第12回 広島大学特別研究員(GCDC) 孟 令宇さん

第12回 広島大学特別研究員(グローバルキャリアデザインセンター) 孟 令宇さん インタビュー

取材実施日:2015年7月6日
第12回の研究インターンシップコーナーは、広島大学特別研究員(グローバルキャリアデザインセンター)の孟 令宇(もう れいう)さんにお話を伺いました。中国語と日本語、そして時に英語を交えながらお話していただきました。

孟さんのインターンシップについて

〔インターンシップ先〕オーストラリア ARC CGSE(オーストラリア国立地盤研究所)
〔インターンシップ期間〕2015年3月~2015月5月(特別研究員在籍時)
〔インターンシップ経緯〕「未来を拓く地域協奏プラットフォーム」(注1)
 イノベーション創出人材の実践的養成・活用プログラムの一環として。先端の研究を体感したいという思いや、より実用的な研究を身に着けたいという思いから。
〔 支 援 〕 渡航費、宿泊費、生活費などを含むほとんどの費用

現在の研究内容は?

私の専門分野は地盤工学です。その中でも私の研究内容は地盤沈下についてです。
地盤が沈下する要因は、自然由来のものや人工的なものがありますが、どちらも、一度沈下が起きると、基本的には二度と元の高さまで戻ることはできません。そのため、建築物に影響を与えたり農作物の被害など農業への悪影響を受けたりすることもあり、非常に重大な問題となっています。
私は、地盤沈下が起こるときに地下水がどのような状態になるかという研究をしており、そのシミュレーションをするためにプログラミングを作成しています。
地下水はだいたい地面から3メートルほど下を流れています。建物を建築しようとする場合、もし地下水が地盤よりも高い位置にある時は、そのままでは建物を建築できないため、まず井戸を使って水を抽出します。そうすると地下水の水面が変動することになるので、隣の建物に影響がでてきます。つまり、隣の建物の地盤沈下が起きてしまい、結果的に建物の破壊につながることになる場合もあります。
例えば地下鉄を建築しようとする場合、地下鉄は人口規模の大きい市内の中心部に建設されることが多いので、周りに高層ビルがたくさんあります。その場合に、地盤沈下が起こることで周りに与える影響は多大です。
それらの程度や確率などをシミュレーションするため、プログラミングを自分で作っています。すでに開発されているモデルもありますが、それらは古くなりつつあるので今新しいモデルを開発しています。常にアップデートする必要がありますが、これによってどのくらい地盤沈下が起きるかを測定することができます。

日本に留学し、その後オーストラリアへインターンシップの経緯

私は、学部時代から海外に留学に行きたいという思いを持っていたので、修士課程進学の際にオーストラリアのメルボルン大学と広島大学と両方に、留学の申請をしていました。実は、中国での指導教員も広島大学の10年前の卒業生で、研究科も同じ国際協力研究科(IDEC)でした。そのため、広島大学の魅力や研究環境などを先生から聞いていて、広島大学をとても身近に感じていました。また、メルボルン大学よりも広島大学からオファーが来るのが早かったので、広島大学に留学することを決めました。
このような経緯で、2009年に来日しました。日本での研究は、論文の執筆や発表など、すべてを英語で行っています。そのため、来日して6年になりますが、日本語は今もあまり話せません。私の第一外国語は英語、第二外国語は日本語だと認識しており、日本語よりも英語の方が得意だと思います。
次に、オーストラリアのCGSEという研究所のインターンシップに関してです。
CGSEとは、「The Australian Research Council Centre of Excellence for Geotechnical Science and Engineering」 の略です。オーストラリア国立地盤研究所とも言います。広島大学の「未来を拓く地域協奏プラットホームイノベーション創出人材の実践的養成・活用プログラム」の中で申請し、インターンシップに行くことができました
CGSEでのインターンシップに関心を抱いたのは、日本よりも技術的にも最新であり、様々なことを学べると思ったからです。また、日本では理論的な研究を多くしていますが、インターンシップ先の研究所は実用的な研究も重視しており、企業と連携して行う共同研究なども盛んでした。
CGSEでは、実用的な研究を体感することができ、企業との共同研究に参加できるという点が非常に魅力的でした。また、学部時代にも申請したメルボルン大学も関わっている研究機関であり、当時から行きたいという思いが強く、今回念願のインターンシップとなりました。

