第14回 総合科学研究科 総合科学専攻 D3 小出 美由紀さん

取材実施日:2016年1月29日
第14回研究留学は、総合科学研究科総合科学専攻の博士課程後期(D)3年、小出 美由紀(こいでみゆき)さんが取材に応じてくれました。小出さんは、修士課程の時にドイツで1年間ボランティアを行った経験を持っています。その時に肌で感じた市民活動拠点での地域活性化に魅了され、いったん社会に出た後、Dに進み、再びドイツへの留学を決めました。留学までの経緯、留学への心構えをお聞きしました。

小出さんのインターンシップについて

(留学先)ドイツ ハンブルグ大学(University of Hamburg)
(留学期間)2014年10月~2015年7月 2015年3月までが部局間交流での派遣留学生、それ以降は私費留学
(留学経緯)総合科学部学生支援室への相談から部局間交流の派遣留学生への応募を行った。
(支援)児玉派遣留学奨学金(注1)30万円  学生独自プロジェクト研究費30万円
(留学費用)渡航費約20万円、宿泊費約40万円、生活費約40万円

(注1)児玉派遣留学奨学金
 https://momiji.hiroshima-u.ac.jp/momiji-top/learning/kodamascholarship.html

研究内容はどのようなものですか?

私は自然保護区における地域博物館やビジターセンターなどの社会教育施設を研究対象にしています。学校教育との連携や博物館活動への市民参加の可能性など、地域のステークホルダーとの関係から施設が市民の環境活動拠点としてどんな役割を果たせるのかについて検討しています。皆さんは地域博物館やビジターセンターなどをご存知でしょうか。こうした市民活動拠点は人々の交流の場となり、地域活性化などに重要な役割を担っていると考えられています。しかし、日本においては利用者の中心は高齢者層であり、若年層の関心が薄いことが問題となっています。研究の中でどうすれば若年層の人々に興味を持ってもらえるのかを調べるために私が着目したのがドイツの政府プログラムでした。
ドイツには政府主催のボランティアプログラムがあり、20歳前後の義務教育を終えた若者がそれぞれ関心のある分野のボランティアに半年から1年ほど従事することができます。このプログラムではボランティアで必要な作業服や宿泊などまで若者自体が負担するものはありません。自分のやりたいこと、進みたい道についてしっかりと考えることができ、その上で進学や就職を行うメリットもあるそうです。また、市民活動拠点にとっても、毎年一定数の若者が参加することで、更に組織が常にフレッシュに保たれたり、身近な施設として継続的に利用されたりしているようです。こうしたドイツの取り組みを知ることで日本での若者の取り入れ方や市民活動拠点の活性化について示唆を得られるのではないかと考えています。
また、総合科学研究科が主催する学生独自プロジェクト(注2)に採択された研究も行っています。この学生独自プロジェクトは学生主導で行われる分野横断型で独創性のある研究企画を支援するプロジェクトで、他の研究室や研究科の人と共同で企画して研究をすることとなっています。私の場合は教育学研究科の阪上弘彬さん(注3)です。彼とは、全くつながりがなかったのですが、ある学会がきっかけで同じ広島大学、同じドイツに興味があることが分かって、さらに同じ時期にドイツに留学することまでも分かって意気投合し二人で企画・応募しました。この中で私たちはドイツの持続可能な教育(ESD)について社会教育と学校教育の2つの視点からドイツの環境教育について実地調査を行いました。現在はドイツでの調査と留学を終えて、まとめの段階に入っています。分野を超えることで何か新しい発見や面白いとらえ方が見つけられたらと考えています。

(注2)広島大学総合科学研究科学生独自プロジェクト http://www.hiroshima-u.ac.jp/rm/p_d74dc2.html
(注3)研究留学コーナー 第15回 教育学研究科 D3 阪上 弘彬さん

(写真:地理学演習のグループメンバー)

留学に行くまでの経緯は?

