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【研究成果】世界初!難治性大腸がんを再現できるマウスを開発 〜大腸がんの予防や新規治療薬の開発(前臨床研究)を促進〜

本研究成果のポイント

  • 世界初:難治性・急速進行性の大腸がんをマウスで再現
    通常のマウス(遺伝子操作なし)では腫瘍がほとんど発生しないのに対し、ヒトと同じ遺伝子異常を導入すると、短期間で高頻度に腫瘍が発生し、急速に増大するモデルの確立に成功しました。
  • 進行の速さと「治療が効きにくい性質」を再現
    従来の大腸がんモデルと比べて、より速く進行した状態に至り、増殖も活発で、さらに一部の治療薬が効きにくい特徴を示しました。
  • 原因解明と新規治療法開発を加速
    患者に近い性質(急速進行・薬剤抵抗性)を再現できるため、発がんの仕組みや環境要因の解析、薬剤の効果検証などに活用でき、新たな治療戦略の開発が期待されます。
     

概要

 広島大学病院の檜井孝夫教授らの研究チームは、まずマウスの大腸の表面細胞(粘膜)でのみ働く遺伝子スイッチ(CDX2プロモーター)を世界で初めて特定し、この仕組みを利用して大腸でだけ特定の遺伝子を操作できるマウス(CPCマウス)を開発しました。さらに、このマウスに大腸がんでよく見られる遺伝子異常(Apc変異)を組み合わせることで、大腸がんが発生・進行するマウスモデルを確立し、がん関連遺伝子の働きを研究してきました。

 今回の研究では、これに加えて別の重要な遺伝子(Pten)の異常も導入した新たなモデルを作製しました。その結果、従来モデルと比べて腫瘍の発生数が増え、半数の腫瘍がより深い層へ広がる(浸潤する)など、より悪性度の高いがんが再現されました。これにより、Pten異常ががんの進行を加速させる仕組みが明らかになりました。

 さらに、このマウスに特定のシグナル経路(PI3K-PTEN経路)を抑える薬剤(ラパマイシン)を投与したところ、腫瘍の発生が大きく抑えられることが確認されました。またヒトの大腸がんでも、良性の段階から悪性へ進む過程で同じ経路に関わる遺伝子異常が見つかり、この経路ががんの進行に重要であることが裏付けられました。
本研究で確立したマウスモデルは、治療が効きにくく進行の速い大腸がんの仕組み解明や、予防法・新しい治療薬の開発に役立つことが期待されます。

背景

 大腸がんは日本において罹患数・死亡数の多いがんで、年間約15万人が新たに診断され、男女合計で1位(女性2位、男性3位)の罹患数、年間約5万〜5万5千人が死亡し、男女合計で第2位、女性では第1位の死亡数となっており対策が急務となっています。
手術で切除が困難となった切除不能な進行再発大腸がんに対してEGFRやVEGF、HER2に対する分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤などが保険収載されていますが、治療抵抗性の大腸がんに対する新規治療薬の開発は重要な課題となっています。
 大腸がんの生物学的動態や新規治療薬の有効性の評価には、細胞培養実験が頻用されます。一方、がん細胞をとりまく血管新生や間質細胞などの微小環境や免疫細胞との関係が、薬剤の治療効果や予後に重要な影響を与えるため、それらを評価できるマウスモデルを確立することが求められてきました。しかし、これまでにヒトの大腸がんの発がんや浸潤を忠実に再現するマウスモデルを作ることは困難でした。
 研究チームは、大腸がん関連遺伝子として腸上皮細胞の分化に関わるホメオボックス転写因子CDX2の研究を行う中、そのプロモーター領域(CDX2P-9.5kb)に、マウスの大腸上皮細胞(粘膜)特異的に転写活性を持つ領域を発見し、この配列を利用して世界で最初の自然発生による大腸浸潤がんマウスモデル(CPC-APCマウス)を確立しました(Hinoi T, Cancer Res 67:9721-30 2007)。
 一方、ヒトの大腸がんでは複数の遺伝子異常が多段階に蓄積して発生するため(Fearon & Vogelsteinのモデル)遺伝学的に複雑で、まず2015年にRNAの発現解析により4つのサブタイプに分類したConsensus Molecular Subtype (CMS)分類が提唱され、その後2022年にシングルセルRNA解析により5つのサブタイプに分類したIMF分類が提唱され、これまで様々なサブタイプの特徴が明らかになってきています。このうちIMF分類でのiCMS3サブタイプは、PI3K-PTENシグナル異常などを特徴とした最も予後不良なサブタイプで、このサブタイプを忠実に再現するマウス疾患モデルの確立は、治療抵抗性・急速進行性大腸がんの治療戦略上、極めて重要と考えられています。

