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研究者への軌跡

化石に魅せられて

氏名:白石 史人     

専攻:地球惑星システム学専攻

職名:助教

専門分野:地質学、古生物学

略歴:1979年愛媛県今治市生まれ。広島大学理学部卒、ゲッティンゲン大学地球科学地理学研究科博士課程修了。理学博士。
広島大学大学院理学研究科研究員、日本学術振興会特別研究員を経て2011年11月より現職。

 

幼少時~大学入学
私が子供時代に憧れていた職業は大工(匠の世界が格好よかったから)、ホルン奏者(楽器の形状が気に入ったから)、ゴミ収集業者(作業員のおじさんが飴をくれたから)などでしたが、特に強いこだわりがある訳でもありませんでした。そんな中、小学校低学年の時にNHKで放送された「地球大紀行」を見て、化石に興味を持つようになりました。そして親に頼んで、松山で開催された番組展覧会に連れて行ってもらい、三葉虫の化石を買ってもらいました。この化石を眺めながら、ずっと昔には全く異なる生物がいて、その痕跡がこんなにもはっきりと残っているということに、子供心に感動しました。その時から、将来は古生物学者になりたいと思うようになりました。ただ残念なことに、私が住んでいたところはマグマ起源の花崗岩地帯で、近くに化石の産地はありませんでした。いつしか熱意も冷め、高校生になる頃には何となく公務員になりたいとしか思わなくなっていました。
 

そんな時、 NHKで「生命 40億年はるかな旅」が放送されたのです。地球大紀行の放映時から10年足らずで驚くほど研究が進んでおり、私の中に眠っていた化石愛が復活してきました。しかし高校生にもなると、古生物学者になることが容易ではないことは想像に難くなく、幼少時のように無邪気な夢を描くことはできませんでした。それからしばらくは将来を考えて悶々とする日々が続き、二次試験の出願直前まで工学部、農学部、水産学部、理学部の生物系と地学系のうち、どれにするかで悩んでいました。結局は父親の「本当に好きなことをすればよい」というアドバイスを受け、広島大学の地球惑星システム学科を受験することに決めました。
 

学部~修士
入学後は研究者を目指して頑張ろうと決意を新たにしていたのですが、ひょんなことから体育会テニス部に入部することになり、テニス漬けの毎日を送ることになってしまいました。結局1~3年生の間はまともに勉強した記憶がありません(もちろん勉強と部活を両立できる人もいるのですが)。ただし、厳しい部活動で培った礼儀と根性は、その後の研究生活で活きることになりました。このように勉強面では不真面目な私でしたが、3年時の夏休みに先輩に恐竜発掘のアルバイトに誘ってもらえたのは幸運でした。ここでは同世代の化石好き・研究者志望の学生が全国から集まってきており、彼ら彼女らの研究内容や考え方に触れられたことで、研究者になるための具体的道筋が少しずつはっきりしてきました。
 

4年生になると部活も引退し、卒業研究が始まりました。研究テーマは指導教官の勧めにより、四国に分布するジュラ系石灰岩になりました。石灰岩とは炭酸カルシウム骨格をもつ生物(サンゴなど)の化石の集合体なのですが、化石を見栄えよく単離することは難しく、正直あまり“萌え”ませんでした。それでも研究に渇望していた私は、勢いに任せて石灰岩に含まれる化石を片っ端から調べていきました。すると幸運にも、日本では未記載の微生物化石を多数発見することができたのです。大学院修士課程に進学後も研究を継続し、ついには記載論文を完成させました。このころになると、石灰岩に含まれる化石の形態的・化学的保存性の良さに魅了されるようになり、また自分で研究を進める楽しさも分かるようになりました。欲望のままに研究する一方で、微生物化石というマニアックなものを研究していてメシが食えるのか、という不安もありました。周りでは同級生が次々と就職を決めていたことも、焦りを感じさせました。そんな折、指導教官がドイツ留学の話を持ってきてくれたのです。ただし、留学に際しては研究テーマを「河川に形成される炭酸カルシウム沈殿物の研究」という、古生物学とは一見程遠いものに変更する必要がありました。研究者になるという目先の目標を追い求めるあまり、それ自体が自己目的化してしまっては本末転倒ではないかとも思いましたが、閉塞感を打破したいという思いもあり、すぐに留学を決意したのです。
 

留学後~現在
ドイツでは微生物学の研究水準が高く、その手法を地質学や古生物学に応用する試みが当時すでに始まっていました。私の研究目的も、ドイツに見られる河川沈殿物と微生物の関わりを明らかにすることでした。異国の地で馴染みのない手法や試料を取り扱うのは大変でしたが、ドイツの指導教官や同僚らの助けを借りながら研究を進めていきました。
 

その結果、河川沈殿物がバクテリアの光合成で形成されていること、またそれは約6~35億年前の地層に頻繁に見られるストロマトライトという微生物化石に類似していることが明らかとなってきました。古生物学とは一時的に縁を切る覚悟で留学したわけですが、結局は卒業研究で発見した微生物化石の成因解明にもつながる大発見となったのです。実はこのストロマトライト様沈殿物は、岡山県や広島県の山中でも発見されています。また、日本各地の温泉にも同様の沈殿物が見られます。私は現在、これら沈殿物の形成過程を調べて化石記録と比較し、生命と地球環境の進化を明らかにすることを目指して研究を進めています。
 

こうして振り返ってみると古生物学者になるという幼少時の“夢”は、広島大学入学を境に“目標”へと変わったことに気づかされます。そして多くの方々からのご指導や励ましを頂くことで、目標を達成することができました(もちろん学問的目標はもっと先にあるわけですが)。
どうでしょう、みなさんも広島大学で夢を実現してみませんか?

(2012.6.12)


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