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研究者への軌跡

地球と生命のフロンティアは身近にある

氏名:狩野 彰宏

専攻:地球惑星システム学専攻

職階:准教授

専門分野:地質学、古生物学

略歴:理学研究科助教授。理学博士。 1960年生まれ。東北大学理学部卒業、スットクホルム大学地質学・地球化学科博士課程修了。広島大学理学部助手を経て現在に至る。専門は地球史を通じた生命と地球環境の相互作用。約20年前から石灰岩の堆積作用と化石についての研究を開始し、最近は鍾乳洞や温泉も研究対象に含め、気候変動や地下生物圏に関するテーマも扱っている。また、2005年にアイルランドで行われた深海サンゴ礁の国際掘削調査では主席研究員を勤めた。競馬が息抜き。秘湯めぐりが大好人間。

 

私が留学していた20年ほど前、スペイン人留学生の友人がいました。かなり太めだった彼女は、「人はなぜ太るのか」という研究テーマについて朝から晩まで没頭していたのです。彼女にとって、自分のテーマは常に頭から離れないものだったらしく、「研究=私の人生」と臆することなく周囲に話してました。体型的問題はさておき、自分が熱中できるテーマについて仕事が出来た彼女は幸せだったと思います。私はそんな彼女を尊敬するとともに、一緒に赤ワインを飲みながら「私も生命と地球の進化という問題に大いにひかれている」と話をしていました。
「私たちを育む地球がいつどのように進化したのか」あるいは「人類はこれからどうなるのか」といった問題を考えない人はいないでしょう。その意味で、地球の過去・現在・未来を扱う地球科学者にとって、研究は単なる仕事ではなく、自然に沸き上がる興味の探求であり、その成果は自分自身の生き方に反映されます。このような幸せな研究活動に生きている私にとって、さらに幸いなことに、所属する地球惑星システム学科は多くの最新鋭分析装置を配備し、外部の研究組織と活発に連携し、高い研究環境を保っています。日々、フロンティアサイエンスに挑戦しているのです。
 

たとえば、私が深く関わっている統合国際深海掘削計画 (IODP) では、近年建造された「ちきゅう」などの掘削船を使って、地底にある未知の生物や資源、あるいは巨大地震の発生プロセスなどについて研究を進めています。 IODPは最も成功した国際研究プロジェクトとも言われ、実際、「気候変動」や「プレートテクトニクス」など今日の地球科学における常識を実証してきました。これからも、地球科学についての新しい事実が次々に明らかにされるでしょう。
私が2005年に主任研究員として参加した航海は、アイルランド沖の水深約1000mの海底に発達する「サンゴ礁」を掘削するというものでした。サンゴ礁と言えば暖かく浅い海に発達するのが常識でしたが、近年の海洋研究により、冷たい深海にもサンゴが普通に生息し、高さ200mにも達する礁を作ることが明らかになりました。この航海は、深海サンゴ礁を掘削する最初の試みだったのです。私達はサンゴ礁の中心に深さ数100mもの穴を掘り、堆積物や物理的情報を採集しました。研究は多くの欧米人と共同で行い「深海サンゴ礁の謎」について解明が進んでいます。おそらく、深海サンゴ礁は約250万年前に地球の寒冷化が進んだ時期に成立したのでしょう。サンゴ礁と寒冷化を直感的に結び付けるのは困難ですが、こうした掘削プロジェクトにより私達の常識が1つ覆されたわけです。欧米人を含む20余名の研究員を指揮して調査を進めるのは困難な仕事でしたが、貴重な成果と多くの友人が得たのは私にとって幸運なことでした。この様な魅力あるプロジェクトに参加するのは意外に容易であり、大学院生には広く乗船の機会が与えられています。
 

こんな華やかな国際プロジェクトの一方で、地球科学には地道な研究も必要です。たとえば、地質学の分野では、まず、岩石や地層の分布について調査を行います。都会から離れた山野で、川や林道に露出する岩石をハンマーで採集して、露頭の状況をノートに記載するという作業です。時によっては1か月以上も田舎に暮らし続けることもありますが、こうした作業を通じて大きな発見も得られます。約10年前に四国の山奥を歩いていた時がそうでした。私は、周囲の硬い岩石とは違った石が、川沿いに発達しているのを発見しました。その石はノコギリで切れるほど軟らかく、内部には規則的な縞模様が出来ていました。私はそれが水から沈澱したものと直感しました。そこで、帰って調べてみると、それはトゥファというもので、鍾乳洞から排出した水から沈澱する炭酸カルシウムであり、研究例が極めて少ないことがわかりました。その後、トゥファは私の重要な研究対象となっています。これまで、多くの学生との共同研究の結果、縞模様が木の年輪のようなものであることや、トゥファに昔の気温や降水量が記録されていることを解明しました。これらの成果は、国際的にも新しいものでした。特に、トゥファの気候記録は将来の変動予測に役立つ可能性を秘めているという点で重要だと考えています。
 

最近は温泉にはまっています。いくつかの温泉では、トゥファと同じような炭酸カルシウムの沈殿物が見られます。温泉は、現在より暖かく塩分濃度が高かった太古の海水と似ています。確かに、太古の時代には海水から炭酸カルシウムが活発に沈澱していた時代がありました。また、温泉から見つかる特殊な微生物は生命誕生時の昔からいる種類であるとも言われています。地球と生命のフロンティアは身近にあるのです。そんな太古の地球環境に思いをはせながら、山奥の秘湯で過ごすのは至福の時間でもあります。
 

参考:「研究室紹介」

http://www.geol.sci.hiroshima-u.ac.jp/~geohist/index.html

http://www.geol.sci.hiroshima-u.ac.jp/~geohist/kano/index.html


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