役割を担っています。免疫細胞には、健康な細胞を誤って攻撃してしまわないように、自らの免疫力にブレーキをかける「免疫チェックポイント」という機能が備わっています。がん細胞は「免疫チェックポイント」を利用し、がん細胞への攻撃にブレーキをかけるのですが、このブレーキを解除し、免疫細胞が正常にがん細胞を攻撃できるようにする薬を「免疫チェックポイント阻害剤」といいます。しかし免疫チェックポイント阻害剤を用いた治療法では、実際にはがんに対して効果がある(腫瘍が小さくなっている)のにも関わらず、CT、MRIなどの画像評価では腫瘍が大きく見える「偽増悪」という状態を呈することがあり、本当にがんに対して効いているのかがわからない、という問題点があります。そのため、治療が有効かどうかを判断するための目安となるものが求められていました。
研究成果の内容
がんになると、がん自体が産生する、もしくはがんに反応して正常細胞から産生される特殊な物質が血液中に現れることがあります。この物質を「腫瘍マーカー」といい、この物質の数値の動きをみることで、CTやMRIでは判断できなかった、免疫チェックポイント阻害剤を使用した治療法の効果を測定できるのではないかと考えました。
2023年4月から2023年12月までに肝細胞癌に対してデュルバルマブ+トレメリムマブというふたつの免疫チェックポイント阻害剤を組み合わせた治療を受けた33例について調べました。腫瘍マーカーであるAFP、DCP、AFP L3分画を治療開始前、1週間、4週間、8週間後のタイミングで測定しました。また4週間ごと8もしくは12週間後にCT、MRI検査を行い癌がどのように変化したかも確認しました。治療が効果的だった患者さんでは4週後のCT、MRIで腫瘍が大きくなっていても8週後には3つの腫瘍マーカーの値は有意に下がっていました。一方、治療が効果を発揮しなかった患者さんでは4週後にDCPの値が上昇していました。またどれくらい腫瘍マーカーが下がれば、治療が効いているかの指標として、4週後に40%以上の腫瘍マーカーの低下という数値が導き出されました。今回の対象症例においては4週後にAFPもしくはDCPが40%以上低下した患者さんの中で72.2%の患者さんで良い治療効果を示しました<図:腫瘍マーカーの低下と治療効果の関係>。実験の結果、免疫チェックポイント阻害剤を使用した治療に効果があった患者さんでは、CT、MRIでは腫瘍が大きく見えた場合でも、腫瘍マーカーの値が下がっていることが判明しました。
図:腫瘍マーカーの低下と治療効果の測定
今後の展開
本研究の結果から免疫チェックポイント阻害剤を使った肝細胞癌治療において腫瘍マーカーがCTやMRIの画像よりもより正確に治療効果を判定できる可能性が示されました。これにより被ばくや造影剤による腎障害のリスクがある画像検査を頻回に行わずとも血液検査で治療効果が判定できるため、より体への影響や負担を少なくすることができるのではないかと考えます。
用語解説
*免疫チェックポイント阻害剤
免疫が癌細胞を攻撃する力を保つ薬です。がん細胞に「癌細胞を攻撃しない」という命令を送り、免疫細胞にブレーキをかけています。また樹状細胞という細胞は免疫細胞の働きが過剰となり自分自身を攻撃してしまわないように、こちらもブレーキをかけています。免疫チェックポイント阻害剤はこれらのブレーキがかからないようにする薬です。
*デュルバルマブ+トレメリムマブ併用療法
デュルバルマブ:がん細胞によるブレーキがかからないようにする薬とトレメリムマブ:樹状細胞によるブレーキがかからないようにする薬の2種類の免疫チェックポイント阻害剤を使った肝細胞癌に対する治療法です。
- 【プレスリリース】肝細胞癌に対する特定の治療法において、腫瘍マーカーの変化を測定することで治療効果を判定できることを発見.pdf(280.07 KB)
- 学術誌:Hepatology research
- 研究者ガイドブック(内川 慎介 助教)