第1回 理学研究科 教授 山本 陽介先生

取材実施日:2013年11月27日
今回より、新たに「研究留学コーナー」を開設しました。第一回目は、理学研究科 有機典型元素化学研究室の教授 山本陽介先生に、ご自身の体験や学生指導の経験から、研究留学の意義や必要性について伺わせていただきました。
 

教授 山本陽介先生紹介

山本先生は、理学研究科 化学専攻 分子反応化学講座の教授であり、有機典型元素化学研究室を率いております。また、「組織的な若手研究者等海外派遣プログラム(理工農系)」(現在はプロジェクト終了)(注1)の主担当研究者として、国際的な視野を持った研究者の育成に尽力されてきました。その経験から以前には、若手研究人材養成センター発行『Innovation』第1号のインタビューにおいて、「Dの学生にこそ留学を奨めたい」と答えていただきました。
また、ご自身の研究室の学生を盛んに海外へ送り出されています。学部からの留学も国際的視野を広げるなどの自分磨きのためには重要ですが、研究留学ということにはならないので、学部からの留学はHUSAなどの大学プログラムにチャレンジするのが良いのではということでした。今回は、学部・修士・博士課程後期のどの段階で研究留学にチャレンジできるかについて主にお話ししていただきました。

山本先生画像

留学の時期はいつ(学部・M・D)が良いと思いますか?

もし、本気で留学をしたいならまずは指導教員の先生と相談して下さい。語学留学なのか、研究留学なのか。そして具体的な計画を練っていくことになります。
私 の研究室を例に説明すると、学部3年生の3月で研究室に配属されます。学部の間に留学に行こうと思ったら、この月から4年生の8月頃までに卒業研究の成果 をある程度上げておく必要があります。そして12月頃まで半期の留学をし、帰国したらすぐに卒業論文の提出という流れになります。またこの計画はMへの進 学が前提条件にあります。就職活動に割く時間の余裕はありませんので。
次にM期間中に行く留学ですが、必修単位の取得や(行う学生は)就職活動な どがあり、タイミングが難しいのであまりお勧めできません。M1は研究者の卵とも言えない時期なので、受け入れ先の研究室が見つかる可能性も低いです。研 究留学でお世話になるとはいえ、受け入れ先とこちらが互いにwin-winの関係を築けないようであれば、つまりそれだけの実力や実績が無ければ厳しいで す。
時間的な余裕もあり、受け入れてもらえるほどの実力や実績がついたDは研究留学にお勧めの時期です。日本学術振興会の特別研究員になれていれば、自分の研究費を持てるので留学のための資金準備も容易になってきます。

研究面以外で留学を奨める理由はありますか?

やはり、学生自身の視野を広げるためです。以前に『Innovation』第1号のインタビューでも答えましたが、留学を通して国際競争力を身につけてお くことは、今後の就職や進学の機会に重要になっています。いくら優秀な研究者であっても、国内のポストは限られているため、現在では海外のポストも視野に 入れ、積極的に活動していかなければなりません。
また、Dは研究室においてMや学部生をまとめるリーダーとなります。様々な経験を積むことで、人を束ねる能力を身に付けてきてほしいと思っています。

留学にあたって英語は重要だと思いますが、指導方針はありますか?

英語で専門用語を交えながら、ディスカッションができるように指導しています。いくら立派な成果があっても、英語でそれを説明出来なければ海外に発信でき ません。そこで英語に慣れるためにも海外の学会で発表するチャンスがあれば、どんどん参加させています。英語で発表するための原稿を作る段階でより英語を 勉強することになり、当日の質疑応答を通して自身の英語力を自覚します。自分が自覚すればおのずと勉強するようになるので、自分を追い込む機会を作ること が大事です。

留学を奨める理由について教えてください

私たちの分野では、「○○○という装置が必要だから研究留学をしなければならない」ということはあまりありません。どこの大学の研究室でも、必要な装置は大体揃っています。では、なぜ学生を研究留学へ送り出すのか。海外の研究室で、そこの学生やポスドクとディスカッションすることによって違う視点を得て欲しいからです。そして別の実験手法を学び、ハイレベルな研究環境に身を置いて刺激を受けてくることも狙いです。帰国後は従来の手法と新しく学んできた手法を組み合わせて、より新しい研究を展開する力を身に付けられているのが理想です。普段、学生に「自分でテーマを展開できる能力」を付けるように指導していますが、留学で得られる多角的な視点は自分の研究テーマを検討し、展開していく上で非常に生きてくる力になります。

山本先生画像

留学先の選び方についてアドバイスをお願いします。

留学に行く時期が固まってきたら、受け入れ先の研究室との交渉になります。ここは先生の協力が必要なところです。現在、私の研究室からDのA君をオランダ へ送っていますが、彼の研究室は以前にも私の学生を受け入れてもらったところで、研究テーマと実績を伝えたら、OKを頂けました。相手の研究者が「面白 い!」と興味を持ってくれるテーマを展開していると強いです。
もう一人、DのB君をドイツに送っていますが、彼のところは、受け入れ先の教授とは 友人でも知り合いでもありませんでした。お互いに論文で名前は知っている程度です。しかしメールをして、彼の研究テーマと実績を伝えたらOKして頂けまし た。相手の教授が「面白い!」と思うテーマ、この学生は使えるなと判断されるような実績は必須であると再認識した事例です。

留学を経て、学生にはどのような成長が見られましたか?

