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研究者への軌跡

岩石が語りかける地球の歴史

氏名:清水 洋

専攻:地球惑星システム学専攻

職階:教授

専門分野:地球化学

略歴:1946年福岡県生まれ。名古屋大学院理学研究科修士課程修了。鳴海製陶株式会社、神戸大学理学部地球科学科(教務員・助手)、東京大学理学部化学科(助手・講師・助教授)、熊本大学理学部地球科学科・環境理学科(助教授・教授)を経て現在に至る。1999年日本地球化学会賞受賞(地殻の初期進化に関する地球化学的研究)。岩石や水に含まれている元素を調べ、地球の過去と現在の姿を化学的に研究している。これらの研究により、地球の未来像を予測する手がかりをつかみたいと思っている。

 

神戸大学理学部地球科学科から教務員の話が舞い込んできたのは、鳴海製陶株式会社での勤務が3年数カ月たっていた時でした。この話を引受けて、神戸大学に着任した1974年9月が、大学での教育研究にたずさわる人生の始まりです。
私の学生時代は大学紛争が盛んな頃で、大学とは何かと各自が問いかけていました。そして大学院の修士課程終了時に進学が就職か迷いましたが、大学よりも会社の方が組織としての目的が明確に思え、会社に就職しました。
神戸大学から話があり、再度「大学か会社か」について迷いました。大学は組織としての目的が不明確になりがちですが、考え方が異なっていても各々の立場を尊重することが多いと、会社勤務の体験から実感していましたので、大学の方が自分のペースでやれると思い、将来に対する不安感を抱きながらも、会社を辞めて神戸大学へ行く決心をしました。
 

神戸大学理学部地球科学科で7年、東京大学理学部化学科で11年の後、熊本大学地球科学科に移りました。これらの転勤は、自発的なものではなく、周囲の状況(一緒にやっていた教授の転任と退職)によるものでしたが、その度に、身の振り方について迷いそして決断をくり返しました。この間、岩石中に微量に含まれている元素を用いて地球の成り立ちや地球の過去の様子を探るテーマ研究を進めていました。岩石に含まれている元素を手がかりにして、地球誕生直後の数億年の間の地球の様子や、数億年前の海洋の様子を解きあかす科学的な謎解きです。地球誕生直後の数億年の間に形成された岩石や数億年前の海水は、現在残っていません。しかし今、私達が手にする岩石が、誕生直後の地球の様子や数億年前の海洋環境など地球の歴史を語りかけてくれます。岩石の化学的特徴が、いつの時代のどのような出来事を表しているのかを確かめ、地球の歴史をたどっていきます。
 

熊本大学理学部地球科学科在籍時の1995年に発生した阪神・淡路大震災では、神戸大学時代の知人が亡くなりました。地震による大きな被害を目の当たりにして、地球科学にたずさわる者として、実社会とのかかわりの少ない研究のみに没頭していて良いのかと反省しました。また、熊本大学理学部の改組で、環境理学科の設置に関わることになり、自然科学の基礎研究と社会との接点について考える機会が多くなりました。従来の研究テーマを継続しつつ、同じ研究手法・手段を用いて、「元素の地層中での移動」や「黄砂の運搬」等、多少は環境科学に関連した研究を始めました。環境理学科設立から1年後に広島大学に移ることに決まり、1年間の併任を経て1999年に、7年間お世話になった熊本大学から、広島大学に移りました。
 

名古屋大学、鳴海製陶、神戸大学、東京大学、熊本大学、広島大学と転々としましたが、私にとってこの間の「学問とのであい」は、「人とのであい」でもありました。色んな人に出会い、その方々に助けられて、何とか今まで大学での教育研究生活を送ることが出来ました。多くのことを多くの人から学びました。そして、「次世代の人材育成」が、大学の重要な役割であり、そしてその基盤として質の高い研究が重要であるとの認識を、様々な機会を通して深めました。
今年(2006年)10月に、中学時代の同級生の集まりに出席しました。普段は、同級生の集まりや同窓会等にはほとんど顔を出しませんが、今回は友人から「還暦を迎え、同級生の集まりを卒業以来はじめて行うので、是非出てこい」と、何度も誘いを受け、出席することにしました。当時の在籍者約350名の内、集まった約55名の同級生の大部分の人とは、45年振りの再会となりました。思い出話しに花が咲きましたが、その話を聞きながら、私自身の本質は、中学時代から変わっていないとの印象をもちました。人生の節目節目で迷いながらの人生でしたが、結局は自分のやりたい道を自分流に歩いてきたのかなと述懐しました。同級生との45振りの再会は、45年前の中学時代の自分自身との再会であり、自分の本質は何も変わっていないことを再認識する機会となりました。
学生さんが就職や進学など進路に迷っている時、私は次の様に話します。「自分は何をしたいのか」と素直に自分に問いかけて、自分の進む道を選んで下さい。


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