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研究者への軌跡

楽観的研究生活

氏名:井口 佳哉

専攻:化学専攻

職階:准教授

専門分野:

略歴:

 

私が大学4年生の時に研究の世界に足を突っこんでから、早15年の月日が過ぎようとしています。先輩方にすれば「まだ」15年と言われるかもしれませんが、私にすると「もう」15年も経ったのか、という思いにかられてしまいます。
 

15年と言えば、赤ちゃんが生まれてから中学を卒業するまでの年月であり、人間はこの期間に大変な成長を遂げます。では同じ期間での私の研究者としての成長はどれほどのものがあったのか、を考えた時、その成し遂げた事のあまりの少なさに愕然としてしまいます。研究を初めて5、6年でようやくはいはいが出来るようになり、それから5、6年でなんとかつかまり立ちが出来るようになりました。今はようやく自分の足で立ち上がった位かな、と思います。でも研究者としての成長は、人により差があるかもしれませんが、多かれ少なかれその位のスピードなのではないでしょうか。
 

研究者としての道のりは本当に果てしなく、そのゴールははるか彼方にあるようです。そんな道のりですから、当然ながら自分の進んでいる方向が本当に正しいのか、不安にかられることが度々あります。そんな時私はあえて、「あまり真剣に考えすぎず、楽観的になる」ようにしています。だって、自然科学を研究するという事は、自然が何億年もかけて作り上げてきた摂理という大海に、ちっぽけな研究者がちっぽけな小舟で地図も何も持たずに漕ぎ出すようなもので、自分が進んでいる方向が本当に正しいかどうかなんて、いくら考えたって分かるわけないじゃないですか!
でも、だからといって漕ぐことをやめてしまえばそれでゲームオーバーです。私は、これからもきっと自分の知的好奇心に突き動かされて、自分が正しいと楽観的に考えている方向に夢中になって進んで行くんだろうなあと思っています。
 

小学生の「なりたい職業ランキング」などでは、「研究者、大学教員」が結構人気があると聞いています。その割には、実際に大学を卒業して職業を選択する段階になったときに、研究者の道を選ぶ人は本当に少ないという印象があります。それはきっと、実際に大学4年生になって研究を初めた時、その先に見えるものがあまりにぼんやりと漠然としているために、その先に進んでいく気持ちがしぼんでしまうからでしょう。その気持ちは良くわかります。でもそんな時に、ほんの少し「楽観的」になって、見えない世界にもう少しだけ足を踏み出してみませんか。研究生活は苦難の連続ですが、がんばっていればチャンスは必ず巡ってきます。いつかみなさんと研究生活を楽しむ事ができる日がくればいいなあと思っています。
 

実際の研究の話もしましょう。私の研究対象は「分子クラスターイオン」というものです。「分子」という言葉は聞いた事があるかと思いますが、水分子ならH2O、二酸化炭素ならCO2と表される、化学物質の最小単位です。
 

「イオン」という言葉も聞いた事があるかもしれません。イオンとは、電気的にプラスあるいはマイナスに帯電したものの事をいいます。「クラスター」という言葉が一番なじみがないでしょう。クラスターとは、もともとはブドウの房という意味だそうです。ブドウの房は、ブドウの丸い実がたくさん集まってできています。つまり、クラスターというのは、「小さいものが集合したもの」というくらいの意味です。
 

結局、「分子クラスターイオン」というのは、「分子」がいくつも集合して「クラスター」を形成し、それが帯電して「イオン」になったものの事をいいます。この世の中にはイオンが満ちあふれている事はご存知の通りです。例えば海水にはナトリウムイオンや塩化物イオンが含まれていますし、スポーツ飲料の表示をみれば様々なイオンが入っている事がわかるでしょう。温泉にいけばその成分表にたくさんのイオンの表示があります。

 

私は、その様なイオンが、溶液の中でどのように存在しているのか、ということを「分子クラスターイオン」を通して研究しています。この研究は、私たちの生活にすぐに役に立つわけではありません。でも、これだけ世の中にあふれかえっているイオンの構造や性質が理解できれば、将来きっと何らかの形で人間の生活を豊かにしてくれると思っています。私はこれからもしばらくはこの「分子クラスターイオン」の研究を続けていこうと思っています。


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