大学院先進理工系科学研究科 河野 七海 さん

取材日:2026年2月19日

先進理工系科学研究科の河野七海さんにお話を伺いました。
河野さんは、令和6年7月に広島大学女性科学技術フェローシップ制度の理工系女性M2奨学生に採用され、令和7年度からは理工系女性リサーチフェローとして支援を受けています。また、令和8年度からは、日本学術振興会の特別研究員に内定しています。
今回は、河野さんに、博士課程後期で実施している研究や生活の様子など、様々なお話を伺ってきました。(記載の情報は取材時点のものです。)

博士課程後期の研究内容について 

河野さんの研究内容について教えてください!

細胞外小胞と呼ばれる、我々の体や組織を構成する細胞が分泌するとても小さな球状の小胞について研究しています。細胞外小胞は細胞膜と同様、脂質からできた膜構造を有していて、その中には、タンパク質や遺伝子などの機能性分子が生命の情報として詰め込まれています。そして、これら機能性分子を近隣、もしくは遠方の細胞へと送達することで生命情報を伝え、その結果、受容した細胞の働きや機能を変えることができるのです。特に、iPS細胞のように多様な細胞へと分化する機能を有する間葉系幹細胞から分泌される細胞外小胞は、損傷した組織を修復する力を持っており、再生医療への応用が期待されています。
しかし、実際に医療現場で使うには、安定性や効果のコントロールなど、いくつかの課題があります。私たちは化学の力でそれらを解決し、細胞外小胞をより安全で効果的に利用する方法を研究しています。さらに、ドラッグデリバリーシステム(DDS)という、細胞外小胞に薬を搭載して「薬の運び屋」として利用し、必要な場所にだけ届ける新しい医療技術の開発にも取り組んでいます。

このテーマを選ばれた背景を教えてください。

中学生の頃に医療ドラマをよく見ていて、医療系の仕事に就きたいと考えていましたが、高校生の時に進路を考える中で、自分の強みは医療従事者とは異なる分野で生かせるのではないかと思い、工学部第三類に進学しました。その後、最も興味を惹かれた応用化学プログラムに進み、現在の有機超分子化学研究室に所属しました。
この研究室を選んだのは、がん治療や再生医療に関する研究を行っていると聞き、化学分野から医療の発展に貢献したいとの思いが再燃したからです。テーマそのものは、研究室所属後に提示された、いくつかの研究テーマの中から、なんとなく面白そうだな、楽しそうだなと思って決めました。

今の研究テーマから医療に貢献できると感じる点は何ですか?

機能は優れていても、使うことができない薬剤は多数あります。化合物が水に溶けないために使えないということが多いのですが、水に溶けないものを例えば構造物の組成を少し変えて水に溶けるようにしてアプローチを変えていく、あるいは水に溶けにくい薬剤を水溶性の多糖などの長い鎖で包むことによって水に溶けるようにするなど、お医者さんや薬剤師さんが「ちょっと使えないな」と諦めてしまうものを新たに使えるようにするという点が非常に魅力的で、医療に貢献できる点かなと思っています。

研究の面白さ、苦労について教えてください。

私の性格上、進んだ実感が全くないというのが苦手なので、想定通りであろうとなかろうと、結果が出た時が一番嬉しいです。何がその結果に関係していたのか、一から考え直して検証していくという、ステップバイステップの過程が楽しく、黙々とそれに向けて手を動かすことが自分に向いているなと思います。
ただ、研究対象である細胞外小胞は細胞から出てくるものですので、構造に均一性がなく、絶対にこれが入っているとは言えないという面があります。例えば少し環境が異なるだけで違うものが出てくるため、それが今どういう状態なのか、なぜそうなのかと聞かれると非常に難しいです。総合的に、相対的に見て効いているという評価しかできないので、じゃあ絶対にこれは効いているのかと言われると、そうとも言い切れないところは、ちょっと苦労するところではあります。

河野さんが研究を行う様子

博士課程後期の生活について 

毎日のスケジュールについて教えてください。

研究室のコアタイムは10時からで、19時〜20時頃に帰ります。
メリハリをつけたいので、基本、研究は研究室でしかやらないようにしていて、家ではリラックスして過ごしています。
土日に研究室に来るのもなるべく避けたいと思っていますが、どうしても必要な時は、数時間だけ来て実験をして、終わったらすぐ帰るようにしています。

研究室の雰囲気はどんな感じですか?

