第10回 国際協力研究科 教育文化専攻 D2 隅田 姿さん

写真 隅田さん

取材実施日:2015年4月10日
第10回の研究留学コーナーは、国際協力研究科 教育文化専攻 博士課程後期2年の隅田 姿(すみだ すがた)さんに現在の研究内容やインターンシップ時の様子について伺ってきました。

隅田さんのインターンシップについて

〔インターンシップ先〕フランス ユネスコ(UNESCO 国際連合教育科学文化機関)
〔インターンシップ期間〕 2014年12月1日~2015月2月28日(D1時)
〔インターンシップ経緯〕 未来を拓く地方協奏プラットフォーム(注1)平成26年度長期インターンシップ派遣(第1期)
〔 支 援 〕 85万円
〔留学費用〕 渡航費約19万円、宿泊費約60万円、生活費約15万円

画像 フランス パリ 地図

現在の研究内容は?

現在は、途上国に対する政府開発援助(ODA: Official Development Assistance)が本当に効果的に使われて入るのかどうかに関して研究しています。特に、モザンビークを一事例として考えていますが、一カ国だけでは世界の実情を把握するのは難しいので、最近では、サブサハラ・アフリカ及び世界全体も見ようかと考えている最中です。
例えば最近終わった研究では、全体の援助額と教育成果との関係について、世界の発展途上国の就学率、修了率、教師1人当たりの生徒数及び学校に行っていない生徒数という4つの数字と、援助の配分にどのような関係があるかに関し、統計を用いて分析をしました。ただし、統計には限界があるので、現地でフィールドワークをして、校長先生や生徒の両親などにインタビューをしながら、どういう援助が将来的に良いのかを議論できたらいいなと考えています。
その研究の成果からは、先ほど述べた教育の4つの指標(就学率、修了率、教師1人当たりの生徒数及び学校に行っていない生徒数)と全体的な援助との間にほとんど関係が見られませんでした。むしろ、援助国は、発展途上国の輸出量や輸入量など、援助の見返りが多い国に援助を行っているという結果が出てきました。
見返りの多い国とは、例えば、援助国の商品をたくさん輸入してくれる国、産物や石油などを輸出してくれる国、内戦が少ない国などが考えられます。そういう意味で、特に近年の援助は「投資」の一部になってしまっているように思います。
モザンビークで働いていた時(注2)、モザンビークの北部に世界最大級の天然ガスが発見されました。これにより、援助国がいっせいに集まってきて、援助も教育分野からインフラ分野や電気分野などに多くされるようになりました。モザンビークは今では世界中から注目を浴びるようになり、みんなが「投資」したい国になっています。もともと、世界の貧困層のための人道的な目的でのODA援助だったものが、「投資」のためのものになっていて、また最近では中国やブラジルなど新興国もモザンビークで援助を活発にするなど援助の構造がどんどん変わって行くことを、身をもって感じました。

写真 隅田さん研究室

インターンシップに行くまでの経緯は?

私は自分の調べていることに関して、その現場を見ないままやっていると悶々してしまい、すぐ自分の目で見たいと思ってしまいます。博士に入ってからは政策レベルのことについて研究していたので、途上国の現場ではなく、政策の現場に行きたいと考えていました。今回インターンシップに行ったフランスのユネスコ本部は、世界の教育開発にかかわる政策が話し合われる中核の場所で、例えば一年に一回出版される『EDUCATION FOR ALL GLOBAL MONITORING REPORT(EFA/GMR)』は、途上国及び先進国政府が政策について協議をする際参考されています。
ユネスコ本部のインターンシップは非常に競争率が高く、特に本部のインターンシップは、一般応募ではよっぽど運がよくない限り難しいものです。今回は、グローバルキャリアデザインセンターで募集された「未来を拓く地方協奏プラットフォーム」の長期インターンシップを利用して、自分の行きたいところに行け、本当にラッキーだと思います。

