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研究者への軌跡

末は博士か大臣か??

氏名:北川 隆司

専攻:地球惑星システム学専攻

職階:教授

専門分野:

略歴:

 

「末は博士か大臣か?」 あまり聞かれなくなった言葉です。現在では石を投げたらあたるくらい、博士は増えました。よって大学や国、企業の研究所で研究している人たちは昔に比べて沢山います。さらに、研究者を目指す希望者はそれをはるかに上回ります。それは何故なのでしょうか? 与えられた仕事をこなす一般の職業に比較して自由があり、自分の目標に向かって仕事ができるからでしょうか。好きなように自分で決めた時間を設定し、仕事ができるからでしょうか。しかし、やっぱり研究が好きで、ロマンを感じるからでしょうね。同じ好きでも、研究そのものが好きな人と、ある特定の研究が好きな人がいます。さらに物が好きな人と、理論が好きな研究者がいます。
 

ところで、自分はどうなのだろうかと考えてみます。私の母親は自分が言うのもおかしいですが、大変に頭の良い人でした。小学校の時には母と一緒に毎日アサガオを観察し、それをノートに付けたり、庭の植物を細かく観察することを教えてくれました。この時に物を観察する楽しさを母親から学びました。また、母方の伯父さんは鉱物をコレクションしていまして、いつも訪ねると鉱物を取り出して見せてくれました。また、友人のお父さんが南極に行って採取してきた小さな石のかけらを友人からもらって、ロマンを感じ、今でもそれらは大切に持っています。こうして現在、鉱物コレクターになってしまいました。小学生の時には近くの山に登り、水晶を採ったり、方解石を採りに行ったのを思い出されます。こうして鉱物好きな少年となったわけです。私はこの頃から将来は大学の研究者を目指そうと心に決めていました。
中学から高校に入り、地学(天文を含む)の講義が始まりました。鉱物好きな私はその講義が大変好きで、自慢ではありませんが、学年で地学の試験だけはいつもトップでした。こうして地学か天文分野のある大学に入ろうと決めました。最初は地学か天文のどちらに進もうかと迷いました。しかし、天文学では、実際に物を触って観察できないと思い、やはり好きな鉱物や地学を勉強しようと考え、地元の広島大学の地学科を目指しました。
 

広島大学の理学部地学科には当時(1960年後半)4つの講座があり、いずれの講座も岩石、鉱物、化石など、物を直接観察することにより、研究できる学科でしたので大学生活は満足していました。4年間の学部生活を終え、修士課程(現在の博士課程前期)、そして博士課程(現在の博士課程後期)と進学し、ますます研究のおもしろさを実感しました。当時は博士課程に進学する学生は、今のように定員の数合わせではなく、本当に研究者を目指す学生でした。もちろん、今は違うと言っているのではありませんが。また、学位(博士の称号)を取得するには、10年くらい要するのは当たり前で、修士課程と博士課程の間には非常に高いハードルがありました。しかし、現在は一般的に3-4年で学位を取得できます。博士になるのは比較的楽??かな。
博士課程の時代、大学での講義を受ける必要もなく、ひたすら研究に打ち込めるのですから、こんなに楽しいことはありません。調査や実験する毎に、毎日新しい事実がわかるのですから。一つ新しいことを知れば、また一つ疑問がわいてきます。毎日がその繰り返しでした。フィールド調査に行き、試料を採取し、持ち帰って実験する。頭はいつも研究のことを考えていました。実験して問題が出ると直ぐにフィールドに出て、もう一度調査観察し、疑問を解決する。この時期が本当に楽しかったです。そのように過ごした博士課程の3年間はあっというまに過ぎてゆきました。丁度そのころ、私が属していた鉱物学講座の助手の席が運良く一つ空きました。教授たちは内部での採用を決めていました。競争相手は先輩、後輩1人ずつ、運良く私が選ばれました。運も実力?のうちと言われますが・・・。採用の理由の一つに、私の研究方法である、自然にある物を見て考え、研究する手法が当時の先生方に認められたようです。当時の地質学鉱物学教室(学部は地学科)では、最も大切な研究のモットーでした。
 

ところで、地学、地質学鉱物学、地球惑星システム学と名前が変わってきました関係で、広島大学でも地球化学や地球物理学の分野の研究者が増えてきました。その方向は世界的に地球科学全般にわたりました。その結果、研究手法や目的が大きく様変わりしました。これまでの狭い地域での研究から、地球全体を見つめた研究へと研究目的が進化してきました。しかし、私は目の前の地球科学的現象を説明できないのでは、地球科学者の意味がないと考えています。ですから相変わらず物を観察する研究を進めています。これは大学の研究者のみが可能な良いところだと思います。しかし、世の中の研究の流れにのらないと、研究費がもらえないといった、問題は残りますが・
地球科学の一分野の研究者になって良かったと感じるのは、自分の興味で仕事ができることです。最近はほとんど実験室にこもって研究する地球科学の研究者が多くなっています。しかし、時にフィールドに出て新鮮な空気を吸いながら、美しい自然に接して調査する時に、大きな喜びを感じます。また、新しい知見が得られた時の喜びは、何とも言い難いうれしさがあります。最近は雑用に追われて、研究があまり出来ないですが苦しいですが、小さなことでも誰も知らなかったことを自分が初めて知る喜びは本当に楽しいものです。やっぱり研究者になって良かったとつくづく実感しています。


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