第9回 総合科学研究科 准教授 ヴィレヌーヴ 真澄美先生

写真:ヴィレヌーヴ先生

仕事も研究も!実験しながら子どもとの時間も大切に

取材実施日:2016年3月2日
第9回特集コーナーは、総合科学研究科のヴィレヌーヴ真澄美(ヴィレヌーヴ マスミ)准教授にお話を伺いました。
ヴィレヌーヴ先生は、中学生と小学生の2人のお子さんを育てながら仕事をしているワーキングマザーです。研究の楽しさや仕事と子育ての両立について伺いました。

Profile
1994~1995年 大手化粧品メーカー
1998年 九州大学大学院理学研究科博士後期課程修了(理学博士)
1998~2002年 徳島大学 工学部助手
2002~2005年 埼玉大学 理学部助手
2005~2011年 埼玉大学 大学院理工学研究科 助教授
2011年~現在 広島大学 総合科学研究科 環境自然科学講座 准教授

企業の研究者から学術機関の研究者へ

学部4年生から修士課程までコロイド・界面化学の研究をしていたので、修士課程卒業後、化粧品会社の研究開発分野に就職しました。化粧品会社では、メイクをするための化粧品ではなく、メイクを落とすためのクレンジングや洗顔フォームなどを開発していました。
自分の専門を生かした研究ができると考えて就職先を決めたつもりでしたが、いざ就職してみると、自分の想像していた仕事内容とは少し違いました。次第に大学院に在籍していた時の研究時代を思い出すようになり、大学でもっと専門的な研究がしたいと思い始めるようになりました。
実は、就職1年目にはすでに大学の研究者である夫と結婚していたので、夫に「民間企業よりも大学で研究する方がいいかな」という話をしていたら、「じゃあ会社を辞めてもいいよ。学費を払うから、前の研究室に戻って研究してきてはどうか」と言ってくれました。多少悩みながらも、夫のその言葉が後押しになり、1年で辞職してドクターとして研究生活に戻ることを決めました。

博士課程後期時代

仕事を辞めてドクターに戻ったものの、具体的にやりたい研究テーマがあって戻ったわけではなかったので、学部卒業論文と修士論文のテーマとして与えられていた研究を1年ほどやりました。その間に文献を読み漁り、博士課程で取り組むべき新しいテーマを考えました。進学を勧められたこともない出来の悪い学生でしたが、指導教授の先生にとっては教授となって初めてのドクターの学生が私だったということもあり、熱心に指導してくださりました。
また、後輩たちがとても優秀だったので、自分も頑張らなくては、と余計奮起することができました。その後自分で見つけた研究課題が他者に先駆けたテーマ設定として認められ、それが功を奏して研究もうまくいきました。後輩の存在は私にとっていいライバルだったと振り返って思います。

人生の岐路:研究者という仕事を身近に感じた高校の夏

研究者という仕事を初めて身近に感じたのは、高校2年生の時に参加した「数理の翼夏季セミナー」でした。これは数学界のノーベル賞と言われているフィールズ賞を受賞した広中平祐さんが、最先端の科学にかかわる第一線の研究者から学ぶことにより、高校生が科学に触れる機会を作ろう、そして未来の研究者を育てよう、ということを目指して創始したセミナーです。現在もこのセミナーは毎年開催されており、科学に対する広範な知識、知見を提供し、科学に興味を持つ児童、生徒、学生に対して、次世代を担う人材としてその育成を行うこと等を目的とした特定非営利活動法人(NPO法人)「数理の翼」によって運営されています。

私は恩師である数学の先生に勧められて参加し、この時初めて研究者という仕事を肌で感じました。主催者の広中平祐さんはとても著名な研究者です。そのような人に会うことができ、研究者の世界をちょっと覗くことができたというのが一つの大きな出来事でした。
そのときに研究者になりたいという目標を持ったわけではありませんが、「研究者の世界はそんなに遠い世界ではないのかな」、と思ったことを覚えています。

