第3回 マツダ株式会社 大竹 恵子 氏

写真 マツダ大竹さん

~No.1ではなく、ONLY ONEを目指す~

第3回女性研究員特集は、マツダ株式会社 技術研究所 シニア・スペシャリスト 大竹恵子(おおたけ けいこ)さんにお話を伺いました。 

Profile
2006年 千葉大学自然科学研究科博士課程終了 理学博士
同年 マツダ株式会社入社

研究内容(修士課程から現在への至り)

修士課程では、気体・液体・固体に次ぐ第四の状態と知られ、有害物質の無害化作用を持つ「超臨界流体」の臨界点近傍における局所構造を明らかにするための超臨界流体用ラマン分光装置の開発を、博士課程においては、開発した分光装置を使って超臨界流体の持つ特異的性質と局所構造の相関性に関する基礎研究を行っていました。学生時代はずっと実験系で、2006年にマツダ株式会社入社後に計算解析系に変わりました。
最初はハイブリッド自動車の冷却系設計において、モーターやバッテリー、インバーターなど熱を持っている電気駆動系を最適の温度まで冷やすためには、どのぐらいの冷却水量で、どういう順番で、どのように冷やせばいいのかをシミュレーションを使って研究していました。その後、水素ロータリーエンジンの熱効率を上げるために、燃料である水素と空気をどのように混ぜればいいのかというエンジン筒内の混合気分布の解析をしていました。
直近では、電気自動車に搭載されているリチウム電池の性能・劣化予測やリチウム電池内で起こる現象解明を行っています。
電気自動車の走る距離やパワーなどは電池によって決まってくるため、電池は電気自動車にとって心臓部です。しかし、電池の中身についてまだ分かっていない部分が多くあります。例えば、携帯の電池も、ある時までは使えていたのに、ある時からは急に充放電されなくなってしまいます。こうした劣化の現象はなぜ起こるのか、また、起こさせないためにはどういう使い方をすればいいのか、そもそもどのような材料が電池材料として適しているのかを明らかにする必要があり、これらをシミュレーションを用いて明らかにしようとしています。
 

博士進学へのきっかけ

明確ではないですけど、幼い頃から未来に向かう創造的な仕事をしたいと思っていました。祖父が大工で、そのモノ作りの様子を見ていて、かっこいいなと憧れを持っていたのも影響しているかもしれません。
研究室に入ってからは、今まで授業で受けていた個々の分野、考え方が繋がり、いろいろなことが分かるようになりました。このような別々にあった何かと何かが結びついて分かった!と感じる感覚が、自分にとってすごく喜びで、それが私の研究への原動力となったと思います。
正直なところ、もともとは修士で卒業しようと思っていました。しかし、修士で超臨界流体用のラマン分光装置を自分で設計して作ったのに、使わないままに出て行くなんて、装置を使って何かを残したい、と思うようになって、博士に進学しました。
 

大学ではなく、企業で研究を続けようと思った理由

常々、学問の世界では「物理」、「化学」、「数学」などの様々な分野が一見分かれているように見えますが、現実の世界では、分かれているのではなく、むしろ融合して何かを生み出しているのではないかと考えていました。学生時代は「化学」に取り組んでいたので、就職活動では他の分野も知りたいと思い、敢えて「化学」以外の「機械」と「電気」を中心に希望しました。現在携わっているリチウムイオン電池の現象解明では「化学」の専門知識も生かせることができ、良かったと思います。
もちろん、アカデミックの世界もすばらしいと思います。日本のモノづくりの基礎はそこにあると思います。しかし、「自分が作った!開発した!」という喜びを私はやはり製品という見える形で社会に貢献したかったんだと思います。
現在マツダの水素自動車に使用されているエンジンは、私が解析担当として携わっていた水素ロータリーエンジンです。自分の研究成果がエンジンの仕様として形になることは達成感がすごくありますね。
また、リース先のお客様だけではなく、モーターショーで水素自動車に乗ってくれた一般のお客様と話をして、感想を共有できることが本当に嬉しいです。
 

写真 社内での打ち合わせの様子
写真 社内での打ち合わせの様子

「大学の研究」から「企業の研究」に変わることによって苦労したこと

分野によって出てくる用語が違うので、最初は専門用語の理解に苦労しました。また、考え方も異なっていて、理学系修了の私は入社当時、研究において分からないことがあると、ここに「こだわりたい」と立ち止まってしまうことがありましたが、会社ではいかに早く、いかに良いモノをお客様に届けるかが重要であり、そのためにはまず製品にすることを第一に考え、分かる/分からないを明らかにしたうえで先に進むことが大事だと上司に言われました。確かに、お客様あっての会社ですので、研究だけではなく、開発・商品化も踏まえて考えないといけません。
 

ご自身の今後の展望

機械の分野において「化学」が重要だという認識は昔からあったと思いますが、現在は「機械」と「化学」が分野を超えて一緒になったことで、自分の「化学」に関する知識や能力をもっと生かせることができ、未来に向けてより新しいモノを作って行きたいと考えています。
従来の内燃機関は、燃料の持つエネルギーの30%程度しか車の駆動力として取り出せていません。残りの70%程度は熱などでどんどん失ってしまいます。しかし、この損失をもっと減らしていくことが可能だと思っています。そういうさらなる可能性を見出すのがマツダの「SKYACTIV TECHNOLOGY」(注1)です。自分もそれに関わっていきたいと考えています。
 

D進学を考える学生へのメッセージ-

ドクター課程に進んで良かったと思っています。ドクターになってやっと、研究の仕方が分かるようになって、なおかつ、自分でどういう研究をしたいのかを考えるようになったからです。
自分が何のために何をしたいのか、そして、そのためにはどうすればいいのかという「考える力」をドクターの時に培ったと思います。
企業に入ってもそうです。最初はこういう問題があるから解決してと上司の指示のもとで動いていましたが、何年か経つと、クルマや部品のどこに問題・課題があって、これを解決するためには、どういう方法でどういう研究が最適かを自分で考えないといけないですね、しかもタイムリーに。それをできる人とできない人とで全然違ってきますので、それをドクターの時に習えてよかったなと思います。
そして今後は、会社と大学の共同研究もどんどん増えていく中で、アカデミックの世界も知っていて、企業の世界も知っている人が重要になってくると思います。そういう面においても、ドクターに進学することにメリットがあると思います。

 
注1:SKYACTIV TECHNOLOGYが生まれたわけ http://www.mazda.com/ja/innovation/technology/skyactiv/
 すべての人に「走る歓び」と「優れた環境・安全性能」をお届けするため世界一の機能を最も効率的につくる。それが、「SKYACTIV TECHNOLOGY」の出発点。そのために、マツダはクルマの基本となる技術をすべてゼロから見直しました。アベレージのクルマではなく、世界一を目指すスピリットと、常識を覆す技術革新が、この大きなチャレンジを実現させたのです。

取材者:葉 夢珂(教育学研究科言語文化教育学専攻 博士課程前期2年) 


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