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[研究成果]無血清培養条件下での効率的な人工多能性幹細胞(iPS)の樹立および維持方法を発見



広島大学病院 顎・口腔外科 山崎佐知子診療医、広島大学大学院医歯薬保健学研究院 岡本哲治教授らの研究チームは、ヒトiPS細胞(※1)をフィーダー細胞(※2)を用いずに、無血清培地(※3)のみを用いて、歯髄細胞(※4)や線維芽細胞(※5)からヒトiPS細胞の樹立、およびその未分化性と多分化能の長期維持に成功しました。



ヒトiPS細胞は一般的にフィーダー細胞上で、血清を10%程度添加した培養液中で樹立・培養されており、ロット差(※6)による不安定性や異種抗原や感染性因子の混入等の不定要素により、各種制御因子の同定、比較検討、医療応用は困難でした。



本研究では、フィーダー細胞を用いず、無血清培地を用いて、歯髄細胞や線維芽細胞からヒトiPS細胞の樹立を行い、さらにその未分化性と多分化能の長期維持にtransforming growth factor-β1(TGF-β1)(※7)が重要な役割をしていることを明らかにしました。



本無血清培養系は、成分の明らかな既知の因子のみから成るため、幹細胞の未分性の維持や増殖・分化を制御する各種因子の同定や検討が容易となり、発生・組織・臓器再生メカニズムの解明や、創薬スクリーニング(※8)への応用、さらに安全で確実な再生医療の実現が可能となると考えられます。



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本研究成果は、1月30日(日本時間)、米国学術雑誌『PLOS ONE』のオンライン版に掲されました。

論文名:

Generation of human induced pluripotent stem (iPS) cells in serum- and feeder-free defined culture and TGF-β1 regulation of pluripotency

(フィーダー細胞を用いない完全無血清培養系でのヒト人工多能性幹細胞の樹立と維持、およびトランスフォーミング成長因子—β1による未分化性の制御)



著者名:

Sachiko YAMASAKI , Yuki TAGUCHI , Akira SHIMAMOTO, Hanae MUKASA , Hidetoshi TAHARA , Tetsuji OKAMOTO               (山崎佐知子、 田口有紀、 嶋本顕、 向笠英恵、 田原栄俊、 岡本哲治)



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(用語説明)



※1 人工多能性幹細胞(iPS 細胞:induced pluripotent stem cell)

体細胞に特定因子を導入することにより樹立される、ES細胞に類似した多能性幹細胞。2006年に京都大学山中伸弥教授の研究により、世界で初めてマウス体細胞を用いて樹立に成功したことが報告された。



※2 フィーダー細胞(支持細胞)

目的の細胞を培養する際、培養条件を整える補助的な役割をもつ細胞。通常、薬剤や放射線処理によって分裂できないように処理されている。iPS細胞の培養の際には、薬剤や放射線で不活化されたマウス胎仔由来の線維芽細胞などがフィーダー細胞として用いられている。

※3 無血清培地

通常、細胞培養には、アミノ酸、無機塩類、ビタミン、微量元素、糖、などを含む基礎培養液に10%程度の牛胎児血清やヒト血清を加えた培養液が用いられている。しかしながら、血清中には未知の蛋白などの因子、ウイルスや細菌、マイコプラズマといった感染因子が含まれ、さらにこれら因子の質や量は血清ごとに異なる。このような培養系では再現性よく細胞培養を行うことが出来ない上に、再生医療には応用できない。

無血清培地とは、アミノ酸、無機塩類、ビタミン、微量元素、糖、などを含む基礎培養液に、インスリンや鉄結合蛋白などの既知のホルモンや蛋白因子などの成分の明らかな因子のみ含まれた培地で、細胞の増殖や分化を生体内と同様に維持することが可能な培地をいう。

※4 歯髄細胞

一般的には「歯の神経」と言われる組織に由来する細胞をいう。

※5 線維芽細胞

全身の結合組織を構成する細胞の1つであり、コラーゲンやヒアルロン酸といった真皮の成分を作る能力を持つ細胞。皮膚や粘膜などから採取可能である。

※6 ロット差

牛胎児血清の場合、同一雌牛由来の牛胎児血清は「同一ロット」であると表現する。雌牛が異なれば胎児血清に含まれる蛋白や脂質の質・量が異なるためロットが異なると言う。同じく、ヒトの場合も個体が異なれば同様に血清中の成分が異なる、このような差をロット差という。

従って、ロットの違いにより実験結果が異なるため、血清を含む培養系では再現性よく細胞培養を行うことはできない。

※7 transforming growth factor-β1(TGF-β1)

トランスフォーミング増殖因子-β1は元々腫瘍細胞が培養上清中に産生し、腎臓上皮細胞の浮遊培養を上皮成長因子存在下で促進する因子として同定されたタンパク因子であり、上皮細胞、血管内皮細胞、血球細胞、リンパ球、癌細胞などの多くの細胞の増殖抑制因子として作用する物質として知られている。同時に、さまざまな細胞の分化・遊走・接着にも密接に関与することが明らかにされている。

※8 創薬スクリーニング

各個体(患者)由来iPS細胞を用いることで、各個体ごとの薬剤感受性を調べることが可能となり、さまざまな化学合成物質や天然物質などの効果をスクリーニング(ふるい分けて選別)し、効果的な物質を選定すること。

【お問い合わせ先】

広島大学 病院 顎・口腔外科 山崎 佐知子

TEL:082-257-5667 FAX:082-257-5669                                                               Email:sayamasaki*hiroshima-u.ac.jp(*は半角@に変換して下さい)


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