インターンシップ先での業務と研究

ユネスコでどんなことをしていたのかというと、EDUCATION FOR ALL グローバル・モニタリング・レポート(GMR)チームで、2016年レポートの一部分である「2016年に向けて教育がどういう位置づけになっていくのか」について、これまでどのような議論がされているのかを調べたり、また自分が日本人であることから、日本の中で教育がどの位置づけになっているのかについて、日本の文献、日本の学者の議論をまとめたりしていました。
そして業務以外にも自分の研究もしていました。ユネスコ本部には様々な研究者がいて、インターン中に少しでも多く彼らのコメントをもらうため、業務が終わると自分の研究を必死に進めていました。
周りに優秀な研究者がいるからこそ、いい刺激を受けていました。ユネスコ本部にいる色んな国の、色んな観点をもつ研究者と一緒に議論ができ、モチベーションもとても高くなりました。また、今回いったインターン先は自分の研究内容に深く関わっていたこともあって、最新のデータや情報ももらうことができました。

写真 ユネスコの仲間と

ユネスコ EDUCATION FOR ALL グローバル・モニタリング・レポート(GMR)チーム

インターンシップのメリット・デメリット?

デメリットはゼロだと思います。
私自身は今までインターンシップをもとにキャリアアップをしてきたので、インターンシップはキャリアを形成するためのいい経験だと思います。正直、私はあまり人前で話すことが得意ではないので、就職活動で他の人との横一列の面接で競争して勝つ自信はないですね。たった10分の面接より、インターンシップの方が、本当の自分を分かってもらえるのではないかと思います。そういう意味で、インターンシップは就職につながる確実の方法だと思います。

「未来を拓く地方協奏プラットフォーム」長期インターンシップとG.ecboの区別は?

G.ecbo(注3)は基本的に修士の学生を対象にしています。あまりキャリアを積んでいない、社会経験のない人も利用でき、研究のためのデータ収集なども目的の一部にしています。一方、「未来を拓く地方協奏プラットフォーム」は、博士や若手研究者が対象で、自分のキャリアに直接繋がることを目的にしていると思います。
私はインターンシップを複数回した方がいいと思います。修士の時にはG.ecboを使ってユニセフ東ティモールにインターンに行きましたが、その時は国連のシステムが分からず、なかなか自分の力を発揮できませんでした。今回同じ国連機関に2回行けたことで、スムーズに業務内容を把握でき、少しはチームに貢献できたのではないかと思っています。思えば、私は学部生から数えて、色んなところでインターンシップを4回もしてきました。

インターンシップに行ったときの語学力は?

ユネスコ本部内の公用語は英語とフランス語で、私はフランス語が全然できないのですが、チームでの業務は基本的に全部英語だったので、不自由はありませんでした(TOEIC960点)。GMRチームの中でも、チームメンバー25人中、フランス人は2人だけでした。仕事環境は、フランス語を話せないといけない環境ではないですが、話せると次のポジションに繋がったり、人脈が広がるなどプラスになることは間違いありません。そして、レストランで自分の好きなものを食べるにはやはり話せたほうがいいですね。次回に行く時は、フランス語を勉強しておきたいと思います。

海外でインターンシップをするときの心構えや注意点

海外インターンシップは仕事だけではなく、その国にも適応しなければなりません。仕事は生活の基盤が整わないと集中できないですね。なので、できることであれば知っている国や、すこし馴染みのある国に行った方が、やりたいことができるのではないかと思います。

これから海外インターンシップ、研究留学を目指す学生へのメッセージ

ぜひまず行ってください。自分の希望のところではなくても、行けば必ず絶対に何かがありますし、自分はこれが好きだと思っていたけど、全然違うことが好きだったとか、いろいろな発見があります。とりあえず行って経験したら良いと思います。

注1:「未来を拓く地方協奏プラットフォーム」http://home.hiroshima-u.ac.jp/hiraku/
注2: 隅田さんは2011年から2013年まで経済協力調整員として外務省の在モザンビーク日本国大使館で勤務しました。
注3: G.ecbo遡上教育型海外インターンシップhttp://www.hiroshima-u.ac.jp/gecbo/index.html

取材者:葉 夢珂(教育学研究科 言語文化教育学専攻 博士課程前期2年)

 


up