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【研究成果】COVID-19患者のⅠ型インターフェロン中和抗体保有率を国内で初調査~同中和抗体が重症化の要因になっている可能性を確認~

本研究成果のポイント

  • I型インターフェロン(I型IFN)(*1)は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)(*2)などのウイルスに対する感染免疫に重要な役割を果たします。そのため、I型IFNの働きに問題がある場合にCOVID-19が重症化する可能性が高くなることが知られています。
  • 欧米を中心とした国外のCOVID-19を対象とした調査により、I型IFNに対する中和抗体(*3)を保有している場合に重症化リスクが高くなることが示されています。一方、本邦患者を対象とした同中和抗体の調査はこれまでに無く、本邦での実態は不明でした。
  • 本研究では、本邦における同中和抗体の保有率を調査しました。その結果、最重症例(*4)の10.6%で同中和抗体を検出しました。一方、中等症以下の罹患者での保有率は1%以下でした。そのため、本邦においても同中和抗体が重症化の要因になっている可能性があります。
  • 同抗体を測定することで、COVID-19で重症になりやすい方を予測したり、重症化のリスクに応じて治療方針を選択することができるようになる可能性が期待されます。

研究の概要

 岡田賢(広島大学大学院医系科学研究科小児科学 教授)、溝口洋子(同助教)、津村弥来(同研究員)、江藤昌平(同大学院生)、田中純子(広島大学大学院医系科学研究科疫学・疾病制御学 教授)らの研究グループ、森尾友宏(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科発生発達病態学分野教授)、貫井陽子(元同感染制御部准教授)らの研究グループ、城戸康年(大阪市立大学大学院医学研究科寄生虫学 准教授)、中釜悠(同特任講師)らの研究グループ、小原收(かずさDNA研究所 副所長)らの研究グループ、Jean-Laurent Casanova(ロックフェラー大学[米国])、Paul Bastard(イマジン研究所[フランス])らの研究グループは、他の研究グループと共同で本邦におけるCOVID-19患者(622例)の検体を収集して、I型IFNに対する中和抗体の保有状況を調査しました。
 その結果、COVID-19最重症例において、I型IFNに対する中和抗体を高頻度(約10.6%)に保有することが判明しました。一方、COVID-19の中等症以下の罹患者における中和抗体の保有率は1%以下と低く、同中和抗体を保有することがCOVID-19重症化のリスク因子になると考えました。
 なお、本研究はAMED 2021年度 新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業(研究代表者:岡田 賢, 田中純子, 鈴木忠樹) の支援により行われたもので、その研究成果は、本日2022年6月29日(水)8時に「Journal of Clinical Immunology」に公開されました。
 

発表内容

【研究の背景】

 COVID-19の多くは軽症ないしは無症状で経過します。一方、一部の患者は重篤な経過をとることから、重症化リスクを持つ患者を適切に選択して早期に治療介入を行うことが大切です。そのような状況下で我々は、国際共同研究グループ(COVID HUMAN GENETIC EFFORT:CHGE)(*5)に参加し、COVID-19重症化の病態解明に向けた研究に取り組んできました。これまでの研究でCHGEは、COVID-19に対する感染免疫にI型IFNが重要な働きを果たすことを明らかにしています。具体的には、38か国よりCOVID-19患者 5,857例および健常者34,159例の検体を収集し、I型IFNに対する中和抗体を測定しました。その結果、COVID-19最重症例のうち13.6%(そのうち80歳以上では21%)、死亡例のうち18%が、I型IFNに対する中和抗体を保有することが判明しています(Bastard P, et al. Sci Immunol., 2021)。この知見は、COVID-19の重症化リスクを知る上で重要で、社会的にもインパクトがある知見と考えました。しかし、収集されたCOVID-19症例はすべて海外症例であり、本邦での実態調査が必要と判断して本研究を実施しました。