研究成果の内容

 研究チームは、大腸がんで高頻度に認められるApc遺伝子に変異を持つCPC-APCマウスに、別の大腸がん関連遺伝子(Kras, Braf, TgfbRII, Ptenなど)の変異を持つ様々な複合的遺伝子改変マウスモデルを作製し、その腫瘍の組織型や悪性度を解析したところ、高度浸潤がん(CMS3)や粘液がん(CMS4)などのサブタイプの特徴に一致したマウスモデルが確立できました(図1)。中でもCPC-Apc+Ptenマウスは予後不良(図2、3)の高度浸潤がんが発生し、PI3K-PTENシグナルに対する分子標的薬が著効する(図4)ことから、PI3K-PTENシグナル異常を持つ治療抵抗性・急速進行性の大腸がんに対して、抗腫瘍効果を持つ新規治療薬をスクリーニングする上で極めて有用と思われました。

今後の展開

 CPC-Apc+Ptenマウスモデルやその腫瘍から確立したオルガノイド(培養細胞株)を用いて、治療抵抗性・急速進行性の大腸がんに対する予防法や新規治療薬の有効性の検証を研究機関や製薬会社などがCRO(開発業務受託機関)を利用して、前臨床試験などの医薬品開発業務のアウトソーシングが可能な体制を構築中です。

発表論文

■掲載誌:Cellular and Molecular Gastroenterology and Hepatology
■論文タイトル:Colon-restricted Pten haploinsufficiency models PI3K pathway-driven invasion in colorectal cancer (大腸限定型Ptenヘテロ欠損モデルは、大腸がんにおけるPI3Kシグナル伝達経路を介して浸潤を促進する)
■著者:Haruki Sada†1,2(佐田春樹), Hiroaki Niitsu†3(新津宏明), Yuji Urabe4(卜部祐司), Hikaru Nakahara3(中原 輝), Masatoshi Kochi2,5(河内雅年), Naoya Sakamoto6(坂本直也), Yusuke Sotomaru7(外丸祐介), Hirotaka Tashiro1(田代裕尊), Shiro Oka4(岡 志郎), Hideki Ohdan2(大段秀樹), Eric R. Fearon8,(エリック R フィアロン) Takao Hinoi*3(檜井孝夫)
1. 呉医療センター中国がんセンター 外科 
2. 広島大学大学院医系科学研究科 消化器外科学
3. 広島大学病院 遺伝子診療科
4. 広島大学大学院医系科学研究科 消化器内科学
5. 東広島医療センター 外科
6. 国立がん研究センター 先端医療開発センター 臨床腫瘍病理分野
7. 広島大学自然科学研究支援開発センター
8. Department of Internal Medicine, Human Genetics, and Pathology, University of Michigan (ミシガン大学内科学・人類遺伝学・病理学)
†共同筆頭著者
*責任著者
 

【お問い合わせ先】

広島大学病院遺伝子診療科 教授 檜井孝夫
Tel/FAX:082-257-2019
E-mail:thnoi*hiroshima-u.ac.jp

 (*は半角@に置き換えてください)


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