前述のB君はドイツに行ってからちょうど二か月半です(五ヶ月間の留学予定)。報告を聞いていると、向こうの研究室は学生が二人以上居ないと実験 をしてはいけない、且つドイツの学生は8:00~17:00に研究をして、夜はすぐに帰るのが当たり前だそうです。日本では夜遅くまで実験をしている学生 もいますが、彼も現地に合わせ8:00~17:00の間に集中してかなり効率よく実験をする必要に迫られたそうです。日本に居る時よりもさらに効率の良い 実験のやり方を身につけたのはひとつの収穫でしょう。
また、日本にいると「こうじゃなければならない」といったような型がありますが、海外に出る とそれでは通用しません。自分のスタイルを柔らかくして、研究の仕方や生活の仕方を合わせていくことになります。そうしていると、どんどん柔軟な思考にな り、価値観が変わってきます。メリットとしては、効率化を図るようになり実験の仕方が変わります。国際人としての感覚が身に付き、様々なところで使える人 間になります。一方でデメリットもあり、海外の柔軟な思考に慣れてしまって日本の非効率な部分が目につくようになってしまいます。一度、より良いものを体 感していると戻りにくくなってしまうので、そのような場合は海外で自分の能力を活かすようにしていけば問題ないでしょう。

山本先生の現在の研究内容について教えてください。

「エキゾチックな分子の合成」を研究の基本コンセプトにしています。具体的な研究テーマは、有機合成になりますが、流行はできれば追いたくありません。自分の興味のおもむくまま(基礎研究)、社会に役立つというよりも教科書に載る仕事がしたいと考えていますが、研究資金が必要なので応用も少し考えるというようにバランスも見ながら研究しています。
最近では、共同研究チームを組み、文部科学省科学研究費補助金「新学術領域研究」平成24年度~28年度に採択されました。詳細は、ホームページをご参照ください。(注2)
学生にも挑戦をしてもらい、世界中でだれも合成したことのないものを研究し成果を出させています。従って、研究室のメンバーやその論文は、国内外を問わず知られていますが、研究の特徴から論文を引用されることは稀です。
通常は不安定で自然界では活用できない化学種を、化学的に修飾して不安定な部位を保護したり、固定できるような骨格を作ったりして、全体として安定化させていき、目的の化学種を単離するという研究が主です。そのためには、新しい多段階の合成が必要なので、研究としては、何かを合成している時間が大半をしめているという状況です。研究費もかかりますし、やっている学生さんも先が見えないことが多いので大変です。1,000回チャレンジし、ようやく1つのものが出来るということも多いです。研究室の具体的成果は、ホームページを参照ください(注3)。以前の研究では、5配位とか6配位の炭素化合物を作り出していましたが、こういう化学種は、通常とはちがう結合様式を持っているので、非常に面白い物性をもっていたりします。最近は、ちょっと物性面への展開も考えるようになってきたので、上記の新学術領域での共同研究はとても刺激的です。今は、自分たちが作った化合物の電池や光学材料への展開も少しですが行っています。

山本研究室画像

山本先生は以前、アメリカでの研究留学経験があると伺いました。その時のお話を聞かせてください。

私は、大学院を修了して、広島大学理学部の助手時代に一年間アメリカへ研究留学に行ってきました。その時の収穫は、研究に対する考え方が変わったことで す。それまでは助手の私が学生に指示をし、あとは学生が実験を進めていました。それは助手としては、指示だけすればあとは勝手に進んでいくので楽でした。 アメリカでは教授の考え方や進め方を学んで、自ら実験を進めていくしかありません。最初は辛い時もありましたが、ポスドクと友人になったり、国際交流をし たり、共同研究を盛んに行ったりすることで楽しみながら研究生活を送って来られました。学生指導の面でも帰国後は柔軟になったと思います。

これから研究留学を目指す学生へメッセージをお願いします。

興味とやる気があったらとりあえず飛び込んでみてください。学生間での情報共有も必要だと思いますが、指導教員やチューターと相談するのも良いと思いま す。英語に関しては、一生懸命にやっていたらどうにでもなります。Dで研究面でも個人面でも特徴の無い学生、中途半端な学生は研究留学も就職も難しいで す。逆に言えば、手に確かな実験技術があり、正確な実験を行える学生は、企業でもアカデミックでも生きて行けるでしょう。もちろん研究留学の道も開きやす いです。自分の強みは何かを考え、広い視野で研究テーマにとことん向き合っていってほしいです。

(注1) 組織的な若手研究者等海外派遣プログラム http://www.jsps.go.jp/j-daikokai/index.html
(独) 日本学術振興会による理工農系、医歯系、人文社系と三つの枠組みで全学をカバーしていた若手派遣支援体制。海外発表や研究留学へ行く学生・若手研究者の資金支援を行った。希望者は書類申請し、書類選考通過者は英語での面接を受け、採用が決められていた。
(注2) 文部科学省科学研究費補助金「新学術領域研究」平成24年度~28年度 感応性化学種が拓く新物質科学 ホームページhttp://www.strecs.jp/
(注3) 有機典型元素化学研究室(山本研究室)ホームページ http://home.hiroshima-u.ac.jp/hetero2/
【参考】 広島大学国際センター「留学・研修プログラム」ホームページ http://www.hiroshima-u.ac.jp/kokusai-center/out_bound/ryugaku_program/

取材者:志田 乙絵 (文学研究科人文学専攻 日本・中国文学語学コース 博士課程前期1年)

 


up