• ホームHome
  • 広島大学病院
  • 【研究成果】がん放射線治療の「中断」が起きても治療効果を最大化 ~新規生物学的適応放射線治療(BART)の開発拡張~

【研究成果】がん放射線治療の「中断」が起きても治療効果を最大化 ~新規生物学的適応放射線治療(BART)の開発拡張~

本研究成果のポイント

 予期せぬ放射線治療の中断も考慮し、がんの治療計画を再構築するシステム「BART」の効果を拡張しました。

概要

広島大学大学院医系科学研究科 和田拓也 博士課程学生、広島大学病院放射線部 河原大輔 准教授、帝京大学理工学部総合理工学科 小金澤明登 准教授の研究グループは、放射線治療期間中に生じる中断による治療効果の低下を生物学的に補正する新しい技術を開発しました。
放射線治療では、治療期間の中断・延長によりがん細胞が再増殖し、治療効果が低下することが知られています。しかし、現行の放射線治療装置には、このような時間の経過までは考慮できません。
本研究では、mLQモデル(#2)を用いた補償計算に加え、複雑な3次元BED(#1)分布を扱うための独自アルゴリズムを開発し、BEDを予定されていた分布まで回復させるワークフローを構築しました。
本研究成果は、2025年10月欧州医学物理学会誌「European Journal of Medical Physics」に掲載されました。

<発表論文>
論文タイトル
Compensated biological effective dose in extended radiotherapy course via a time-modified linear quadratic model for biological adaptive radiotherapy

著書
Takuya Wadaa、b、 Daisuke Kawaharab、*、 Akito S Koganezawac、*、 NobukiI manod、 Ikuno Nishibuchib、 Yuji Murakamib

a Radiation Therapy Section、 Department of Clinical Practice and Support、 Hiroshima University Hospital、 Hiroshima 734-8551、 Japan
b Department of Radiation Oncology、 Graduate School of Biomedical and Health Sciences、 Hiroshima University、 Hiroshima 734-8551、 Japan
c Robotics and Artificial Intelligence Course、 Department of Integrated Science and Engineering、 Faculty of Science and Engineering、 Teikyo University、 Tochigi 320-8551、 Japan
d Department of Radiation Oncology、 Hiroshima University Hospital、 Hiroshima 734-8551、 Japan

掲載雑誌
European Journal of Medical Physics 
DOI番号
10.1016/j.ejmp.2025.105202
 

背景

 がんの放射線治療は、通常1カ月から2カ月にわたり、毎日少しずつ放射線を照射しますが、長期的な祝日や装置の故障、患者さんの体調不良により、治療を数日間中断せざるを得ない場合があり、その間にがん細胞が再増殖してしまい、治療効果(BED)が低下することが知られています。
臨床現場では、どれくらい放射線を照射するとがんに対しダメージを与えられるのかを「LQモデル」という計算方法で算出します。しかし、LQモデルには「時間の経過」の概念がないため、どれくらい中断するとどの程度BEDが低下するのか、低下したBEDに対しどれだけの線量を追加で照射すればもとにもどるのか把握することは難しく、正常組織を守りながら正確に補償することは困難でした。

研究成果の内容

 LQモデルに時間の経過の概念を組み込んだ「mLQモデル」という計算方法が存在します。これはLQモデルの計算方法に加え、どれくらい中断するとどの程度BEDが低下するのかまで考慮することができます。本研究ではこのmLQモデルを使用し、中断日数に応じて必要な補償係数及び追加線量を部位ごとに自動算出するシステム「BART」を構築し、その効果を検証しました。
 頭頸部がん81症例を対象に解析を行った結果、中断が生じた実際の治療期間ではBEDが4-10%低下することが示されました。そこに、本研究で開発したシステムを適応したところ、一度の計算だけで、当初の計画と同等の治療効果を持つ新たな治療計画を作成することが確認できました。また、補償後の周囲のリスク臓器への線量は許容値範囲内に収まることも確認されました。

今後の展開

 本研究により、治療期間の延長という臨床現場で頻繁に起こる問題に対し、生物学的な根拠に基づいた高精度な補償計画を迅速に提供することが可能になります。これは、生物学的適応放射線治療の実践的な第一歩であり、今後は他部位への応用、生物学的な個人パラメータの推定などを進め実装を目指します。

用語解説

#1 BED(Biological Effective Dose:生物学的実効線量)
放射線治療の効き目を示す生物学的な線量指標である。

#2 時間修復LQ(mLQ)モデル
放射線治療期間の延長による腫瘍の再増殖を数理的に捉えるようLQモデルを拡張したもの。中断によるBED低下と補償線量の計算ができる。

#3 SIB(Simultaneous Integrated Boost)
複数の標的に異なる線量を同時に照射する放射線治療の技術である。治療効率が高い一方で、BED補償計算は複雑になる。

図1 治療中断で不足するBEDを新技術によって元の状態まで回復することを示した比較図。(a)元の理想的な線量、(b)数日中断した線量、(c)2週間中断した線量、(d)我々のシステムで補償した線量

表1 治療中断が起きた場合、補償なしでは線量の評価指標が有意に低下するが、補償後は元の線量に回復するため評価指標の有意差が消滅する。中断無しの理想的な線量と補償後の線量が同等であることを示す。

病院放射線部 准教授 河原大輔
Tel:082-257-1545 FAX:082-257-1546
E-mail:daika99@hiroshima-u.ac.jp


up