ドイツ政府主催のボランティアプログラムには海外からの特別枠があり、私はその枠で過去に1年間環境ボランティアに従事した経験がありました。先述したように、こうしたプログラムがあることで市民活動拠点が活気づいているのを肌で感じることができました。Dで研究を進めていく中でどうして日本は市民活動拠点の利用が偏ってしまうのかと考え、何がドイツと違うのか興味を持つようになりました。プログラムあるなしの問題ではなく、参加する学生の考え方、ボランティア受け入れの成果や問題点など生の声を聞きたいと思うようになりました。そこで総合科学研究科の学生支援室にドイツにいける留学制度がないか相談に行きました。その時たまたま部局間交流の交換留学生の枠があることを教えてもらい、応募してみることにしたのがきっかけです。
 留学にもいろいろなパターンがあり、研究室に所属して研究を主とする留学、大学生として通常の授業を受ける留学、インターンなど様々です。私もどういった形で留学するかはとても迷いましたが今回は交換留学生として大学で通常の授業を受けつつ、独自で調査する方法を選びました。

留学先の環境は?

部局間交流による留学であったのでハンブルグ大学の学生として受けたい授業を受講し、通常の学生たちと同じように学生生活を送りました。研究室に配属されることはなかったので指導教員はいませんでしたが、代わりに授業で同じグループになったドイツ人の友人達が助言をしてくれました。
宿は大学からは少し離れたところですが比較的に安い値段でホームステイしました。ホームステイといってもホストファミリーが仕事の忙しい方だったので食事は別々が基本でしたが、たまに食事の時間が一緒になったときやパーティーのときは一緒に食事をしました。ドイツでは割と多いスタイルのホームステイだそうです。友人とも食事に行ったり、ステイ先や友人宅で寿司やお好み焼きを作ってふるまったりもしました。
私が今回の留学で特に意識していたのは日本人コミュニティにあまり頼らず、ドイツ人の人々としっかりと交流することでした。ハンブルグ大学には留学生も多く、日本人の学生もたくさんいます。留学して心細いとついつい同じ国の学生で固まってしまいますが私はせっかく留学したのに学べる機会が減ってしまうと思い、なるべく現地の学生と交流させてもらいました。
また、研究を行うときは自分でアンケートを作成したり、アポイントメントを取ったりしますが、授業で知り合った学生やSNSで知った交流会に参加することで多くの友人を作ることができ、その方達が研究にも協力してくれたのでより良い研究活動を行うことができました。

(写真:ホームステイ先のクリスマスパーティー)

留学時の語学力は?

今回は2回目のドイツの長期滞在だったので、ある程度の日常会話を行うくらいはできるようになってはいましたが、自然なドイツ語を使えるほどではありませんでした。ハンブルグ大学での授業は、スピーチやディスカッションが主な内容なので発言をしないと授業をうけている意味が半減してしまうと思っていました。それでも最初は自信がなくて、なかなか授業で発言することができませんでした。しかし、みんなの質問をよく聞いていると割と基本的なことも聞いているので恐れずに発言していこうと思い直しました。発言しはじめてからは友人が私のドイツ語を直してくれたので上達した気がします。そのおかげで留学の後半には同じ年代のドイツ人の方々とお茶をしながらいろいろな話をしたり、アンケートをスムーズに行なったりできるようになりました。
 

研究留学を経ての収穫は?

実際にドイツに行って一番良かったことは多くの人々と話すことで実際にどのように思っているかを感じることができたことです。同じ回答でも紙媒体で見るものと実際に現場で話を聞くのでは印象がかなり違いました。私たちの研究ではアンケートなどで研究を進めることが多く、実験のように数値によって結果が確実に出るわけではありません。そのため、同じ「Yes」の回答でも「もちろんその通り」という感想なのか「どちらかといえばそうかな…」という気持ちであるかは測りかねる場合が多いのですが、実際に顔をあわせて聞くことでそういった少しの違いも感じ取ることができ、さらに深い質問を行うことができました。
さらに、今回の留学では自分の中の積極性が向上したことが大きいと思います。授業や調査で臆することなく自分の気持ちや疑問をぶつける機会を得たので少々のことでは動じなくなりました。

これから研究留学を目指す人へのメッセージ

留学したい意思と留学が可能なチャンスがあるのなら勇気を持ってチャレンジして欲しいと思います。
 私もいろいろな不安もありました。特に調査や研究をしようと思うと語学はとても不安でした。しかし、一生懸命やろうとアクションを起こすことでたとえつたない言葉でも伝えることができますし、多くの方が協力してくれます。それに書面上のやり取りではなく、実際に会って話せることでより気持ちをダイレクトに感じ取ることができました。皆さんもぜひ勇気をもってチャレンジしてください。

取材者:岡田 佳那子(理学研究科生物科学専攻博士課程後期3年)


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