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研究者への軌跡

現在に至る

氏名:中田 聡     

専攻:数理分子生命理学専攻

職名:教授

専門分野:化学(リズムやパターン形成など自己組織化に関する現象)

略歴:平成元年名古屋大学大学院理学研究科退学、同年から奈良教育大学にて助手、助教授を経て、平成20年5月より現在に至る

 

現在、大学で研究者として教育者として働いているが、様々なきっかけや出会いが現在に至っていると最近思う。
 

よくある話だが、幼少時代、自宅近くの生物(昆虫、蛙、魚、カニなど)を泥まみれになりながらひたすら採っては生態の不思議さを体感していた。そのせいか中学生までは理科の授業だけは楽しくてしかたがなく、特に生物学者には憧れがあった。
 

高校に入ると、もちろん生物に限らず、とりわけ色や物性の変化する化学は魅力のあるものだったが、授業のペースに私の理解がついていけず、消化不良を起こす日々を過ごしていた。例えば化学で「イオン化傾向」を学ぶが、周期表を眺めてもその理由がわからない。生物のクエン酸回路はとても巧妙な仕組みになっているが、どのようなタイミングで何が制御しているのかわからない。そのため意味もなく暗記することに拒絶反応を起こして、原理や法則を理解していればテストの場で問題が解ける(と当時は思い込んでいた)、数学と物理学に没頭するようになった。
 

いよいよ高校3年生になると進路を決めないといけなくなり、理学部数学科に入って卒業したら数学の教師にでもなろうかと漠然と考えていた時、福井謙一氏がノーベル化学賞を受賞した。その研究内容が、化学反応を数式で理解できるというものであり、詳細は不明ながら衝撃を受けた。私と同様、ノーベル賞騒ぎに感化された?担任に進路相談に行ったところ、「君の好きな数学を化学に生かすことができるぞ」と諭され、急遽、化学の道に進むことになった。ところが、大学の専門の講義では、「フロンティア軌道論」を学ぶ以前に「熱力学」という難題?にぶつかり、再び漠然とした大学生活を過ごしていた。
 

ところがある日、本屋で立ち読みをしていた時、ふと手にした「現代化学」という雑誌の記事に驚いた。化学の雑誌といえば、ベンゼン環など化学構造やら反応式やら化学専門のキャラクターが登場するものと思い込んでいたが、ゴルフをしている絵やピペット洗浄器の絵が並び、化学とは思えない内容と表現に思わず食いついた。その著者が私の師匠(吉川研一氏)であり、私は学部を超えて彼の研究室の門をたたくことになった。
 

1977年にプリゴジンが散逸構造(自己組織化によって安定にできる周期的な構造)の研究でノーベル化学賞を受賞したが、非平衡系や非線形を切り口とした化学反応はこれまでにない新しい分野であり、熱帯魚の体表模様や細胞性粘菌のスパイラル構造など空間的なパターンを化学反応を使って擬似的に再現したり、数理モデルで再現したりするのは、これまで悶々していた思いをもう一度学び直すには都合もよかった。
 

現在、数理分子生命理学専攻に所属しており、化学だけでなく生物や数学の内容も気軽に質問したり、共同研究することができる貴重な環境にある。
 

(2012.7.12)


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