仕事と家庭のバランス:子供と過ごす時間も大切に

修士課程修了後まもなく結婚しましたが、お互いの仕事の関係で、同居せずに来ました。今後も退職するまで同居することはないのではないかと思っています。
現在(取材当時)は、中学2年と小学4年の2人の男の子がいますが、母親だけで育てるよりも父親の影響も受けた方がいいのではないかと考えていて、週に1度夫が広島に来てくれます。別居となるとお互いが行き来する交通費などお金がかかりますね。それでも、夫も家事や育児に協力的で助かっています。
9年程前になりますが、ある学会に参加しようと考えたときに、託児所は「ありません」と言われてしまいました。結局、その学会への参加をあきらめざるを得ませんでした。大変悔しい思いをしました。現在は学会も託児所の整備が進んでいるので、ここ数年で女性研究者を取り巻く環境も変わってきていると感じています。託児所がないために学会への参加をあきらめることがないような配慮は必要だと思います。
普段は、大学で講義をしたり実験をしたりしているので、子どもたちの食事を作ってお風呂に入れて寝かせることが自分のできる精一杯です。教育熱心な母親にならなければ、と思っていた時期もあったのですが、現実的には子どもの勉強を見る時間などはほとんどないので、諦めました。今は親が勉強する姿を見せれば、子どもたちも自然とやるようになるだろうと思っています。実際長男は、私が大学ノート3冊を使って計算したものを見た時には驚き、何かを感じたようです。ただ、どんなに仕事が忙しくても18時半頃には自宅に戻り、子どもたちと一緒に食事することを大事にしていきたいと思っています。食事をしつつ同じ時間を共有しながら、学校であった出来事を聞いたりしてコミュニケーションする時間が私にとっても幸せな時間です。子どもは私にとって「まぶしくて太陽のにおい」がする存在です。これからも子どもの成長を願いながら、子どもとの時間を大切に過ごしていきたいです。

実験結果が予想と違う時にわくわくする!

私の専門の熱力学は、化学を研究している人でも苦手な人が多い分野です。そのため、熱力学の知見のみで論文を書くと、なかなか多くの人に読んでもらうことができません。自然界には熱力学に反する現象は決して存在しませんので、熱力学的手法で得た知見をベースに、顕微鏡など熱力学では得られない情報を与えてくれる手法などを取り入れて実験を行うなどの工夫を凝らすことで、少しでも多くの人に自分の研究に関心を抱いてもらい、論文を読んでもらえるように努めています。
ただ、研究はなかなかうまくいきません。予想もしていなかったことが起こると、なかなか実験もうまくいきませんし、半年、1年が経ってもデータが取れないこともあります。でも、そういう時にこそわくわくします。仮説と違う結果が出た時に新しい発見がありますから。
私は凝り性で、実験を始めると何時間続けても苦にならないので、出産するその日まで研究室で実験をしていました。また、育児休暇もそこそこに、子どもが4か月になるかならないかくらいで子どもを保育園に預けて大学に戻りました。出産前と比べてペースは落ちましたが、研究がストップしてしまうことはありませんでした。
今は時間があれば、とにかく自分自身の手で思いきり実験をやりたいと考えています。現在はそうした時間があまり取れず、学生にテーマを与えて測定などの実験をしています。学生は、結果がすんなり出なくてつらいと思うこともあるみたいですが、私は実験できる学生がとてもうらやましいです。

写真:ヴィレヌーヴ先生

今後の目標:誰もやっていないことをやりたい

およそ10年が一つの仕事が完成する目安だと考えています。研究は新しいことを始めたら1年、2年で完成するものではありません。今は学生数の少ない小さい研究室なので、どんなに頑張っても1年に1本の論文を執筆するのが精いっぱいだと思います。また、1つのデータを出してそこで終了ではありません。論文を5本ないし6本程度執筆してはじめて1つのまとまった仕事ができたと考えていますので、やはり時間もかかります。
今は自分が研究室の主宰者で、自由に研究することができる環境にありますので、上手く行くかどうかわからない、誰もやったことのない研究にも挑戦したいと思っています。今は、大きな2つの研究テーマを想定しています。時間の確保は簡単ではありませんが、自分で手を動かして実験し、新しい研究をやってみようと思っています。
私生活は、子どもたちが元気に育って大人になってくれたらそれで充分です。独り立ちしてくれる日が来るのが楽しみです。

取材者:二宮 舞子(総合科学研究科 総合科学専攻 社会環境領域 博士課程前期2年)


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