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溝口 洋子 助教
遺伝子編集技術で新治療法の開発に挑む
私は広島大学病院の小児科診療医として臨床に立ちつつ、小児期に発症する先天性の免疫疾患についての研究も行っています。近年では特に、先天性好中球減少症という病気の治療法開発に焦点を当てています。現在は主に骨髄移植による治療法が適用されていますが、他者由来の細胞を移植することは拒絶反応などの大きなリスクが伴います。さらに骨髄移植時に用いられる強い抗がん剤投与による合併症も問題視されています。
この現状を打破するために開発を進めているのが、新たな遺伝子編集技術を活用した治療です。自身の細胞の一部を取り出し、病因となっている遺伝子をピンポイントで修復することが、近年開発された高度なゲノム編集技術で可能となりました。患者自らの細胞を活用するため拒絶反応が発生する可能性が低く、また強い抗がん剤投与による合併症を避けることが可能です。
社会が一つになり、病気と闘う子どもを支える
しかし、新治療法の実用化には長い時間を要します。今も闘病中の子供たちを支えるために、社会の理解とサポートが不可欠です。例えば入院中の学習について、小学生・中学生には病院で授業が受けられる院内学級制度がありますが、高校生以上の学生には存在しません。代わりに一部の高校では授業のライブ配信などを行っていますが、闘病生活では体調が優れず授業への参加自体が難しい日もあります。こうした取り組みだけでは学習の遅れをカバーすることが難しい中、入院中の生活に合わせた学習サポート体制の構築が大きな課題となっています。また、退院後に通常の生活に戻るためにも多くの支援が必要。広島大学病院ではそのうちの一つとして「復学カンファレンス」に取り組んでいます。患者が退院し学校に戻る際、担当の医師や看護師などが教員に身体面や学習面の現状を共有し、安全・安心に学校生活を過ごす準備をするのが目的です。
幼少期の入院経験は学習の遅れだけでなく、行事への参加機会や友人との交流の喪失につながります。この孤立感が復学や社会復帰の妨げとなるケースも少なくありません。読者の皆さんには、この現状を理解し、子どもたちの不安を軽減する手助けをしてほしい。「自分は一人ではない」と感じさせてあげることは、必ず心の支えとなります。
研究で使用する遺伝子導入装置。
CRISPR-Cas9で編集した遺伝子を細胞へ注入し、適応を目指す
PROFILE みぞぐち ようこ
- 大学院医系科学研究科に所属。
- 小児科診療医として臨床に携わる傍ら、小児血液・腫瘍、免疫学を専門に研究している。
- 近年の主な研究テーマは希少疾患の遺伝子治療開発。
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寺本 章伸 教授(ナノデバイス研究所)
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