広島大学大学院救急集中治療医学 内海 秀
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2024.09.27 本研究の対象となった参加者の人数に誤りがあったため修正、被災群・非被災者群の%の数値を修正
本研究成果のポイント
- 2018年7月に広島県を中心に発生した西日本豪雨災害に被災した小児において、気管支喘息の吸入治療薬の処方を受けた者の割合が増加していたことが明らかになった。
- 自然災害は年々増加しており、災害発生時には、小児の気管支喘息の増悪や発症増加を念頭に置いた診療や、医療体制構築を考えるべきである。
概要
広島大学大学院医系科学研究科 救急集中治療医学 内海秀特命助教、大下慎一郎准教授、志馬伸朗教授、地域医療システム学 松本正俊教授、大学病院総合内科・総合診療科 吉田秀平助教による医療レセプトデータを用いた研究により、2018 年西日本豪雨災害に被災した小児において、被災を契機に気管支喘息の吸入治療を受けた児の割合が増加していることが明らかになりました。この研究成果が米国小児科学会(American Academy of Pediatrics)の学術誌「PEDIATRICS」掲載されました。
これまで、自然災害によりこどもの喘息が悪化する可能性について臨床現場から指摘されておりましたが、大規模データをもとに被災者と非被災者を区別したうえで時系列で分析した研究報告は無く、本研究により被災と喘息との関連が初めて実証されました。
本研究成果は米国の医学雑誌 「PEDIATRICS」にオンライン掲載されました。
掲載誌:PEDIATRICS. 2024 Aug 29:e2023065381.(Q1)
論文タイトル:Rate of Asthma Prescriptions for Children and Adolescents During the 2018 Floods in Japan
著者名: Shu Utsumi, Shuhei Yoshida, Shinichiro Ohshimo, Nobuaki Shime, Masatoshi Matsumoto
背景
自然災害の被災者は、大気汚染、生活環境の変化、身体的・精神的ストレスにさらされます。これらはすべて気管支喘息のリスクといわれており、特に小児ではその影響が強く出る可能性が指摘されてきました。しかしながら、自然災害と喘息との関連を、特に小児で評価した大規模研究はこれまでにありませんでした。本研究は厚生労働省より許可を経て、西日本豪雨災害の被害が大きかった3 県(広島県、岡山県、愛媛県)の医療レセプト(診療報酬明細書)データを分析し、小児から思春期(0~19歳)までの住民の喘息吸入薬の処方数の変化を災害前後(それぞれ1 年間)で評価しました。
研究成果の内容
本研究の対象となった1,073,170人の参加者のうち、4,425 人(0.40%)が自治体から被災者と認定されていました。災害後1年以内の新たな吸入薬処方は、被災者群で287 人(6.5%)、非被災者群で59,469 人(5.6%)で発生しました。生存分析により、被災者は非被災者に比べて高い割合で吸入薬を処方されていたことが明らかになりました。(調整ハザード1.30;95%信頼区間1.16-1.46:下図参照)。加えて、発災直後の数か月だけでなく、一年後に至っても被災の影響が持続することが分かりました(参考図)。本検討は豪雨災害と小児の喘息との関連に焦点をあてたが、今後は地震など豪雨以外の災害との関連についても検討していく方針である。
今後の展開
小児において喘息は最もよく見られる慢性疾患であり、学校生活など社会活動の制限にもつながります。よって喘息の症状をじゅうぶんにコントロールすることは小児の生活の質を維持するうえで非常に重要です。本研究から自然災害とこどもの喘息の関連があることが判明しました。自然災害が増加の一途をたどっている現状をふまえると、災害弱者である小児への疾病負荷を正確に把握し、それに対応することには大きな意義があります。医療者や国、地方自治体は本研究結果を含めた災害関連の科学的エビデンスを十分に認識し、被災時の環境整備や、喘息治療薬の十分なストックとその供給体制などを検討する必要があります。
用語解説
喘息吸入薬治療薬:本研究では吸入ステロイドとβ刺激薬を対象としました。
参考図