English website is here .

研究者への軌跡

人との出会いが研究のスタート

氏名:鎌田 聖一     

専攻:数学専攻

職名:教授

専門分野:トポロジー(位相幾何学)

略歴:1964年大阪市に生まれる。大阪市立大学理学部卒業、同大学院理学研究科博士課程修了、博士(理学)。大阪市立大学理学部助手、講師、助教授を経て、2002年広島大学助教授、2003年より広島大学理学研究科教授、現在に至る。2004年日本数学会幾何学賞受賞。2008年日本数学会評議員。

 

人工衛星から送られる映像を見れば地球は確かに丸い。しかし世界は平面だと信じられていた時代もあった。地球やボールの表面ような球面は、ごく小さな範囲を見るかぎりでは平面と区別がつかないが、全体としては平面ではない。このように局所的に見れば平面と区別がつかない空間は「2次元多様体」と呼ばれる。浮き袋やドーナツの表面も2次元多様体である。クラインの壷やメビウスの帯も有名な2次元多様体である。局所的に見ればn次元ユークリッド空間と区別がつかない空間を「n次元多様体」という。我々の住んでいる空間は3次元多様体であり、時間も込めて考えれば4次元多様体である。この世界がどのような姿・かたちをした4次元多様体かは分かっていない。人工衛星のように外から観察すれば、地表が球面であることがはっきりと分かる。しかし私たちは私たちの宇宙から「外」へ出ることは出来ないし、そもそも「外」に別の大きな空間があるかも分からない。数学的には「外」に空間がある必要はないのである。トポロジーは、宇宙の中にいながらでも宇宙の姿・かたちを知る手がかりを与えてくれる。特に、結び目理論は3次元や4次元の空間の中に次元の低い空間がどのように入るかを調べる理論である。クラインの壷は、数学者フェリックス・クラインが頭の中で考えた2次元の空間(2次元多様体)であり、3次元ユークリッド空間の中には存在しないことが数学的に証明されている。従って、もし私たちの住む空間の中にクラインの壷を実現することができるなら、私たちの住む空間は3次元ユークリッド空間と異なる空間であると結論できる。興味深いことに、3次元空間や4次元空間のように比較的低い次元の方が数学的には分かっていないことが多い。特に3次元空間や4次元空間の中への1次元多様体や2次元多様体の入り方(「埋め込み」という)に不思議な現象が多く現れる。それらが私の研究対象である。
 

私の研究の始まりは学部4年生で読んだ2つの文献[1]と[2]である。[2]は4次元ユークリッド空間に埋め込まれた(向き付け可能な)2次元多様体の標準形に関する論文であり、この論文で使われている「動画法」の有効性を目の当たりにしてとても感動した。4年の後期は、向き付け不可能な2次元多様体の標準形に範囲を広げて、応用としてWhitney予想(Whitney-Massayの定理)の幾何的な証明を与えた。これが私の4次元との出会いであり、最初の研究成果[3]である。当時の指導教員である河内明夫先生は、プリンストン高等研究所から戻られ、4次元に関する最新の研究について学部生にも熱心に話をされていたことが忘れられない。誰でも人との出会いが多くある。そのなかで、研究(や人生)にとても大きな影響を与えてくれる出会いがある。河内先生との出会いが私の研究者人生の出発点となった。90年に日本で国際数学者会議があり、そのサテライト会議として大阪で結び目理論に関する国際会議が開催された。そこでOleg Viro教授と出会った。そのとき出来立ての別刷[3]を手渡して、たどたどしい英語で説明したが、彼は熱心に聞いてくれた。彼との出会いが、私の2次元ブレイドに関する研究を始めるきっかけとなった。余談だが、そのとき彼からレニングラードへ誘われて、翌年に行くつもりで連絡を取り合ったが、急に連絡がつかなくなった。91年にソ連が崩壊したニュースがテレビで流れてその理由が分かったが、今でも残念である。(ただ、もしソ連にいたら無事に帰国できたかどうか。)彼が私に興味を持ってくれたのも、それまでに[3]が出来ていたからで、単に人と出会う機会があるだけでは、転機(好機)とはならない。いつか分からない将来の出会いの為に、日頃から地道に研究を行うことが大切なのだろう。2次元ブレイドの研究も順調に進み、チャート表示法や4次元Alexander-Markov定理ができた。その研究を介して、J. Scott Carter教授、斎藤昌彦教授との交流が始まった。彼らとの共同研究でカンドルのホモロジー理論という新しい数学を構築するに至った。松本堯生教授、松本幸夫教授、Roger Fenn 教授との出会いは4次元レフシェツ束空間やバイカンドルの研究に繋がった。このように出会いがきっかけとなり新たな研究がスタートする、研究を進めていくとまた新たな出会いがある。これが私の研究スタイルのようだ。
 

文献
[1] Jeffrey Weeks, The Shape of Space, Marcel Dekker, Inc., New York, 1985.
[2] Akio Kawauchi, Tetsuo Shibuya, Sin’inchi Suzuki, Descriptions on surfaces in 4-space, Math. Sem. Notes Kobe Univ. 10 (1983), 75-125.
[3] Seiichi Kamada, Non-orientable surfaces in 4-space, Osaka J. Math. 26 (1989), 367-385.

2004年6月 コットンクラブにて

2007年1月 広島大学学士会館にて 研究集会「4次元トポロジー」

2008年6月 ポーランドのグダンスクにて 国際会議「Algebraic and Geometric Topology」

2008年6月 京都にて(左がViro教授)


up