第13回 教育学研究科 文化教育開発専攻 D3 上ヶ谷 友佑さん

取材実施日:2015年10月28日
第13回の研究留学コーナーは、教育学研究科 文化教育開発専攻 数学教育学分野 博士課程後期3年の上ヶ谷 友佑(うえがたに ゆうすけ)さんに現在の研究内容やインターンシップ時の様子について伺ってきました。上ヶ谷さんは広島大学附属福山中・高等学校で教鞭をとりながら,生徒の数学の問題に対する理解に着目して研究をしているそうです。

上ヶ谷さんのインターンシップについて

〔インターンシップ先〕韓国 教員大学
〔インターンシップ期間〕2014年8月4日~2014年8月31日(D3時)
〔インターンシップ経緯〕G.ecbo遡上教育型海外インターンシップ
〔 支 援 〕 15万円程度(渡航費、宿泊費などを含む)

現在の研究内容は?

数学を「理解する」とはどういった状態なのかといった哲学的な問いを含めながら研究をしています。なぜ哲学的な手法をとっているのかというと,そもそもどのような授業が良い授業なのか,どういう数学の理解のあり方が良い理解なのかが分からないまま,実践的な研究をしても建設的な議論にはならないのではないかという思いが個人的にあるからです。
また,単純にペーパーテストの成績で判断するのではなく,数学の問題の本質を本当に理解した上で解を出しているのかということを考慮して,しっかりと授業に反映させたいと考えています。特に取り上げているのは,発問の形式とタイミングです。例えば,発問に入る前に直角三角形を作らせて,その後,直角三角形について発問します。また,学生が直角三角形を作っている時の様子を観察し,適切的なタイミングで発問します。このように,発問の形式とタイミングによって数学の理解の深まり方が異なるだろうと授業設計をしています。
数学は命題や定義などいわゆる文章で書ける知識の集合体だと思われていますが,むしろ暗黙知の集合体だと思っています。つまり,自転車に乗ることと同じです。自転車の乗り方を説明されただけでは乗れるようになれません。自転車を実際にまたいで乗って,体験をして初めて乗り方が覚えられるわけです。数学を学ぶことは,教科書に客観的な知識として定義が書かれているし,教師も黒板で定義を証明するので,結論はやはり客観的のように見えます。しかし,そのプロセスの中で生傷を作りながらこける体験を繰り返すことの方がむしろ数学の学びにとって本質的で重要だと思っています。そのため,いかに「こけさせるか」を考えています。
授業はただ講義を聞くことだけではありません。基本的には学習者と教育者の間にコミュニケーションがあるということを前提にしないといけないのではないかと思っています。もし講義を聞くだけであれば,教科書の問題文を読むだけで良いのです。教師側からどういう言葉をかけて問題に入るのかによって,学習者の理解度が違います。できるだけ問題に使われる設定を身近なものにして,例えば,文章題の設定を食塩水とか,公園で遊んでいる人数とかを使用するなどの工夫をします。教科書に書いてあるような問題を機械的に導入するよりも,もっとバックグラウンドを膨らませて,雑談みたいなところから入ってもいいと思います。いつの間にか学習者が数学の世界の中に入っているという感じが実現できたらいいなと思います。そのため,数学問題の内容によって,どのような工夫ができるのかを考えていきたいです。

インターンシップに行くまでの経緯

韓国にインターンシップに行ったのは,研究の一環で,幾つかの数学用語に関して日本人の理解の仕方と韓国人の理解の仕方の違いを調べるためです。
先行研究の中で,ある数学問題に対して,英語話者と韓国語話者の理解の仕方が異なるという主張があります。主な理由として挙げられているのは,英語の数学の用語は,英語の日常用語から来ていますが,韓国語の場合は中国語の翻訳から作られています。そのため,英語話者は日常の感覚に引きずられて数学の言葉を使ってしまうことがありますが,逆に韓国語話者は専門的過ぎて日常的な比喩が使えないので理解が難しいと言われています。
では日本人の場合はどうでしょう。日本の数学の用語は,韓国の数学の用語と同様に中国語由来の単語が多く,日本語と韓国語の数学用語の発音も似ています。しかしながら,日本は現在でも漢字を使用しているのに対して,韓国では漢字ではなくハングルを使用しています。そこで,漢字をベースにした意味理解は恐らく数学の理解に影響を与えるだろうと推測しており,日本人と韓国人の比較をしてみたいと思うようになりました。

インターンシップの収穫

韓国で実際に調査を行った際,いろいろな制限があり,参加者の学力をうまく統制できませんでした。結果としても思っていたほど大きな違いが見られませんでした。もちろん研究計画の段階で早めに気づけてもよかったことではありますが,データをとってみて気づかされることもたくさんあるなと分かりました。
また,自分で調査をしたからこそ,今まで見てきた国際比較研究が案外荒っぽい研究だったのではないかと批判的に見られるようになりました。
言語面についてですが,韓国の大学で調査をしていた時は英語でも通じますが,現地の店で食事をしたり,買い物をしたりすると少し困りました。ですので,もしインターンシップに行くなら,もうちょっと現地の言語がしゃべれるようになった方がいいですね。より深いコミュニケーションができるかもしれないからです。

これから海外インターンシップ、博士課程後期進学を考える学生へのメッセージ

一言で言えば,「案ずるより産むが易し」ですね。しんどかった分,大変だった分だけの得るものはたくさんあったと思います。頭で考えるよりも,とりあえず現地に行って,後はサバイバルするぐらいの気持ちさえあればいいのではないかなと思います。
D進学については,辞めておいた方がいいよと言われても進学するぐらいの学生じゃないと多分ダメだと思いますね。勧められたから進学すると多分途中で挫けると思います。ですので,止められても研究がやりたいという気持ちを持って来ていただければ充実したドクター生活になるのではないかと思います。
私も本当に研究の世界では何があっても上り詰めてやろうというつもりでやってきていますので,頑張ってトップクラスの研究ができたらいいなと思っています。

葉 夢珂(教育学研究科言語文化教育学専攻 博士課程前期2年)


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