構成としては教員が3人、博士課程後期2年が1人、1年が1人、博士課程前期2年が4人、1年が6人、学部4年が4人です。
一人ひとりが自分の研究テーマに取り組んでおり、共通する薬品を作る時にローテーションしたり、こういう合成をしたいという時に、以前合成をした先輩にアドバイスを求めるという感じで協力しています。

休日はどのように過ごしていますか?

私の趣味は吹奏楽で、クラリネットを演奏しています。中学・高校と6年間、吹奏楽をしていて、大学では離れていましたが、1年ほど前に再開しました。音楽を通して仲間と一つの演奏を作り上げることにやりがいを感じ、休日には近所の吹奏楽団の練習に参加しています。そこでは技術の向上だけでなく、合奏を通じたコミュニケーションも大切にしています。

研究活動での英語の使用について教えてください。

英会話教室に通っていたこともあり、高校までは英語には結構自信があったのですが、大学に入って触れる機会が減ったせいか、博士課程後期進学のためのフューチャープランを英語で発表した時には英語力が落ちているのを実感しました。それで危機感を抱いて、今はオンライン英会話教室に登録して勉強しています。高校で作った英語力の土台を崩さずに残して、さらに向上させていくには、大学に入ってからも英語に触れ続ける努力が大事だと思います。

学会への参加について教えてください。

これまでの研究で、第41回日本DDS学会学術集会ポスター賞、第74回高分子学会年次大会優秀オンデマンド賞など、様々な学会で賞を受賞しました。
学会ごとに様々な特色があり、例えばDDSの学会だと薬剤を送達する化学系の内容が多く、「今はAの材料を使っているけど、Bの材料も使えそう」といった新しい発見に繋がることがあります。また、学会への参加は、研究者同士の新たなコミュニティの形成や、異なる立場の人の意見を聞ける、貴重な機会となっています。

博士課程後期への進学について

博士課程後期への進学を決めたきっかけを教えてください。

大学入学当初から、将来は研究職に就きたいなと漠然と思っていたのですが、学部3年の頃にそれが明確になり、博士課程後期進学を意識し始めた時に、今は女性科学技術フェローシップ制度や広島大学創発的次世代研究者育成・支援プログラム(次世代フェロー)など支援制度が充実していると聞きました。やはり金銭面がネックではあったので、生活費相当額の支援があるということで、博士課程後期進学が現実味を帯びてきました。
それと、修士修了で研究職に就いている人がそんなに多くないということが分かったということがあります。修士を修了しても必ず研究職に就けるわけではないのだと思い、確実に研究職に就くために博士課程後期に進学しようと考えるようになりました。

進学について、不安はありましたか?

不安は特になかったですね。研究室の同期で唯一の女性が研究室を出ることには寂しさを感じましたが、別の研究室にも仲の良い友人がいて、同じように進学したことも安心に繋がりました。
むしろ進学後の今になってからの方が不安を感じます。博士というブランドに見合った知識や技術を自分が身に付けているのか、考えてしまうことがあります。

どんな人に博士課程後期への進学を勧めますか?

まず、今いる研究室が好きかどうかは大事だと思います。環境が自分に合っていないと続きません。
性格面だと、塞ぎ込まないタイプの方が向いていると思います。何か困難に直面した時に自分の殻に閉じこもったりせず、すぐに友達と話し合ったり、自分で新しいコミュニティを形成していけるような人です。周囲を気にして、友人たちが就職して働いているのに、などと考えるのではなく、自分は自分だという芯をしっかり持っている方がよいと思います。

将来のキャリアパスについて

将来はどのようなキャリアパスを考えていますか?

