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研究者への軌跡

イタリアのサルディニア島での、微分方程式と力学系の国際会議の時の写真です。

 

研究者への軌跡と数学の研究

氏名:吉野 正史

専攻:数学専攻

職階:教授

専門分野:偏微分方程式、力学系、解析数論

略歴:
1954年10月13日生まれ
1981年4月-1991年3月 東京都立大学理学部数学科助手
1986年9月-1986年12月 文部省在外研究員(パリ第6大学フランス)
1987年10月-1988年7月 日本学術振興会特定国派遣研究員(パリ第6大学)
1991年2月-3月 ブルガリア科学アカデミー客員研究員(ブルガリア)
1991年4月-1992年3月 中央大学経済学部助教授
1992年4月-2003年3月 中央大学経済学部教授、理工学部数学科大学院兼任
1993年7月-8月 日本学術振興会特定国派遣研究員(ブルガリア)
1994年3月-4月 Cagliari 大学客員教授(イタリア政府CNR招へい)
1996年3月-4月 ドイツ Oberwolfach 研究所研究員
1997年 4月-1998年9月 Nice (France) 大学客員研究員
1998年10月-1999年3月 Cagliari (Italy)大学客員教授
2003年4月- 広島大学大学院理学研究科教授(現在に至る)

 

数学の研究者を目指したのは、1977年ごろでしたが、数学あるいは科学一般に興味を持ったのは、70年代前後の頃のアポロ宇宙船の月着陸でした。私の中学生時代にあたります。今から、30年以上昔のことで、まだパソコンなどというものが一般に存在しなかった時代でしたが、人間を月に送ったのでした。なぜ、パソコンと月着陸が関係するかというと、月に人間を送るのは、膨大な計算が必要だからです。それを、手でやるのは大変ですから、計算機が必要なわけです。それ以外にも、地味でしたが、金星や火星に探査機を送ったこともありました。それで、科学というものに興味を持ちました。とりわけ、そのような壮大なことを為しえる原理、科学技術、人、組織等に興味を持ちました。
 

大学進学にあたり、進路を決定するに当たって、ロケット工学のようなものを専攻するということも考えられました。ただ、当時の日本ではまだそれは一般的でなく、軌道計算や力学系という基礎をささえる数学を選びました。アポロ宇宙船を月に送るというのは、簡単に言えば、人の乗ったカプセルをサターン5型ロケットの力で月に向かって投げて、当てると考えればわかりやすいでしょう。ただ、月はとっても離れたところにありますから、方向とか早さをうまく調整しないとうまく命中しないわけです。力が余って、行き過ぎても困るし、届かなくても困るわけです。それは、数学の助けを借りる必要があります。それと、計算機があれば便利です。現在、私の研究は、微分方程式および力学系ですから、中学時代に興味を持ったテーマを50年近くたった今も研究していることになります。
 

研究者になるために、私がたどった道はきわめて平均的なものでした。つまり、大学を4年で卒業した後、大学院に進みます。通常は前期2年後期3年です。ここで、論文というものを書きます。そして、大学の助手の公募に応募します。それで、採用されたというわけです。
 

その後の経歴は、私の略歴をごらんになればおおよそ想像できるでしょう。私の歩んだ数学の研究は、ほとんど本と論文で勉強し、論文を書くというもので、実験などはありません。数学の中でも特に地味な方だと思います。ですから、これといった華々しいこともなく、平凡に数学を続けてきました。
 

数学をやっていて思ったことは、数学はきわめて普遍性の高い学問だということです。まず、数式は、話す言葉とか書く言葉が異なっても世界共通語です。これは、他の学問とかなり異なります。時間と空間を超えて、多くの数学者が、テーマを追い続けることは珍しいことではありません。私の場合も同じテーマを追求しているというだけで、一面識もない研究者から手紙をもらい、ブラジルのサンパウロから何百キロも奥の大学に行ったこともありました。また、まだ共産主義の鉄のカーテンの時代に苦労して、なんどもブルガリアにいったこともあります。また、逆に日本に研究者をお呼びしたこともあります。それも、すべては一つの手紙から始まりました。そして、一緒に研究して数学の論文を書くわけです。同じ問題を追求しているというだけで、地球の反対まででかけて、一緒に仕事ができるというのは、貴重な体験でした。私が、広島大学にきたのも数学があったからで、私自身は大学院に進んで以来、東京にいましたので、これも数学が取り持つ縁でしょう。
 

最後にこれまでの研究を振り返って、研究を述べます。興味がないと思いますので、とばしてください。数学の研究の一端を想像していただけると思います。
・ Riemann-Hilbert分解と微分方程式の可解性の研究
・微分方程式の可解性とDiophantine phenomena の関係の研究
この研究のmotivationはいくつかの異なった方向からきている。それらをあげると

(i) Cauchy-Kowalevskiの定理を退化型の方程式 - いわゆる多変数Fuchs型の方程式に拡張する。(この種の方程式はよくあらわれる。常微分方程式の確定特異点の近傍での可解性をモデルとしてこれを偏微分方程式の場合に拡張することを目的とする。)
(ii) Garding, HormanderらによるGoursat問題の研究。(Goursat問題は固定境界をもつ場合の双曲型方程式の可解性にあらわれるが数学的な問題としても興味ある現象を持つ)。
(iii) Kashiwara-Kawai-Sjostrand によるすべての形式解の収束(発散)の研究。
(iv) 混合型Monge-Ampere方程式を含む非線形Fuchs型方程式の可解性。
(v) ベクトル場の標準形の研究。
 

この方程式にRiemann-Hilbert分解の方法を適用して可解性を示すことができる。Cauchy問題やGoursat問題も初期条件や境界条件をとりこんで未知関数を変換すると退化型になるので本質的にRiemann-Hilbert問題と密接に結びついている。実際、方程式を解くことはある種のRiemann−Hilbert分解を実行することになる。非線形問題にRiemann-Hilbert分解の方法を適用するためのスキームが研究されている。

 
(ii) ではGoursat問題をRiemann-Hilbert分解の方法を適用して解くための一般的なスキームについて調べられている。Goursat問題とRiemann-Hilbert分解の関係がより詳しく調べられている。(iii)では特に常微分方程式に対する有名なMalgrange, Komatsu, Ramis らによる指数定理の新しい証明がRiemann−Hilbert分解の立場から与えられる。すべての形式解が収束するための十分条件と必要条件がToeplitz symbolのRiemann-Hilbert分解を用いて与えられる。
(iv) に関しては混合型作用素の困難さがトーラス上に方程式を持ち上げることにより解消され、可解性が従う点が新しい。また報告「Riemann-Hilbert分解と微分方程式の可解性」にも関連した結果が述べられている。


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