インターンシップ先の研究環境

私がお世話になったオーストラリア国立地盤研究所は、メルボルン大学を含む4つの大学の共同研究という形をとって運営されている研究所です。それぞれの大学が小さな研究センターを持っているのですが、今回行ったのはその中でも最も大きいセンターで50人くらいの研究員が在籍している所でした。
アメリカ人、フランス人、カナダ人など複数の国から来た研究員と知り合いになりましたが、日本人の研究者は1人もいませんでした。

インターンシップの収穫

一言でいうなら交流です。
1つ目は研究に関する交流です。日本で主流となっている研究方法と海外の主流となっている研究方法には違いがあり、自分とは異なる立場の人もたくさんいました。そういう場合には、「自分の理論とは違うな」、と感じることもありましたが、同時に刺激も受けました。研究方法や研究者の観点によって使っているモデルなども異なっており、新たな知見を得ることができました。
2つ目に、文化的な交流です。今回のインターンシップは、研究所に国内外からの研究者が終結した他国籍な状態でしたので、常に国際的な交流という状況でした。コミュニケーションは、英語で行いました。
海外で生活する中で、教授の名前の呼び方や、食文化、スーパーなどお店の営業時間、公共交通機関の本数など、日本や中国との違いを感じることはたくさんありました。そこで学んだことですが、海外にインターンシップに行くときには、やはりインターンシップ先の文化を尊重することが重要だと感じました。語学力も、少し向上したように思います。
また、オーストラリアは広大で車移動が基本となるのですが、今回の日常生活では、車がない状態でしたので、とても不便でした。バスはありますが、1時間に1本しかありませんでした。このように、何事もスピーディな生活空間というわけではなく、生活スピードはあまり早くないと感じました。個人的な感想ですが、日本よりもオーストラリアの方が時間がゆっくり進む気がしました。

インターンシップで感じた日本との違い

日本との違いを感じたことは、研究員の位置付けです。研究員は、日本ではあまり一つの職業としてみなされておらず、研究員の数もあまり多くないのが現状です。
しかし欧米では、研究員を一つの職業とみなしています。研究員にもレベルがあって、教授、研究員1、研究員2、博士課程の学生、修士課程の学生、学部生というピラミッド構造の研究室を構成しています。
先生は事務的な仕事や学生への講義など、いろいろやらなければならない仕事があるので、研究に専念することは時間的に難しいといえます。そのため、海外では研究員が博士や修士の学生の指導をするというのが一般的です。また、研究員は教授と違って研究する時間が多く取れるので、研究員が最新の研究に詳しい人だとされています。このような良いシステムも欧米では導入されています。
また、文化的な面では、日本人はあまり自分の意見を積極的に言わない人が多いと感じます。しかし、欧米ではそうではありません。また、欧米の方が日本よりも学術的に開放的だという印象を受けました。

今後の展望

私は将来、現在の研究内容を引き継いだ建築関係で起業したいと考えています。そのための実用的なスキルを学ぶという点で、今回のインターンシップは今後に役に立つ経験ができたと思います。現状では、中国に帰国して起業したいと考えていますが、技術面はオーストラリア、アメリカ、日本などといろいろ連携していきたいという考えを持っています。

研究インターンシップを目指す皆さんへのメッセージ

まずはチャンスがあればぜひ海外に行ってみてください。海外に行ってみないと、知らないままでいる事柄が多いと思います。外に出て初めて知ることは案外多いですよ。自分のこれまで学んだことと違うことを知るなど、やはり海外に行ってみる価値は大きいと思います。

(注1)未来を拓く地方協奏プラットフォーム「HIRAKU」 http://home.hiroshima-u.ac.jp/hiraku/

取材者:二宮 舞子(総合科学研究科 総合科学専攻 社会環境領域 博士課程前期1年)


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