取材日:2026年2月20日
統合生命科学研究科の深見澪さんにお話を伺いました。
深見さんは、令和7年度に広島大学女性科学技術フェローシップ制度の理工系女性M2奨学生として採用され、支援を受けています。また、令和8年度からは、日本学術振興会特別研究員に採用されることが決まっています。
今回は、深見さんに、博士課程前期で実施している研究や生活の様子など、様々なお話を伺ってきました。(記載の情報は取材時点のものです。)
博士課程前期の研究内容について
深見さんの研究内容について教えてください!
乳牛の子牛に関する研究を行っています。皆さんが日常的に飲んでいる牛乳は、乳牛が分娩した後に出るお乳です。ヒトと同様、乳牛も分娩をしなければ乳を出すことができません。乳牛は初めての分娩までに約2年を要し、この期間は乳による収益が得られない投資期間となります。私の研究テーマは、分娩後により多くの乳を生産できる乳牛に育てる方法についてです。特に夏場の暑さによって子牛も夏バテをし、食べる量が減り、体重も減り、分娩後の乳の量も減ります。
現時点の成果としては、夏場に食べる量が減るのを補うために、高脂肪で高カロリーの食事を与えたところ、子牛はさらに食べなくなることが分かりました。そこで次のステップとして、博士課程後期では高脂肪の食事で食欲が減退するメカニズムを解明することを目標としています。最終的には生産性の高い子牛の育て方を見つけ、現場で応用できる形で研究成果を報告したいと考えています。
理系の研究室というと、実験室での細かな作業やパソコンを用いた解析をイメージすることが多いと思いますが、私の研究の特徴は大型動物を扱う点にあります。実験では、牛の世話をしながら採血や体重測定を行います。一人では決して行えない実験であり、研究室のメンバー全員で協力しながら進めています。大規模な実験では、朝から晩まで牛と向き合う日々が続きますが、体を動かすことが好きな私にとって、とてもやりがいのある研究だと感じています。
このテーマを選ばれた背景を教えてください。
学部1年次に指導教員の授業を受けたことがきっかけで、酪農に興味を持つようになりました。日本の食料自給率が低いことはよく知られていますが、牛乳だけは国産100%を維持していることを学び、感動したことをよく覚えています。そこで、乳牛に関して幅広いテーマを扱う今の研究室に所属し、指導教員からの勧めもあって、現在の研究テーマに取り組むようになりました。
研究の面白さ、苦労について教えてください。
広島大学の農場(広島大学酪農エコシステム技術開発センター)は、中四国・九州地域で唯一の酪農部門を有する大学附属農場で、最新の設備が揃っています。そのような環境で挑戦的な最先端の研究ができていることに喜びを感じます。また、私が取り組んでいるのが将来的な商品化を見据えた応用研究であることも、やりがいにつながっています。大学にいながらにして企業等の研究職の方と一緒に研究ができ、学内外のセミナーや国際学会に参加する機会にも恵まれて、各地に多様なコミュニティを築くことができました。そこには海外の研究者から酪農家まで幅広い方々がいらっしゃり、非常に刺激的な議論を交わすことができます。
苦労としては生き物を扱うので、365日世話が必要なことです。大型動物である牛は一人で対応するのは難しく、農場の技術職員さんや研究室のメンバーに協力をお願いして実験を行うこともありますし、体力を求められることもあります。
深見さんが研究を行う様子
博士課程前期の生活について
毎日のスケジュールについて教えてください。
朝9時頃から農場で牛の健康状態や搾乳ロボットのチェックなどを1時間ほど行い、その後、生物生産学部棟の実験室でミルクや血液の分析をしたり、研究室で論文執筆などをします。ミルクや血液のサンプリング、体重測定などをする日は、午後から再び農場に来ます。それが終わり、学部棟に持ち帰ってサンプルの処理をしたり、パソコン作業をしたりして、帰宅するのは、日によりますが20時〜21時頃です。農場は東広島キャンパスにありますが、学部棟からは少し離れた場所にあり、平均的な滞在時間は、学部棟が7割、農場が3割くらいの割合です。
研究室の雰囲気はどんな感じですか?
構成としては教員が3人、博士課程後期が4人、博士課程前期2年が2人、1年が4人、学部4年が4人、3年が5人です。博士課程後期4人のうち3人が留学生で、それぞれ出身国が違うので、会話は主に英語を使っています。私たちの研究室では、大型動物を扱っているので、全員の実験を全員で手伝う、というスタンスで研究を行っています。
気分転換はどうされていますか?