現段階で、詳細にはまだ決めていません。幸いにも、修士修了後に製薬会社に就職した友人や博士課程後期修了後に広島大学で助教をされている先輩がいるので、色々な話を聞いて決めたいと考えています。ただ、自身の研究を社会で役立てる形にしたいと考えているため、製薬会社への就職に関して重点的に情報収集を行っているところです。実際に商品化に向けて進んでいる、というモチベーションが得られそうな点が企業への就職に惹かれている理由です。

女性科学技術フェローシップ制度について

女性科学技術フェローシップ制度に採択されるまでの準備について教えてください。

学振の申請書類を書いていたので、その要領で申請書を作成することができました。女性科学技術フェローシップ制度には面接審査があったのですが、面接は学会のポスター発表をする意識で臨みました。学会のポスター発表は、もちろん自分の研究に関する理解や、こういうことをしたいという意思も大切ですが、興味を持って前向きに研究をしている点が評価されやすいと感じていたので、自分の研究にどれだけ自信を持っているか、楽しく研究できているかを見てもらうことを意識しながら面接の練習をしました。
(注:河野さんが女性科学技術フェローシップに応募された時の応募締切は、博士課程前期2年の5月でした。)

女性科学技術フェローシップ制度についてコメントがあれば、お聞かせください。

私自身はフェローシップ制度がなければ間違いなく進学していなかったと思います。博士課程後期に進学する人にとっては、とても利がある制度、選択肢が増える制度だと思っています。

理工系に進学する女性を増やすために思うことはありますか?

理系が好きな女性を増やすためには、初等教育から見直す必要がありそうですが、それでも大幅に増えることはないかもしれません。
女性には、結婚・妊娠・出産に関する克服できない課題があると思います。それに関して今、様々な試みもなされていると思うのですが、それでも限界はあり、やはり男性と比較した場合のハードルの高さは、どの時代になっても変わらないように思います。時代の風潮として、結婚や出産をしないという選択も増えているとはいえ、女性が妊娠・出産をするという前提がある以上、男性と同程度の人数になるのは難しいかもしれないなと思います。

博士課程後期を目指す学生へのメッセージ 

最後に、博士課程後期を目指す学生たちにメッセージをお願いします!

「やりたいことをやりましょう」と言いたいです。何事も適度に楽観的に、適度に真剣になることが大事です。やってみないと分からないこともありますし、とりあえずやってみて、無理なら無理でもいいと思います。学生の間は失敗しても取り返しがつく立場なので、うまくいかなかった理由など、自分自身について考え続けていくことの方が大事です。意外に自分のことは分かっていないことが多いので、何がしたいか、何が得意かを理解するためにも一歩を踏み出してみてください。

取材者感想

「河野さんは、細胞外小胞を活用した再生医療やドラッグデリバリーの研究に取り組まれており、「お医者さんが諦めることを諦めない」という言葉が強く印象に残りました。想定外の結果であっても、それを一歩前進と捉えられている姿から、研究に対する前向きさと粘り強さを感じました。また、「やってみることが大事」という考えのもと、自分のやりたいことを軸に進路を選択されてきた点もとても印象的でした。楽観的な姿勢と、自分なりの基準を持って行動する姿から、多くの学びを得ました。」(総合科学部総合科学科2年・迫田莉子さん)

「始めに河野さんの研究資料を拝見したときは、細胞化学なんて難しそうと思いましたが、実際にお話を聞くと生物や医療的な要素もあって複合的な分野ということが分かりました。個人的には、研究内容もさることながら、河野さんのさっぱりとした人柄も魅力的で、良い意味で楽観的なところが博士課程での研究生活にも活かされているのだろうなと思いました。確かに、自分は自分、他人は他人と割り切れる人でなければ、周囲が就職していく中で自分だけ長く学生でいることに不安を感じかねないので、「自分軸や芯がしっかりある人には博士課程への進学を勧める」と仰っていたのは、とても腑に落ちました。後輩に向けたメッセージの中にあった「真剣度と楽観度のバランスを適度に」というお言葉、私も大切にしようと思います。」(総合科学部総合科学科1年・小林芽衣さん)

左から迫田さん、河野さん、小林さん


up