第15回 教育学研究科 D3 阪上 弘彬さん

取材実施日:2016年2月10日

第15回の研究留学コーナーは、教育学研究科 文化教育開発専攻 社会認識教育学分野 博士課程後期3年の 阪上 弘彬(サカウエ ヒロアキ)さんに現在の研究内容や留学時の様子について伺ってきました。

阪上さんの研究留学について
〔留学先〕 ドイツ テュービンゲン大学
〔留学期間〕 2014年10月~2015年3月(D2時)
〔留学経緯〕 広島大学短期交換留学(HUSA)プログラム
〔支 援〕 ①(独)日本学生支援機構海外留学支援制度(協定派遣)奨学金 40万円程度;②グリーン・ウィング教育奨学金 20万円程度(教育学研究科独自の奨学金)
〔留学費用〕 渡航費約20万円、宿泊費約20万円、生活費約35万円

 現在の研究内容は?

私は地理のカリキュラムに関する研究を行っています。特に持続可能な開発のための教育(Education for Sustainable Development,以下ESD)(注1)という教育の取組が地理のカリキュラムにどのように位置づけられているのか,また,学校などの教育現場でどのように実践されているのかに関して,ドイツを対象に研究しています。方法としては,実際にドイツで使われている地理カリキュラムや教科書を分析すること,及び現地の学校で授業観察や事後調査をすることです。
ドイツはもともと環境保全など環境に対する意識が強く,ESDも進んでいました。また,90年代から世界の地理教育のスタンダードを作ろうという音頭を取ってきました。そのため,これまでリードしてきたドイツを研究することによって,将来的には日本への示唆が得られるのではないかと思いました。また,研究室が昔からドイツの研究者との交流があったこともきっかけの一つです。修士・博士課程の地理学の授業では,ドイツ以外に,外国の地理教科書(特にイギリス)の翻訳を通じて,海外ではどのような資料が使われているのか,また,どのような問いが設定されているのか,あるいは日本と比較してどのような違いがみられるのかを研究しました。このように,今までの蓄積を活かして,諸外国の地理教育,とくにドイツを対象に研究したいと思いました。

写真:海外の地理の教科書

留学に行くまでの経緯は?

ドイツを対象に研究をしているので,やはりドイツという国の社会や文化をじっくり見てみたいと思っていました。留学に行く前も,年に2回程度現地の学校に行ったり,向こうの大学の先生の話を聞きに行ったりしていました。ですが,そういう短期間の調査旅行とは異なって,半年間ドイツで住む,そしてドイツ人の友人を作ることによって,より深く身をもってドイツを感じたいと思っていました。

留学先での研究について

平成26年度学生独自プロジェクト(研究着手支援)として採択された,総合科学研究科の小出美由紀さん(研究留学コーナー第14回参照)との共同研究を行っていました。主に,学校教育や社会教育におけるESDの取り組み方に関して,授業観察や環境教育施設(ハノーファー学校生物センターとハンブルク環境センター)の現地調査に行きました。
各学校に見学に行く際に必ず先生に聞く質問があります。それは,「(地理の)授業の中で持続可能な開発をどのように教えていますか?先生個人としては,持続可能な開発に対してどのような考えを持っていますか?」という質問です。この質問に対する返答は「これは重要な概念です」という決まり文句から始まることが多く,ドイツの地理教師がESDを重要視していることを知ることができました。それに対して,日本では,ESDを未だに知らない教師もいらっしゃりますし,その点でESDに対する認識はまだ十分だとは言えません。

(現地での授業見学の様子)

写真:現地での授業見学の様子

語学力について

学部1年生の時,教養教育でドイツ語を選択しましたが,将来の研究のためにと思っていたわけではありません。そのため,ドイツを研究対象とすると決めた修士以降,独学でドイツ語を学び直し始めました。外国語研究教育センターのドイツ語講座に参加したこともあります。
専門用語が入る研究者とのディスカッションより,日常会話や雑談の方が難しいと感じます。単語と単語がつながった発音を聞くのもちょっと苦手です。でも,ドイツ人とコミュニケーションをする際,相手の方が気を遣ってくれたので,特に苦労はしませんでした。