休日には、友人との食事や旅行を楽しむことが多いです。アウトドア派なので、家や研究室にこもるより外で過ごすことが好きです。平日に研究に集中するためにも、休日はしっかりとリフレッシュすることを大切にしています。
リフレッシュという意味では、研究出張や学会で国内外の様々な地域を訪れる機会があり、各地の美味しいものや観光スポットを巡って楽しんでいます。
研究活動での英語の使用について教えてください。
実は英語は苦手で、海外の学会に参加した際も苦労しています。幸い研究室に留学生がいますし、短期留学で来ていた留学生と今でも連絡を取っていたりしますので、そういった留学生とのコミュニケーションを通して会話のレベルを上げるよう努力しています。あとは、英語のアプリも1年以上続けていて、毎日英語を見たり話したりすることで、ちょっと抵抗は少なくなったなと思います。どのような方法が合うかは人それぞれだと思いますが、日常生活でも少しずつ英語を取り入れていくことで、英語に対する不安を減らしていければと思って取り組んでいます。
広島大学には留学生が多く、例えば社会人になってから英会話の勉強をしようとすると、有料の教室に通ったり、オンラインレッスンを受ける必要があるところを、ここでは言わば無料で留学生と会話できる機会があるので、それを存分に活かせたらよいと思います。
学会への参加について教えてください。
酪農や畜産に関しての研究をしている大学は国内だとそこまで多くないのですが、アメリカやカナダは大学の数も規模も桁が違います。私もアメリカの学会に毎年参加していますが、研究テーマが幅広く、最新のトレンドを知ることができてとても刺激になります。
海外では、大学の農場で研究された新しい飼育方法を基にガイドラインが作られ、それに沿って酪農家や畜産家が飼育を進めるという事例もあり、そのような仕組みを国内でももっと取り入れられないかと考えるきっかけになりました。
博士課程後期への進学について
博士課程後期への進学を決めたきっかけを教えてください。
学部生時代から共同研究でお世話になっていた他大学の先生に声をかけていただいたことが、進学を考えるきっかけでした。当初は博士課程前期修了後に就職する予定でしたが、フェローシップ制度など経済的支援があることを知り、先輩方のお話を伺う中で、徐々に進学への決意を固めていきました。何より、周りの先生方が親身に指導してくださる環境や、研究室の仲間ともう少し研究に打ち込みたいという思いが強く、博士課程後期への進学を決断しました。
進学について、不安はありましたか?
経済面や修了後の就職に関して不安はありましたし、家族に相談した際にも、しっかりと自分で考えて決断することをアドバイスされました。ですので、この決断を正解にできるように博士課程後期の時間を過ごしたいと思っています。これまでは学ぶ立場でいることが多かったですが、今後はワクワクするような研究を進めることで、自分からも積極的に発信していきたいと考えています。
将来のキャリアパスについて
将来はどのようなキャリアパスを考えていますか?
酪農・畜産の現場と研究を繋ぐ人材になることを目標としています。私は広島大学の農場で日常的に牛の様子を見ている一方、研究活動では海外の学会に参加し、国際的な研究交流にも触れています。現場と研究の両方に関わることができる環境で学生生活を送れていることは、非常に恵まれていると感じています。この強みを活かし、博士課程後期では現場への還元を意識した研究を進め、修了後は研究成果や専門知識を基に、酪農家の方々の相談役となれるような仕事に就きたいと考えています。そういった人材はまだ多くなく、酪農家さんと近い距離で、「先生」ではなく「深見さん」と呼ばれて、やりとりができるような存在になることが目標です。
女性科学技術フェローシップ制度について
女性科学技術フェローシップ制度に採択されるまでの準備について教えてください。
申請書の作成は初めての経験で、最初の2週間ほどはほとんど筆が進まず苦労しました。指導教員や先輩、他大学の方にも相談しつつ完成させましたが、自身の研究内容や将来像を改めて見直す良い機会となりました。面接については、限られた時間で研究説明と自己アピールをバランス良く盛り込むことに、試行錯誤しました。原稿を用意して友達に見てもらい、質疑応答は指導教員に指導していただき、結果満足のいくものになったと思います。
理工系に進学する女性を増やすために思うことはありますか?
生物生産学部は女性比率が高く、私の研究室でも半分くらいは女性です。したがってあまり女性が少ないというイメージがないのですが、修了後の企業やアカデミアのポストがもっと充実すれば、進学に対する不安は少なくなるのかなと思います。これは女性に限らないとは思いますが。
後輩へのメッセージ
もし学部生の自分にアドバイスができるとしたら、どんなことを伝えますか?
英語の基礎的な知識は座学でなければ得られないので、時間の余裕があるうちに取り組んでおくべきでした。それから、就職活動はもっと経験しておいても良かったと思っています。エントリーシートを作成したり、面接を受けたりというのは、人に伝わる文章を書く、人に伝わる話し方をする、という貴重な実践の機会で、そのようなスキルは、就職するにしても進学するにしても大事だと思うからです。
最後に、博士課程後期を目指す学生たちにメッセージをお願いします!
学生という身分である以上、自由に使える時間は社会人と比較して多くあります。自分の興味あることにとことん取り組める期間だと思うので、悔いのないように研究、勉強、部活、課外活動などを目一杯楽しんでください。
取材者感想
「深見さんは、乳用牛の子牛期の育成が将来の成長に与える影響を研究されており、粉ミルクの商品化にもつながる応用的な研究に取り組まれています。365日世話が必要な生き物を相手に、研究室全体で協力しながら進めているというお話から、責任感とチームワークの大切さが伝わりました。また、農場の方々と密接に関わり、「先生」ではなく名前で呼ばれる距離感で仕事がしたいという言葉も印象的でした。研究成果を現場へ還元したいという思いと、悔いのない選択を大切にする姿勢に学ぶことが多くありました。」(総合科学部総合科学科2年・迫田莉子さん)
「私自身動物が大好きなので、深見さんの乳牛に関する研究は大変興味深いものでした。相手が生き物である以上365日お世話が必要になるだけでなく、実験を行うにもお金と時間がかかり、一人では実行できない点に苦労があることをお話しいただきました。また、畜産を専門に研究する以上は、動物に愛着を持ってしまうと辛くなる場面もあるので、あくまでも経済動物として見ているというお話も深見さんのような立場の研究者ならではの悩みだと思いました。他にも、就職活動の中で養う「他の人にとって分かりやすい話し方、書き方」に関するスキルは院進の道を選んだとしても大いに役立つので、しっかり取り組むべきというアドバイスも大変参考になりました。全体的に、面白いお話をたくさん聞けて良かったです!」(総合科学部総合科学科1年・小林芽衣さん)
左から迫田さん、深見さん、小林さん

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