第11回 社会科学研究科 法政システム専攻 D2 神代 貢志さん

写真 神代さん

取材実施日:2015年3月9日
第11回の研究留学コーナーは、社会科学研究科法政システム専攻吉中ゼミの博士課程後期(D)2年、神代 貢志(こうじろ たかし)さんが取材に応じてくれました。研究室に配属されるまで留学など考えたことなどもなかった神代さんが修士課程を修了したと同時にブラジルに留学を決意した経緯やメリットをお聞きしました。

神代さんの研究留学について

(留学先)ブラジル サンパウロ大学(University of Sao Paulo)
(留学期間)2014年9月~2015年2月
(留学経緯)研究室の教授からの打診
(支援)サンパウロ大学からの奨学金 67万円 日本学生支援機構JASSO 36万円
(留学費用)渡航費 約34万円、宿泊費 約3万円、生活費 約70万円

写真 ブラジル サンパウロ大学

研究内容はどのようなものですか?

修士課程では司法取引と被害者について学んでいました。司法取引の定義にはまだまだ検討すべき点が多くありますが、大まかに言うと加害者が事件解決に有益な情報を提供する代わりに刑を軽くしたりすることを言います。皆さんも刑事ドラマ等で犯罪組織の末端構成員に取調官が刑を減免を約束する代わりに、組織についての情報を供述するよう働きかけているシーンを見たことがあると思います。いろいろと法的に難しい部分もありますがあのやり取りが司法取引だと思って頂けたらいいと思います。こうした司法取引は現在日本でも導入が検討されていてそのために研究が不可欠となっています。

留学に行くまでの経緯は?

研究室に入るまでは「日本が一番いい、留学や海外での勤務は考えない」という風に思っていました。しかし、研究室に入って、先輩方や先生から留学の話を聞くうちにDにいくならどこかに留学したいと考えるようになりました。修士課程では刑事事件の9割以上で司法取引が用いられていると言われるアメリカ合衆国をメインで研究していたのでアメリカかヨーロッパ圏に留学してみるかなと漠然と考えていました。まさかブラジルに留学するなんて考えてもみませんでした。
私の今回の留学は指導教員からの打診によるものでした。修士論文の締め切りの1週間前に先生から突然ブラジルに留学してみないかという電話がありました。広島大学とサンパウロ大学との間で学術交流協定を結んでいる関係で、今回広島大学からの留学生を受け入れる用意があるので、私さえその気があれば推薦してくださるとのお話でした。みなさんご存じの通りブラジルは地球上で最も日本と遠い位置関係にあります。全く縁もゆかりもない国で留学の話を聞いて少し戸惑いました。しかし、留学中の生活費や渡航費についての補助もあり、法律事務所でのインターンシップもできるという話も頂いていい話だと思いました。こんな素晴らしい奨学金制度をうけて留学するチャンスはもうないかもしれない。「こういうチャンスを逃したら人生成功できない。」と思って2時間で留学する決意を固めました。

写真 ブラジルの事務所

留学先での研究内容は?

ブラジルに渡った当初は修士時代からの自分の研究テーマである司法取引についてブラジルでの状況ではどのような状況であるかを主に研究しようと考えていました。しかし、インターンシップ先での業務や、警察署、裁判所への訪問や現地の法曹実務家へのインタビューを行ったなかで、司法取引以外のブラジル刑事法のテーマについても学ぶ機会に恵まれました。例えば、日本で犯罪を犯したブラジル人が自国に逃亡するという事件がいくつか起こっていますが、こうした場合、ブラジルでは憲法で自国民の身柄の引き渡しを行わないことが明記されているので、日本としてはブラジルで裁判を行うよう要請するしかありません。また、日本とブラジルでは刑事手続の制度に違いがあるため、日本人が思うように訴訟が進行せず、結果として思うような刑罰が宣告されないことがあります。ブラジルの刑事訴訟法を研究すれば、こうした問題に助力できるのではないかと思い、司法取引だけでなく、ブラジル刑事訴訟法全体の研究しようと思うようになりました。ブラジル刑事法は今までに日本語文献が少なく、特に刑事訴訟法の文献は見られないため、まったく新しい私だけのテーマに巡り会うことができました。

留学先の研究環境は?

最初はサンパウロ大学の寮に入ったんですがここがなかなかゆっくりできるところではなくて16人部屋で2段ベットの中だけが自分のスペースだったんです。しかも、ちょうど大学でストライキが起こっていたので図書館も使うことができず、まったく勉強できない環境でした。更にシャワーの温水が出なかったり、風邪も引いてしまい、このままではせっかく留学したのに勉強できないと思って法律事務所の方にお願いして、すぐに一人で暮らせる部屋を探して引っ越しました。引っ越した先は広島県人会の事務所のあるビルでした。広島大学のブラジルセンター(注1)も入居していて、その真上に住めることができたのでそれからはとても安心して過ごせました。また、サンパウロはとても日系人が多いので各県人会はあるし、スーパーでも日本食が買えたので生活に困ることはありませんでした。また、ポルトガル語で困っているときは現地の指導教員の先生や友達が手助けをしてくれたのでとても助かりました。

写真 神代さん

留学時の語学力は?

留学が決まってからの3ヶ月間くらいは指導教員の先生と一緒にスペイン語の文献を読むことから始めました。ブラジルでは公用語はポルトガル語なんですが文献が少なく、学術分野ではあまり使われていないことからポルトガル語と文法や単語がとても似ていて多くの国で使われているスペイン語をまず学びました。語学力を磨くためいろいろと試してみようと思って広島大学の会話パートナー(注2)なども探してみましたがブラジルの方は残念ながらいなくてあまり効果はありませんでした。留学前に一番心強かった経験は7月にサンパウロ大学の学生がサマースクールで広島大学に来てくれて交流ができたことです。その時は英語でコミュニケーションを取りましたが、その時友達になった人がサンパウロ大学のことなど、いろいろと教えてくれたり、現地での生活を助けてくれたりしました。

研究留学を経ての収穫は?

日本ではまだ誰もしていないOnly Oneの新しい研究テーマに出会えたことが一番大きな収穫です。更に、ブラジルで知り合ったある弁護士の方と刑事訴訟の法典を翻訳して出版しようという話も出てきています。今回の留学は突然のことで最初は不安も大きかったですが、思わぬ結果で今後の私の研究の道筋を与えてくれました。

これから研究留学を目指す人へのメッセージ

チャンスを逃したら、もう二度と来ないかもしれません。私のように思わぬことが役立つかもしれません。留学したいという思いがあるのならぜひチャンスを逃がさないでください。

(注1)広島大学ブラジルセンター http://www.hiroshima-u.ac.jp/top/kokusai/kaigaikyoten/brazilcenter/
(注2)広島大学会話パートナー https://momiji.hiroshima-u.ac.jp/momiji-top/life/kokusai/conversation.html

取材者:岡田 佳那子(理学研究科生物科学専攻博士課程後期3年)


up