ストレス解消について

高校時代から地理に興味を持っており,地図を見たり,道を覚えたりすることが好きでした。また,私の場合は,学会発表の発表準備前と論文の締め切りの前に行き詰まることが多いと自覚しているので,気分転換を兼ねてこういう時に旅行をしています。旅行から帰ってくると,休みすぎたのでやらないといけないなといった感じで研究モードONのスイッチが入ります。

(テュービンゲンの町並み)

写真:テュービンゲンの町並み

留学を経ての収穫

まず語学面,特に会話面に関して,ドイツ語母語話者のように話すことはもちろん難しいですが,ドイツ人と接しているうちに,こういうふうに考えながらしゃべるんだなということが分かるようになりました。
また,人脈が広がったことも大きな収穫の1つです。半年の留学期間中には,先ほど述べた授業観察や現地調査以外に,文献調査や資料収集をしたり,多くの研究者や現場の先生と話をしたりしていました。現地で知り合った研究者や先生とは帰国後もつながりがあり,その後も継続して授業見学をさせていただいています。研究をするうえで,人と人の繋がりが大切だと改めて実感しました。

写真:海外の教科書

海外に出て気づいたことや注意点

教育の面でよいことは,大学の学費が基本的に無料だということです。こういう教育に対する投資はすごくいいなと思います。
また,ドイツの中等教育は日本と異なって,初等学校卒業の時点で,複数ある中等学校(マイスターをめざす学校:レアルシューレ,大学進学をめざす学校:ギムナジウムなど)から選択しなければなりません(だいたいは成績によって決まります)。今回は大学進学を目指す学生たちが行く中等学校に焦点を当て授業観察を行いましたが,休み時間には必ず教室を閉めるとか,基本的に教員が専用の部屋を持っているとか,授業中に寝ている生徒がいないなど,日本と違うところがたくさんありました。特に,生徒が授業で発言しているかどうかは,重要な評価点としてみなされているので,先生の質問に対して全員積極的に発言をします。そういう姿勢が違いますね。
ドイツには何回も行っていますが,毎回心がけているのは文化理解ですね。海外に旅行に行くことと住んでみることは本当に違います。日本人として,日本的な考え方も一応意識しないといけないですが,現地に溶け込んでいくこともすごく大事です。せっかくドイツに留学するので,ドイツ人を真似してみて,ドイツ人的な考え方で生活してみるのも良いのではないかと思います。私はなかなか苦労しましたが。

これからドクター進学を考える学生へのメッセージ

ドクターに進もうと思うと,金銭的な面な不安がありますが,ちょっと先を見て,計画を立てるぐらいがちょうどよいと思っています。特に金銭面でいえば,M2の時期で3年後ドクターを取るまでにどのぐらいお金が必要なのかと計画を立てることが重要です。私の場合は,日本学術振興会の特別研究員(DC)を取って金銭的な負担を減らそうと考えていました。特別研究員に採用してもらうためには,申請時までに論文が何本いるのか,いつまで書かないといけないのかなどを逆算して取り組んできました。2,3年後を見据えながら計画を立て,実行できたことで金銭面での不安は軽減できましたし,ドクターの研究に集中することができました。まずは,博士号を取得するまでの道のりを,自分なりに描いてみてはどうでしょうか。

注1 ESDはEducation for Sustainable Developmentの略で「持続可能な開発のための教育」と訳されています。今、世界には環境、貧困、人権、平和、開発といった様々な問題があります。ESDとは、これらの現代社会の課題を自らの問題として捉え、身近なところから取り組む(think globally, act locally)ことにより、それらの課題の解決につながる新たな価値観や行動を生み出すこと、そしてそれによって持続可能な社会を創造していくことを目指す学習や活動です。

【参考】
1.広島大学国際センター「留学・研修プログラム」ホームページ
2.広島大学短期交換留学(HUSA)プログラムホームページ
3.研究留学 小出さん 取材ページ
4.学術振興会 特別研究員 について
 

取材者:葉 夢珂(教育学研究科 言語文化教育学専攻 博士課程前期2年)


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