第5回 理学研究科 化学専攻 D3 菅原 峻さん

菅原さん画像

取材実施日:2014年6月5日
第5回の研究留学コーナーは、理学研究科 化学専攻 有機典型元素化学研究グループ 博士課程後期(D)3年の菅原 峻(すがわら しゅん)さんに現在の研究内容や留学時の様子、海外に出て気づいたことについて伺ってきました。

菅原さんの研究留学について

〔 留 学 先 〕 ドイツ ユリウス・マクシミリアン大学ヴュルツブルク(通称ヴュルツブルク大学)(注1)
〔留学期間〕 2013年9月~2014月1月末(D2時)
〔留学経緯〕 留学先の先生へのコンタクトを経て(指導教員の山本先生と留学先の先生に面識がなかったため)
〔 支 援 〕 日本学術振興会特別研究員 科学研究費補助金
〔留学費用〕 渡航費約20万円、宿泊費約26万円、生活費約20万円

ドイツ バイエルン州 ヴュルツブルク 地図

ドイツ バイエルン州 ヴュルツブルク

現在の研究内容は?

不安定化学種に関する研究を行っています。不安定化学種とは、一般的には存在せず、化学者が合成することで初めて観察することができる物質のことです。新しい物をつくるということは化学者として根本的なテーマであり、とても挑戦的な研究分野だと感じています。
新しい物質をつくる時、そこまでの合成ルートは何通りもあります。山登りに例えると、頂上に辿り着くための道はいくつもありますが、どこが険しいかは登ってみないと分かりません。まずは進んでみて、もしもダメだったら他の道に変えるということを繰り返します。新しい物質をつくるためでも、このような試行錯誤が必要となります。
私が現在作っている化合物は、修士2年より作り始めたものであり、今年で4年目になります。最初に設定した化合物を作るまでに1年半くらいかかりました。それでも本当に欲しい化合物の前の段階に過ぎず、未だに最終的な目標まで辿り着けていません。これから何とか作り上げられるように頑張っていきたいです。

菅原さん実験中の画像

留学に行くまでの経緯は?

私が山本先生にお願いして、ドイツのブラウンシュヴァイク先生にコンタクトをとっていただきました。研究留学の契機は、ブラウンシュヴァイク先生の研究室が出している論文の内容が好きだったことです。その研究室は「Science」や「Nature Chemistry」などの有名雑誌に論文が掲載されるほどの非常に高いレベルの研究室でもあったので、そういう所で挑戦してみたいという気持ちもありました。最初にコンタクトをとった際には、履歴書と研究内容の提案を一緒に送りました。そして、ブラウンシュヴァイク先生より受け入れをご了承いただけたので、留学に至りました。

留学先での研究内容は?

留学先でも新しい物質をつくるというコンセプトは同じでしたが、研究のスタンスが少し異なりました。山本先生の考えていらっしゃる化合物は合成するまでが難しい物が多いこともあり、経験の少ない学生が研究するには時間がかかります。それに対し、留学先の研究室では、知られている物同士を組み合わせることで、新たな物質を作ろうという考えでした。そのため、組み合わせのアイデアが重要となるのですが、運良く興味深い新規化合物の発見に至り、4ヶ月で1本の論文を出すことができました。

留学中の写真1
留学中の写真2

写真(上から)ホストファミリーとのホームパーティ カナダ人留学生のお別れ会

留学時の語学力は?

学部生のころから留学をしたいと思っていたため、英語の勉強はしていました。その際、広島大学の留学生と交流したことが役に立ちました。というのも、英語だけできても仕方がありません。海外の人と触れ合う時に、どういう態度でいるべきなのか、相手の価値観はどうなのかを考え、海外の人との交流の仕方を学ぶことが大事です。日常生活では海外の人と接する機会が少ないかもしれませんが、留学生との交流や英会話教室への参加など自分から積極的に機会を作ることが大切だと思います。
私はチューターをやっていたため、スウェーデン人とアメリカ人と交流する機会がありました。スウェーデン人の留学生とは、半年ほど関わりがあったのですが、ドイツでの留学中にスウェーデンで再会することができました。アメリカ人の留学生が、私にとって初めての本格的な海外の人との交流でした。その人は日本語が上手でしたので、ほとんど会話は日本語で行っていました。英語に自信がなかったら、日本語でもいいので海外の人と触れ合うことは大事だと思います。

研究留学を経ての収穫は?

仕事に対する考え方について日本との違いを感じることができました。ドイツでは働く時間が短いことが印象に残っています。平日7時半から17時までの間に集中して仕事を終わらせて帰ることが普通でした。最初はそのリズムに慣れなかったのですが、次第に慣れていき、次のことを常に考えながら効率的に行動する力が身についたと思います。
また、チームで仕事をする感覚を養うことができました。山本先生の研究室では、それぞれに異なる研究テーマが与えられるので、一人で研究を進めていく感覚が強いです。対して、ドイツではポスドクの上司に一人付いていただき研究を進めていきました。他にもX線結晶構造解析を担当する人やESR(電子スピン共鳴)を担当する人などそれぞれの機器の専門家がいました。そのため、チームで研究をするという気持ちが強く、ディスカッションがしやすい環境にありました。そして、うまくいった時にみんなで喜びを分かち合えたことは素晴らしい経験だったと感じています。

留学中の写真3
留学中の写真4

写真(上から):ポスドクの上司との記念撮影、 ドイツ人学生との卓球

これから研究留学を目指す学生へのメッセージ

研究留学は研究者として、間違いなくさらなる飛躍の機会になると思います。日本にいるだけでは見えないものが非常に多く、留学の前後で視野が大きく変わります。チャンスが来たら、逃さずに飛び込んでみるのが絶対に良いです。特に、学生の間の留学はポスドクと異なり、失敗を恐れる必要が全くないので、自分の実力よりも背伸びして世界最高の環境に挑戦することをお勧めします。そして、数多くの留学中の苦労も含めて、素晴らしい経験と出会いを楽しむのが一番良いと思います。

(注1) ヴュルツブルク大学 ホルガー ブラウンシュヴァイク研究グループ
http://www-anorganik.ak-braunschweig.chemie.uni-wuerzburg.de/

取材者:杉江健太 (総合科学研究科総合科学専攻 人間行動研究領域 博士課程前期2年)

 


up