<研究に関すること>
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大植 香菜
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広島大学大学院医系科学研究科 歯周病態学
應原 一久
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広島大学病院歯科麻酔科 大植香菜 助教、広島大学大学院医系科学研究科歯周病態学 應原一久 助教、同研究科細胞分子薬理学 吾郷由希夫 教授、同研究科薬効解析科学 森岡徳光 教授、第一薬科大学薬学部薬学科薬物治療学分野 山脇洋輔 准教授らの研究グループは、肥満マウスに歯周病を惹起させると、脳内のミクログリアの活性化と関連する認知機能障害が引き起こされることを発見しました。
認知症は世界で最も罹患者数の多い神経疾患です。認知機能障害の発症メカニズムには脳内での炎症の関与が指摘されていますが、有効な予防法や治療法は未だ確立されていません。そのため、リスクファクターと考えられる後天的因子・環境要因の分子機序に基づく認知症予防・治療法の開発が必要であり、新たな着眼点が求められています。なかでも、歯周病と肥満はともに認知症の危険因子であると言われていますが、発症に関与する詳細なメカニズムや脳機能における両者の相互作用の影響はよく分かっていませんでした。
本研究では、肥満あるいは歯周病単独では影響がない条件下、両者をともに発症することで、認知機能が障害されることを、動物モデルを用いて明らかにしました。また、この認知機能障害には脳内のミクログリアの活性化が関与していることを見いだしました。
今回の結果は、歯周病の予防あるいは治療が、認知機能の維持に重要であることを示すもので、認知症の理解と克服に向けた新たな提言につながることが期待されます。認知症の原因や発症の仕組みを解明するには、生活習慣を含む複雑な環境要因の相互作用を理解する必要があり、歯科臨床の役割と歯科的視点での研究展開の重要性が示唆されます。
本研究成果は、2024 年11月14日(木)@19時(日本時間)にJournal of Oral Microbiology に掲載されます。
<発表論文>
論文タイトル
Oral administration of Porphyromonas gingivalis to mice with diet-induced obesity impairs cognitive function associated with microglial activation in the brain
著者
大植 香菜1,*、山脇洋輔2、應原一久3、今戸瑛二1、田村哲也3、土井 充4、清水慶隆4、吉田充広1、水野智仁3、森岡徳光5、兼松 隆6、入舩正浩4、吾郷由希夫7,*
1.広島大学病院歯科麻酔科
2.第一薬科大学薬学部薬学科薬物治療学
3.広島大学大学院医系科学研究科歯周病態学
4.広島大学大学院医系科学研究科歯科麻酔学
5.広島大学大学院医系科学研究科薬効解析科学
6.九州大学歯学研究院口腔機能分子科学
7.広島大学大学院医系科学研究科細胞分子薬理学
* 責任著者
掲載雑誌
Journal of Oral Microbiology
DOI 番号
10.1080/20002297.2024.2419155
現在、世界中で5,500万人を超える人々が認知症を患っており、また毎年約1,000万人の新規症例が発生しています。人口増加と高齢化のため、認知症患者数は2050年までに1億5,200万人以上と、約3倍になることが予想されています。認知症に対する予防・治療法の確立が難渋している今、リスクファクターとしての後天的因子の分子機序に基づく認知症予防・治療法の開発が必要となっています。
認知機能障害の発症メカニズムの一つに、脳内炎症の関与が指摘されています。肥満は、全身に軽度な慢性炎症を引き起こすことで様々な疾患のリスクを高めると考えられています。一方、歯周病は局所の炎症性疾患であるにも関わらず、歯周病原細菌菌体やその毒素により全身性慢性炎症を引き起こし、心血管疾患や糖尿病など様々な疾患と関連することが報告されています。歯周病と肥満はともに認知症の危険因子であると言われていますが、脳機能に対する両者の相互作用の影響は不明です。
本研究では、ともに全身的な慢性炎症を引き起こす認知症リスクファクターである肥満と歯周病に着目し、両者の相互作用が認知機能へ与える影響を検討しました(図1)。高脂肪食を与えて作製した中年期肥満マウスへ歯周病菌(Porphyromonas gingivalis;Pg)を口腔内へ塗布した独自の「肥満-歯周病動物モデル」を確立し、本モデルマウスが認知機能障害を引き起こすことを見いだしました(図2)。また本モデルマウスの海馬では、炎症性サイトカイン(※2)であるIL-1βやTNF-αの発現が増加しており、歯周病が肥満病態下で引き起こす認知機能障害には、脳内のミクログリアの活性化が関連していることを明らかにしました(図3)。
今回、肥満病態下においては、歯周病が認知機能の低下につながる重要なリスクとなることが明らかになりましたが、脳内炎症とミクログリアの活性化を引き起こす詳細なメカニズムは未だ不明です。今後、細胞や動物モデルを用いた更なる検討、そしてヒトでの検証によって、認知症の新たな治療戦略の構築を目指します。
図1.肥満と歯周病はともに認知症のリスクファクターの1つであり、全身性の慢性炎症から様々な疾患を引き起こします。歯周病が肥満病態下で認知機能にどのような影響を及ぼすのか、検討した報告はありませんでした。
図2.肥満-歯周病モデルマウスの認知機能評価試験。マウスは新しい環境や物体を積極的に探索する習性をもつ。マウスに二つの新しい物体A とB を探索させて、記憶させる。1時間後に既知物体であるB を新しい物体C に置き換えて、マウスが物体C をどれだけ探索するかを計測することで、マウスの物体認知、学習・記憶能力を解析する。物体A とC の総探索時間のうち、どれだけ物体C を探索していたかを調べる識別指数を用いて評価する。数値が高いほど認知機能が高いことを意味する。肥満-歯周病モデルマウス群でのみ識別指数が顕著に低下していた。
図3.海馬におけるミクログリア細胞の免疫組織化学染色画像(左写真、緑色で示す細胞)。ミクログリアの細胞体の面積を計測したところ、肥満-歯周病モデルマウスにおいて、細胞体面積が有意に増加していた(中央グラフ)。また、ミクログリアを枯渇させる化合物(PLX3397)を与えることにより、肥満-歯周病モデルマウスの認知機能障害(識別指数)が改善した(右グラフ)。
(※1)ミクログリア
ミクログリアは、中枢神経系に分布するグリア細胞の一種であり、脳内の免疫担当細胞とも呼ばれる。正常状態では脳や脊髄に点在し、細胞同士がお互いに重ならず分布している。病態時には、細胞体の肥大化や細胞増殖を伴い活性化状態となる。感染や炎症反応において抗原提示細胞として働き、さらに死細胞や病原体を認識して補食するという役割を担っている。神経系の恒常性の維持に働くとともに、ミクログリア主体の神経炎症が慢性的に神経傷害を引き起こすことも明らかになっており、治療標的としても注目されている。
(※2)炎症性サイトカイン
サイトカインは、炎症の重要な調節因子で主に免疫系細胞から分泌されるタンパク質の総称である。中でも、腫瘍壊死因子(TNF)-αやインターロイキン(IL)-6、IL-1βなどの生体内の様々な炎症症状を引き起こすサイトカインを炎症性サイトカインと呼び、一方でIL-10やトランスフォーミング増殖因子(TGF)-βのような炎症症状を抑制する働きをもつサイトカインを抗炎症性サイトカインと呼ぶ。このような炎症性サイトカインと抗炎症性サイトカインのバランスが崩れると、自己免疫疾患などの疾患を引き起こすことが知られている。
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掲載日 : 2024年11月18日
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