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研究者への軌跡

私が今までに歩んだ道 〜天文、数学とコンピュータ〜

氏名:中木 達幸

専攻:数理分子生命理学専攻

職階:教授

専門分野:応用解析、数値解析

略歴:1959年生まれ。広島大学理学部卒業、広島大学大学院理学研究科博士課程前期修了。福岡教育大学教育学部助手、講師、助教授、広島大学理学部助教授、広島大学教育学部助教授、九州大学大学院数理学研究院助教授、広島大学総合科学部教授を経て現在に至る。専門は応用数学の分野で、微分方程式で記述される現象を数理的な立場から解析している。最近は渦や移動境界問題を扱っている。温泉が好きで、人工的な化学物質混入の有無を含め、泉質にこだわっている(別府八湯温泉道表泉家第518代名人)。

 

私は元々天文に興味がありました。両親の実家が田舎にあり、そこでは美しい多くの星を見ることができます。そのため、いつの間にか星に興味を覚え、魅了されていました。中学生時代は、校外の天文同好会に入り、空気がきれいで光害が少ない所に行き、天体を観察したものです。そうしていますと、自分の望遠鏡が欲しくなります。お小遣いで買えるものには限度がありましたので、自作しました。今考えれば無茶な設計と計画の下での望遠鏡でしたが、当時は夢中になり、通信販売や近くの鉄工所で部品を買ったり、技術科の先生にお願いして工作機械を借りたりして自作をしたものです。設計をしておりますと、数式が出てきます。例えば三角関数を使いますが、中学生であった私にはチンプンカンプンでした。でもそれを使わないと、正確な設計ができません。ある日、私のおばさんの家に行きますと、高校の数学の教科書がありました。それに三角関数のことが書いてあります。これは良いと思い、その教科書をもらって読みあさったことを昨日のことのように覚えております。
 

当時の人気テレビ番組の1つに「スター誕生!」があります。新人歌手を発掘するオーディション番組です。一時期、私も頻繁に見ておりました。ある日、CMのときにチャンネルをまわしていると、コンピュータの番組をやっておりました。FORTRANと呼ばれる言語を使って、数学関連の問題をスタジオのコンピュータで解くという番組です。私が三角関数表などを使って苦労していた計算が簡単にできることを知り、興味をもちました。そのため、毎週、スター誕生!を見ながら、定期的にチャンネルを回してはコンピュータ番組も見ておりました。当時のコンピュータは、私にとって、遠い別世界のものでした。高校生時代に、数学の先生が職員室に簡単なコンピュータがあると教えて下さいました。生徒である私が自由に使うことは無理で、動いている様子を見せて頂いただけでしたが、それだけでも十分に知的好奇心が駆り立てられたものです。
 

大学受験の際、志望学科を天文にしようかと迷ったのですが、コンピュータのこともあり、数学にしました。数学科ではコンピュータを自由に使うことができました。紙カード式のものでしたが、しばらくして、新しいコンピュータが導入されました。価格が約4千万円だったとのことです。このコンピュータは現在の形に近いもので、大学生である私も自由に使うことができました。私は大喜びして、いつの間にかコンピュータ室に入り浸ってしまい、1日中コンピュータを使うことも珍しくなくなりました。
学年が進行するにつれ、専門を決める必要があります。紆余曲折があったのですが、結局のところ、コンピュータを使った応用系に進みました。主に微分方程式の数値解析をテーマにしておりました。このセミナーでは大変に多くのことを学びました。1つだけ逸話をあげます。院生時代、あるとき、先生から1つの論文を渡され、翌週のセミナーで論文紹介をすることになりました。1週間頑張って準備をし、セミナーで「今日はこれこれの論文紹介をします」と私がいった途端、先生から、何でその論文を読んだのか理由をいえ、といわれました。先生からいわれたから読んだというのが本音でしたが、そんなことはいえず、黒板の前で立ち往生しました。要するに、他人からいわれたからやるのではなく、自分で考え、すべきだと思えばやれ、面白いと思えばやれということをいわれたかったのだと思います。数年前、そのときのことを先生に申し上げると、そんなことをいったかなといわれ、ニコニコされておられました。
 

学問的な重要性はもちろん大切ですが、それと同時に、自分で面白いと思え、他の研究者にも自分が感じた面白さを説明できるテーマ選択が重要だと感じています。私が指導している学生さんにも、卒業論文や修士論文のテーマを決めるとき、面白いと思っているかどうかを自問させております。面白いと思える心が、楽ではない研究の原動力になっていると考えております。私の専門は、モデル化した方程式を解析することにより、現象の理解を試みることです。方程式を立てるだけでも一苦労ですが、その方程式を解くことも大変です。高校までの方程式は必ず解けます。解けるものだけを扱っています。ところが、現象から得られる方程式は、ほとんどの場合、解けません。解けないならやめてしまえと考えることは大変に悲しいので、何らかの形で努力をしております。例えば、解を求めることなく解の性質を調べたり、コンピュータを使ったシミュレーションで解の近似値を求めたりすることです。今の私は、別の色々な仕事のため研究時間がさけずにイライラすることは少なくありません。しかし、コンピュータの前に座り、方程式の近似解をアニメーションで描き、その様子を眺めていると、ワクワクして食事や最終バスの時間を忘れてしまうことも少なくありません。


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