人間総合科学プログラム

 地球温暖化,環境破壊,地域紛争,テロリズム,南北問題,エネルギー問題など,例を挙げれば限りなく存在する現代社会の諸課題は多様であり,国家や地域,民族を超えて,また自然と社会,人との相互作用の中で,複数の要因が複雑に絡み合って存在している。そのため,特定の研究領域からだけのアプローチでは,その全体像を把握し,解決に向けての対策をとることは不可能である。しかも,問題の理解や解決が特定の側面に偏る場合もあり,そのことにより新たな問題を引き起こしてしまうというリスクのトレードオフを生じさせる危険性がある。それゆえ,多領域からの複合的な分析と対応のシミュレーションを元に,課題解決のコストとベネフィットを多面的に評価し,最も効率性が高く有用な対応を選択する能力が求められる。そのためには,現象を俯瞰的・多面的に捉え,どのような研究領域の協働が課題の分析や解決に必要であるかを把握し,自らの専門性を基盤としつつも他分野との協働のできる能力を涵養することが必要となる。そこで,人間総合科学プログラムは分野横断型教育を行うことで,特定分野の専門性を獲得することに加え,研究分野の枠を超えた知識や方法論も有し,他領域の専門家との協働を通して現代社会の抱える諸課題に対応することのできる人材を育成することを目的とする。本プログラムは,学問分野の枠を超えた学際プロジェクトを展開する。学生は,教員とともに研究プロジェクトに参加することで,中核となる専門分野に関する深い知識と方法論を獲得することに加え,多角的・多面的に捉える複合的視点及び異分野と協働することのできる能力を涵養する。

 博士課程前期においては,各プロジェクトで開講されている授業科目を中心に履修をすることで,中核となる専門的知識や方法論を習得するとともに,関連領域の授業科目を履修することで異分野と協働するための幅広い知識や視点を獲得する。また,プロジェクトの研究に参加することを通して,研究チームの一員としての役割を担いながら,自分のテーマに関する研究を行う。

 博士課程後期では,プロジェクトに参加して中核的に研究に携わり,自分のテーマについての研究を深めていく。また,指導教員の指導のもと関連領域の授業科目を履修することで,研究の幅を広げるとともに複合的な視点から異分野との協働を行う能力をさらに涵養する。

研究・教員紹介

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入試情報

学生便覧

《研究プロジェクト》

 現代社会の抱える諸問題を解明・解決するためには,問題へ直接的にアプローチするだけではなく,その問題の顕在的・潜在的側面の多面的理解が必要である。

 そのためには,問題と関わる人間について理解すること,問題が生じている地域の特徴やその歴史的背景について理解すること,社会の在り方や環境との相互作用について理解することが重要な課題となる。具体的な問題に関連するこれらの潜在・顕在要因を多角的に把握し,それらを俯瞰的に捉えつつも焦点化した研究を行うことで,新たな着想での問題の理解や対応策に結びつくものと思われる。

 人間総合科学プログラムでは,人文社会学系を基盤として理系の視点や知識を応用して,人間,地域・文化,環境・社会という3つの切り口から現代社会の諸問題を探究する以下の3研究プロジェクトを設ける。

<心身と言語研究プロジェクト>

 社会で起こる様々な問題に主に関わっているのは人間である。多くの問題は人が原因やきっかけとなって引き起こされ,その問題を人が媒介・拡大し,結果的には人に影響を及ぼす。人の諸活動の何が社会と関連し,どのような影響を与え合うのだろうか。社会の諸現象を理解する上で人の諸活動を理解することは,重要な意味を持つ。 

 本プロジェクトは,人間活動の包括的理解を目的として,人間の心理的活動・身体運動・言語コミュニケーションの3つの分野を中核として社会科学や生命科学,環境科学等との連携のもと,人間の心と身体の仕組みと働き,言語の多様性と普遍性,及びそれらの関連性について解明する研究を行う。心理分野では,人の心や行動について,生理・認知・臨床・社会の側面を中核として多角的に人の行動についての検討を行う。身体運動分野は,生理反応と身体運動のメカニズムの解明をはじめ,心理状態と身体運動の相互作用という心身相関の解明を目的とする。言語分野では,思考やコミュニケーションを可能にする言葉の仕組みや働きを,認知・運動・音声などとの関わりを中核として,人のコミュニケーションについて多角的な研究を行う。本プロジェクトでは,心理・身体運動・言語コミュニケーションに関して,生理反応から社会応用場面といった幅広い視点と多様な知識を持った上で,人間行動に関するそれぞれの現象や相互作用を解明することを目的とする。

<地域と文化研究プロジェクト>

 科学・情報技術が発展してグローバル化が進む現代社会は,その恩恵によってますます豊かになっている。他方で,社会の様々な場面で歪みと矛盾,格差や軋轢が生じ,乗り越えなければならない多くの課題を抱えつつある。こうした諸問題に適切に対応するため,それぞれの「地域」が歩んできた歴史と,そこで培われた人間の「文化」に対する透徹したまなざしと深い見識を持ち,それらを通して人間の生を根源まで見据え,人と社会の将来を見通す洞察力や解析力が求められている。また,諸課題に対応するためには,地域や文化を超えて,異なる価値観を有する人々との協働が不可欠である。本プロジェクトでは,そうした時代の要請に応えるべく,歴史・文学・思想・芸術・倫理・哲学・宗教・行動心理・自然環境など多様な視座から,人間社会を理解し,あるべき未来像の構築を目指して,人間そのものと地域に根ざした文化の研究に取り組む。

<文明と環境研究プロジェクト>

 環境破壊,人口・エネルギー問題,民族・宗教・国家間の紛争や対立,格差・貧困問題,頻発する自然災害など,現代世界はさまざまな問題や課題を抱えている。これらの諸課題を理解し,克服していくためには,現在の事象のみに目をとらわれることなく,人間の営みの総体としての文明と,人間の生を取り囲む自然・社会環境との複雑な相互関係の観点から,複数の視点と方法を融合させながら粘り強く解明していくことが求められる。また,多様な文明や環境との共存を図りながら問題を解決していくことが,持続可能な対策となるためには必須である。本プロジェクトでは,宗教,文化,社会,経済等に関わる研究分野の専門性に立脚しつつも,自然科学を含むそれ以外の分野の知見や方法をも取り入れていくことで,ローカル,グローバルなレベルで生起する文明及び文化と環境の複雑な相互作用を分析し,さらにそれぞれの持続可能なあり方を模索することを目指す。


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