花粉症
鼻アレルギーには一年を通じて症状が現れる通年性のものと季節性のものとがあります。このうち通年性のものは家の中のほこりやダニ、カビが原因となっています。季節性のものはいまや国民病ともいえるスギ・ヒノキ花粉症が代表的ですが、カモガヤなどのイネ科花粉、ブタクサ花粉症も有名です。
スギ花粉症を引き起こすのは、日本固有の常緑針葉高木の日本スギ(cryptomeria japonica)の花粉です。日本スギは今から200万年前には既に日本に出現しており、日本人より古い起源を有しています。ただ本州のスギ林の多くは戦後の植林政策による人工林であり、人工林面積の45%がスギで21%がヒノキであるとの統計もあり、ここまでスギ・ヒノキ花粉症患者が増加した大きな一因であると考えられています。
わが国でのスギ花粉症患者は戦後の1960年代に耳鼻科医の斎藤洋三先生により初めて日光周辺で報告されました。それ以来、増加の一歩をたどっています。全国的な調査によると鼻アレルギー全体の患者数は全国に少なくても約1,800~2,300万人存在するとされています。2007年に行われた全国疫学調査でも、この10年間で通年性アレルギー性鼻炎で4.8%、スギ花粉症では10.3%の患者数の増加が報告されています。
鼻アレルギーの反応は当然のことながらヒトの鼻腔内で生じ、その3主徴は「くしゃみ」、「鼻水」、「鼻づまり」です。
一方でヒトの鼻の重要な機能として、気道吸気の加温・加湿作用、吸気中の異物除去作用、鼻腔粘膜の周期的な腫脹と収縮による鼻腔通気性の調節(nasal cycle)が存在します。この観点からみると、“適度”な鼻汁分泌(鼻漏)、鼻腔通気の知覚と抵抗感、は全ての健常な人が有している症状といえます。これを裏返せば、鼻アレルギーの3主徴であるくしゃみ=異物除去作用の変調、同様に鼻汁過多=加湿作用の変調、鼻閉=nasal cycleの変調+好酸球性炎症、と捉えることができます。
鼻アレルギーに伴うこれら鼻症状の変調は、人間の生産性に大きく影響を及ぼしQOLの低下を生じます。しかしながら、その鼻症状の変調と個人が感じる苦痛の程度には乖離がしばしば生じるので、個々のケースにあった治療メニューを考える必要があります。
また治療を考える上で、鼻アレルギーは気管支喘息、アトピー性皮膚炎などの他のアトピー疾患と比較して、次のような特徴を有しています。
アトピー疾患の中での鼻アレルギー(花粉症)の位置付け・特徴としては、
1)病態が単純である = I型アレルギー反応が主体、従って薬物療法が効きやすい(第2世代の抗ヒスタミン剤、抗LT受容体拮抗薬、鼻噴霧用ステロイド薬など等)、
2)原因(誘発抗原)が同定しやすい、→ 舌下免疫療法(減感作療法)も有効である
3)アレルギー反応が生じる場所がきまっている、 → 手術が可能(下鼻甲介CO2レーザー焼灼術など)
具体的な治療法について、広島大学病院耳鼻咽喉科では火曜日と木曜日の午後に、鼻副鼻腔・アレルギー専門外来を設けて耳鼻咽喉科専門医とアレルギー専門医による診療を行っています。患者さんの症状、具体的希望に応じて、上記に示したような治療オプションの中から選択・提示を行っています。