第3回 工学研究科 建築学専攻 D1 松尾 薫さん

取材実施日:2014年1月8日
第3回目は、工学研究科建築学専攻建築環境学研究室の博士課程後期(D)1年の松尾薫(まつお かおる)さんに、現在の研究内容や研究留学の収穫などを伺ってきました。松尾さんは、工学研究科海外インターンシップ教育事業(海外共同研究)を活用し、海外留学を経験され、研究留学後も相互の研究室交流に繋がっているそうです。

松尾さんの研究留学について

〔留学先〕  中国・上海交通大学
〔留学期間〕 2011年8月末~9月末(M1時)
〔留学経緯〕 所属研究室と上海交通大学の共同研究の一環として
〔 支 援 〕 工学研究科海外インターンシップ教育事業(海外共同研究)から渡航費、宿泊費に約27万円
〔留学費用〕 渡航費約10万円、宿泊費約15万円、生活費約5万円

現在の研究内容は?

「都市高温化現象緩和を考慮した都市づくり」が私の研究テーマです。対象地は中国・上海です。現在、中国は大気汚染の悪化が話題になっていますが、都市部では急激な人口集中によってヒートアイランド現象も近年深刻化しています。気温上昇を緩和するためには、風の流れを作ったり、緑を植えたりするなどの対策が考えられ、これらを効果的に取り入れるためには、対策が必要なのはどの地域なのかを把握しなければいけません。そこで、気候環境の調査・研究から得られた知見をもとに、どの地域にどのような対策が必要かということを、地図(都市環境気候地図)に示します。このように目で見て容易に分かる形にし、実際の街づくりの現場で役立ててもらうもの、現場で都市づくりを担う建築家や都市デザイナーと都市気候の専門家の橋渡しをするもの、を作成し、提供することが私の研究になります。

(注1)都市環境気候地図とは、対象地の気候環境の現況や、気候環境の視点からの計画指針を分かりやすく地図上に表現した地図集をいいます。

松尾さん画像

研究留学に行くまでの経緯は?

まず、私はそこまで海外志望では無かったという過去から始まります。学部4年生までは海外経験もなく、海外に対して少々の恐怖心も抱いていました。しかし、そんな自分を変えて一歩踏み出そうと思い、研究室配属後の研究テーマを決める際、対象地に上海を選びました。海外を選べば調査のために日本を出なければならないからです。そのテーマはすでに指導教員の先生と共同研究先の上海交通大学の先生と研究プロジェクトになっていたので、上海交通大学へ上海地区の調査のための留学に行くことは半ば決まっていました。その後、工学研究科の海外インターンシップ教育事業(海外共同研究)に応募し、書類選考、面接を経て一か月の留学に至りました。

留学先での研究内容は?

都市環境気候地図は、各地ごとの都市計画に沿ったものである必要があります。受け入れ先の研究室の先生は都市計画の専門家なので、実際に上海の都市計画について教えていただいたり、プロジェクトの進め方についてディスカッションを重ねたりしていました。また上海の気温が高い地域、風がよく吹く地域などを把握する必要があったため、上海の街を歩き、気温や風向き、風速などの測定を繰り返しました。そのほかには、地図上だけでは分からない重要な環境要因(高層建築物の配置など)を現地視察によって把握していきました。日本に居る時は地図や地形図を見て把握するしかなかったので、なぜその地域は高温になりやすいのかを検討しても要因がはっきりと分からない時が多々ありました。今は、視察したときの記憶を頼りに、「なぜこの場所が?」という疑問を解決しています。

留学先の上海交通大学画像
測定器(写真中央)を設置して測定中画像
屋上で測定中の松尾さん画像

画像(上から):留学先の上海交通大学
測定器(写真中央)を設置して測定中
屋上で測定中の松尾さん

留学時の語学力は?

中国語は全くの初心者だったので事前に初級中国語を勉強してから行きましたが、現地ではほぼ話せていませんでした。中国語には声調があるので難しいですね。英語は、TOEICで言うと600点くらい、国際学会で英語の口頭発表がなんとか出来るくらいのレベルです。現地の先生や学生とは英語を使ってコミュニケーションを取っていましたが、一か月ではあまり伸びた感じはしません。上海の学生は、英語の文法はめちゃくちゃでも話そうとする意欲が強く、積極的に話しかけてくれました。おかげで「下手でもいいから話そう!」という度胸はつきました。

上海市風景 画像
留学先の先生と
研究室の学生と食事へ 画像

画像(上から):上海市風景
留学先の先生と
研究室の学生と食事へ

研究留学を経ての収穫は?

メリットとしては、語学力向上への意欲増加、そして何より研究の発展と研究ネットワークの構築が挙げられます。自分で都市環境気候地図の研究をしていても、本当に現地の人に必要とされているのか不安な部分もありましたが、留学を経て実際に必要されていると分かったことも大きな収穫です。上海交通大学の研究室の先生とは、留学から二年半が経った現在でも交流が続いており、共同研究を進めています。去年の夏に来日されたので、ディスカッションをしたり、観光案内をしたりしました。また上海の学生もこれから日本で研究をしていきたいそうなので、ますます交流は増えそうです。

これから研究留学を目指す学生へ

留学すれば、急に自分の何かが劇的に変わるわけではないですが、自分の成長の糧になったことは確かです。大事なのは、このような経験を積み重ねることだと思います。
ですので、留学に行きたい人、留学するチャンスがある人は積極的にチャレンジしてください。自らの視野が広がる経験ができるだけでなく、世界的規模で研究分野を把握することで自分の研究の立ち位置が分るため刺激を受けたり、自信に繋げたりすることができます。

研究室の仲間 画像


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