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研究者への軌跡

数学へのいざない−私の思い出から−

氏名:松本 堯生

専攻:数学専攻

職階:教授

専門分野:

略歴:

 

数学はなんとなく分かって後は覚えればよいと思われているようですが、そうではなくきちんと分かってなんとなく覚えればよいものです。こういうと「負の数と負の数をかけると正の数になる」の理由がきちんとは分からないという人がいるかと思いますが、ルールがきちんと理解できれば充分です。
理解がきちんとしていると、ちょっと考えると必要なことが思い出せ、さらに考えるともっとうまい方法を思いついたりできるものです。適当に数値を計算することも出来ます。
この方法はどの分野でも通用することですが、そのような能力開発には数学を勉強することが最も有効と思われ、数学科卒業生の社会における適応範囲はとても広いのです。
上のような考えで私は大学入試のときも数学でなんとか点を稼ぐことが出来ました。実際は、一題に時間をかけ過ぎてあせりましたが、次の一題は理屈だけ述べればよい問題だったので5分で解答でき、あとはなんとかなりました。
とはいいながら、中3のとき神戸大学を出たばかりの先生に「極と極線」という平面幾何の難しい問題をいっぱい出されて解けなかったのはショックでした。範囲外の出題でしたが、かえって数学に興味を持つようになった気がします。高校時代も数学だけは教科書を1人で読んで勉強していました。大学に入ってからは科学書を輪講するサークルに入り同級生と何冊か数学と物理の本を読みました。
塾へ行かなくても先生がいなくても、数学は自分達で勉強できることを知ってほしいと思います。先生がいると次にどんな勉強をすれば良いかが分かる点が違うのですが、それこそ高校ではなく大学の問題でしょう。そういう意味で先生を選ぶこと、多くの先生を知ることも大切です。
 

数学科4年生のとき卒業後の会社就職を考えて名刺まで作ったのですが、結局大学院に行きました。修士課程を修了するときもアメリカ留学を考えましたが、幸い京都大学助手の職にありつけ、以来35年間数学の先生をやってきました。中学校・高等学校の教員免許も持っており、高校の数学の先生もいいなと思っています。
以下、数学者になってよかったという話をします。助手になってからフランス政府給費留学生として2年間パリ大学で過ごしましたが、本当に楽しい2年間でした。シーベンマン先生のところで日本でやっていた位相多様体の3角形分割可能性をある種の3次元ホモロジー球面の存在に帰着する研究を完成させてフランスの国博士というとても立派な学位をもらいました。残念ながら、そのような3次元ホモロジー球面が存在するかどうかは今もって決着がついていません。広島大学に来てからはすぐに一年間プリンストン高等研究所の研究員になりました。家族3人で行ったアメリカ合衆国もとてもいい思い出となりました。パリもプリンストンも夏に寄ったバークレーも大学院生も含め本当にたくさんの数学者が集まってお茶の時間などにディスカッションしているのは驚きと同時に楽しみでした。日本の大学の談話会が終わった後のお茶に残る人が少ないのはとても残念です。
また、修士論文では証明の間違いを訂正するために急遽「同変CW複体」の概念を創ったのですが、同じ概念を少し後で出しその後その方面の研究を進展させたヘルシンキ大学のイルマン教授とはずっと親しく研究交流することができました。
 

数学を専攻して良かったことはなんと言っても世界中どこに行っても、意外といってもいいほど自分の研究を知っている知己がいて楽しく過ごせることです。いい結果を出せば出すほどそういう場合の気持ちもいいのでとても励みになります。
著名な日本の数学者ともお会いする機会が結構あり、いろんな意味で影響を受けました。フィールド賞を受賞された小平邦彦先生の授業を受けることができましたし、広中平祐先生とはフランスのIHESでお会いし、広島大学の大学院生陳旭彦君の留学経費を出してもらったこともあります。森重文氏は私の助手時代に京都大学の学生でした。佐藤幹夫先生とも京都大学でご一緒させていただきました。
高校生や大学生のときから考えれば夢のような話ですが、たまたまその気になって研究したことが世界中でそれなりに評価されることは、とてもすばらしいことに思えます。
皆さんも頑張って自分の運をつかんでください。数学者にならなくても数学を学んだ良さには似たことが一杯あります。


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