第4回 理学研究科 化学専攻 D3 赤瀬 大さん

赤瀬さん画像

取材実施日:2014年1月20日
第4回の研究留学コーナーは、理学研究科化学専攻・量子化学研究室の博士課程後期(D)3年の赤瀬大(あかせ だい)さんに現在の研究内容や留学のメリットについて伺ってきました。

赤瀬さんの研究留学について

〔 留 学 先 〕 パシフィック・ノースウェスト国立研究所(注1)
〔留学期間〕 2011年12月27日~2012年12月5日 (一時帰国あり)(D2時)
〔留学経緯〕 頭脳循環を加速する若手研究者戦略的海外派遣プログラムへの採択(注2)
〔 支 援 〕 渡航費、宿泊費、生活費などを含む全費用
〔留学費用〕 渡航費約50万円(2往復)、宿泊費約70万円、生活費約50万円

アメリカ ワシントン州 リッチランド地図

アメリカ ワシントン州 リッチランド

現在の研究内容は?

コンピュータを用い、計算によって分子を研究しています。実験や観測によって実際の分子を研究するのではなく、計算によって理論化学をとりあつかう化学の分野を計算化学といいます。私は、その中でも分子軌道法や分子シミュレーションを用いて研究しています。例えば、研究テーマの一つとして、水クラスターについての研究をしていました。クラスターとは群れや集合体という意味です。水分子同士が水素原子で結びついてできた集合体のことを水クラスターと呼びます。
分子の性質を正しく計算するためには、高精度な計算を行う必要があります。しかし、このような高精度な計算は、計算に時間がかかるため、以前は大きな分子を計算することは困難でした。しかし、最近では、コンピュータやアルゴリズムの進歩によって、大きな分子に対しても高精度な計算ができるようになってきています。また、コンピュータ上なので、どんな分子でも計算できるのは計算化学の有利な点です。

研究留学を決意した理由は?

私自身、海外に対して特別に強い思い入れはありませんでした。しかし、客観的に考えると海外経験をした方が良いと思います。そう考えていた時、指導教員の相田先生からプログラムの話を教えていただきました。海外に行くチャンスが目の前にきたと感じ、留学しようと決意しました。

留学先での研究内容は?

パシフィック・ノースウェスト国立研究所に1年間留学しました。そこでは、シクロデキストリンという環状オリゴ糖に関する研究をしていました。シクロデキストリンの分子は、ブドウ糖が連なってできたオリゴ糖の両端が結合してできています。そのため、ドーナッツのような形をしており、中心には空洞があります。その空洞には小さな分子を取り込むことができます。空洞の中に分子を取り込むことを包接と言います。例えば、水に溶けにくい分子をシクロデキストリンの中に包接させることで、水に溶けやすくさせることができます。また、包接した分子を外部の分子との反応から保護することも可能です。人体に安全かつ包接機能を示しているシクロデキストリンは、食品や医薬品などの様々な分野での活用が見込まれています。実際に、食品の味や香りを調節するためや薬を体内に効率良く運ぶために応用されています。シクロデキストリンをさらに活用していくためには、シクロデキストリンの包接過程を理解する必要があります。コンピュータが進歩したとはいえ、シクロデキストリンは比較的大きな分子であるため、ある程度大きなコンピュータでないと計算することは難しいです。留学先では、アメリカのスーパーコンピュータを使うことができたので、シクロデキストリンの計算をすることができました。大きなコンピュータを利用できたことは、留学したからこそできたことだと思います。
留学先は大学ではなく、国立研究所だったということもあり、非常に管理が厳しい印象を受けました。建物への持ち込む物の制限があったり、留学前からウェブテストを受けたりと様々な規則がありました。ただ、規則さえ守れば自由に研究をすることはできました。

シクロデキストリンの化学構造 画像

シクロデキストリンの化学構造

留学時の語学力は?

英語はあまり自信がありませんでした。研究室でのディスカッションでは、内容が限定的なこともありそれほど困ることはありませんでしたが、ショッピングやレストランでの会話では困ったことが結構ありました。円滑に日常生活を送るには十分な英語力をもっていたとは言えませんが、それでも意外と何とかなるものだと分かりました。アメリカはクレジットカード社会なので、ショッピングやレストランでの支払いはほとんどカードでおこない、細かなお金のやりとりをするはありませんでした。そういうところは、英語が不得手な私には良かったと思います。

留学のメリットは?

最近では、海外に行く学生が少なくなったと言われているようですが、私の知っている同世代の方々は結構な割合で留学をしています。
私の分野は、アクセスさえできればどこからでも同じコンピュータを利用して研究ができるので、実験器具の直接操作が必要な分野に比べると物理的な距離に縛られません。そのため、留学することでしか得られないものが少し異なるかもしれません。英語で研究生活をしたこと、海外の研究スタイルを学べたことはとても良い経験になりました。また、留学先は大学ではなく研究所だったので、大学とは違った研究環境を知ることができました。

これから研究留学を目指す学生へのメッセージ

研究留学をしようとしている人は皆モチベーションの高い人だと思います。やる気のある人には研究留学をするチャンスが必ず訪れると思うので、そのチャンスを逃さないようにしてください。

(注1)パシフィック・ノースウェスト国立研究所http://www.pnnl.gov/
(注2)頭脳循環を加速する若手研究者戦略的海外派遣プログラム(日本学術振興会)http://www.jsps.go.jp/j-zunoujunkan2/index.html

取材者:杉江健太 (総合科学研究科総合科学専攻 人間行動研究領域 博士課程前期1年)

 


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