【研究の成果】

 本邦におけるCOVID-19患者 622例の検体を収集し、I型IFNに対する中和抗体を測定しました。その結果、COVID-19最重症例のうち10.6% [図1]が、I型IFNに対する中和抗体を保有することが判明しました。これらの中和抗体を保有している方はすべてが50歳以上で、男性が92.3%でした。一方、中等症以下の罹患者での中和抗体保有率は1%以下でした。これらの傾向は、海外からの報告と一致します。これまでの疫学的な研究で、高齢、男性で重症となるリスクが高いといわれていますが、本研究の結果は、これらの所見を説明する一つの要因となると考えられます。

【今後の展開】

 今回の本邦における検討で、本邦においてもCOVID-19最重症例、男性、高齢の方でI型IFNに対する中和抗体の保有頻度が高いことが確かめられました。将来的にCOVID-19感染者に対する同中和抗体の迅速な測定が実現すれば、発症早期に重症化リスクを予測し、それに応じて治療法を選択することが可能になると期待されます。 
 また、今回は主にデルタ株以前の成人例を中心に調査しました.オミクロン株の重症例や小児の重症患者, ブレークスルー感染(*6)の重症例など重症化リスクが高くないと思われる方で重症化をきたした場合に、I型IFNに対する中和抗体はどうか検討する必要がありますので、現在、COVID-19症例の検体を収集しつづけています。

用語解説

(*1)I型インターフェロン(IFN):IFN-α, IFN-β, IFN-ωなどが該当する。ウイルス感染によって産生され、強力な抗ウイルス活性をもたらす。
 本研究では、I型IFNの代表としてIFN-α2, IFN-ωに着目して研究を実施した。
(*2)COVID-19:2019年に発生した新型コロナウイルス感染症で、SARS-CoV-2と呼ばれるウイルスが原因で起こる感染症。
(*3)I型IFNに対する中和抗体:I型IFNの活性を中和する自己抗体。I型IFNに結合して、そのウイルス感染防御機構を阻害する自己抗体を示す。
 (自己抗体:自分の体の構成成分を認識する抗体。自己免疫疾患で検出されることが多く、その発症原因になりうる抗体。)
(*4)最重症例:重症度が高く、集中治療室で全身的な管理が必要な症例。
(*5)CHGE(COVID HUMAN GENETIC EFFORT):COVID-19重症化のメカニズムの解明を目指した国際共同研究グループ。
(*6)ブレークスルー感染:2回目の新型コロナワクチン接種を受けてから2週間以降に、新型コロナウイルスに感染すること。

【参考資料】

図1:本邦におけるCOVID-19症例の中和抗体陽性率
 COVID-19最重症例では、中和抗体の保有率が高い(最重症例 10.6%、重症例 2.6%、中等症以下 1%以下)。さらに、高齢・男性で中和抗体の保有率が高くなる傾向を認めた。
※重症度
 最重症例:重症度が高く、集中治療室で全身的な管理が必要な症例。
 重症例 :肺炎があり、酸素投与が必要な症例。
 中等症例:肺炎はあるが、酸素投与が不要な症例。
 軽症例 :症状はあるが、肺炎のない症例。
 無症状例:症状のない症例。

論文情報

  • 掲載誌:Journal of Clinical Immunology
  • 論文タイトル:Neutralizing type I interferon autoantibodies in Japanese patients with severe COVID-19
  • 著者:江藤昌平、貫井陽子、津村弥来、中釜悠、溝口洋子、Paul Bastard、城戸康年、小原收、田中純子、森尾友宏、Jean-Laurent Casanova、岡田賢*、そのほかに18名の研究者。 * Corresponding Author (責任者)
【お問い合わせ先】

<研究に関すること>
 広島大学 大学院医系科学研究科 小児科学 教授  岡田 賢
 TEL:082-257-5212
 E-mail:sokada*hiroshima-u.ac.jp
 

<報道に関すること>
■広島大学 広報室
 TEL:082-424-3701
 E-mail:koho*office.hiroshima-u.ac.jp

■東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係
 TEL:03-5803-5833
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(注: *は半角@に置き換えてください)


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