第11回 三島食品株式会社 馬場 堅治 氏 / 中村 聡 氏

奇跡や変化を起こし、会社・社会の変革を導く“奇人・変人”を求める

取材日:2018年6月19日

言わずと知れたふりかけ界のベストセラー『ゆかり』でお馴染みの三島食品。それと同時に、医療・介護施設と連携して介護食ブランド『りらく(Re:楽)』も立ち上げ、高齢化が進む日本社会に必要不可欠な介護食分野の先頭を走っています。そのような新境地の商品開発に挑戦し続ける三島食品 研究所の研究所所長である馬場さんと、新商品開発担当の中村さんに、キャリアの歩みや商品開発研究の楽しさ、そして研究に取り組む資質についてお伺いしました。

 三島食品株式会社
 研究所所長 馬場 堅治 氏(写真左)
 研究所 中村 聡 氏(
写真右)

略歴

馬場 堅治 氏

【学歴】 

1978年3月 広島大学 工学部 応用化学科 卒業 

【職歴】 

1978年  4月 三島食品株式会社 研究所 入社
1988年12月 同上 開発部
1989年  7月 同上 研究所所長
2011年11月   同上 取締役研究所所長

(現在に至る)

中村 聡 氏

【学歴】 

1986年3月 佐賀大学 農学部 農芸化学科 卒業 

【職歴】 

1986年  4月 三島食品株式会社 入社
1986年  7月 同上 研究所
1989年  7月 同上 開発本部
2004年12月 同上 営業本部 マーケティング
2009年  7月 同上 開発本部
2013年  4月 同上 研究所

(現在に至る)

キャリア選択とそのきっかけ

三島食品を選択した理由と、その研究職についたきっかけについて教えてください

【馬場さん】
大学では、化学系の学部に在籍していました。当初は、石油関係の企業への就職を目指していましたが、就職時期がオイルショックと重なってしまい、石油関係の企業への就職が難しくなってしまいました。そのとき、大学の先輩が三島食品で働いていて、紹介してもらいました。その当時、食品企業へ化学系学部から就職することは、あまり一般的ではありませんでしたが、食品企業でも、味や品質といった色んな分析を行っており、研究の基本的な部分は石油関係の企業とも同様であるので、三島食品に就職しました。景気が良くなったら転職することも当初は考えていましたが、品質管理や製品開発を行っていくことが思った以上に面白かったので、今に至ります。

【中村さん】
私は、大学で食品製造学というゼミに在籍し、食品について研究していました。まさに、食品の研究を行っていたことから、食品企業に就職し研究したいと考えていました。そこで、ゼミの先輩が三島食品に就職していたというご縁もあり、三島食品を希望し、入社しました。

三島食品における研究開発職

食品企業で研究をする魅力とは何でしょうか

【馬場さん】
人間が生きていくためには、食事が大事です。食事が悪いと、病気を患いやすくなり、結果として医薬品に頼らないといけなくなります。バランス良く、十分な栄養素を食事で摂取していれば、大きな病気にはなりにくいと思います。つまり食品業界は、病気を予防するといった点で、病気を改善する製薬業界とは違った重要性をもつ業界だと思います。三島食品では、ふりかけやレトルト食品、そして冷凍食品と様々なジャンルの食品を扱っていますので、規模は小さいながらも、食品業界の全体に関われる重要な研究・開発に従事できます。

【中村さん】
私は、入社してから3年間研究所に在籍しましたが、その後研究から離れ、新製品開発やマーケティングの業務に約20年程度従事しましたそのような中、色々な医療機関や介護施設に伺うことも多々ありました。そこで介護食を見ると、細かく刻んだものやペースト状にした、見た目が今一つで美味しくなさそうなものが見受けられました。その経験から、いかに美味しく口から食事をすることが重要であるかということがわかりました。そこで見た目はそのままで歯ぐきで潰せる惣菜など、多くの方に『五感で食事を楽しんでもらうため』に、現場で得た経験や知識を生かして貢献できることが魅力だと思います。

その中で三島食品の強みは何ですか

【馬場さん】
難しいですね。他社の方が技術的に上のことが多いですし、一概に言えないです。三島食品は、他社より価格が高いことが多いですが、それを補って余りあるものを販売していくために付加価値によって差別化しています。

【中村さん】
他社が、あまり取り組んでいない隙間を探しているところでしょうか。市販商品は、大きな企業がどうしても強いですが、業務用商品ではいろんなことができますので、やり方によって付け入る隙を探しています。特に、介護施設や病院施設では、当社の練り製品は認知度がかなり高いので、それは我々の強みかなと思います。どこにいっても、のり佃煮などの練り製品を使っているよ、というお声をいただきます。

三島食品における研究職について教えてください

【馬場さん】
三島食品では、まず工場の品質管理が研究職のスタートです。研究職として、研究に従事し、新商品を開発していくために、商品ができる工程をしっかり理解する必要があります。そのために、商品が作られる工場で働き、その仕組みや流れを体感することが研究職の第一歩であると考えています。その後研究所に配属されるのですが、三島食品では、研究職は大きく“技術開発”と“新商品開発”に分かれています。“技術開発”がいわゆる基礎研究、“新商品開発”がその名の通り商品開発です。以前は、研究と開発で明確に区分していましたが、現在は商品開発という一括りにしています。理由は、部署を分けてしまうと、他方に興味を持たなくなってしまい、同じところにいても、隣で何をやっているか分からなくなってしまうためです。そのため、現在は基礎研究と開発で一つの部署として研究開発しています。

三島食品における研究者のニーズについて教えてください

【馬場さん】
研究職として入社してくる方は、それまで研究を行っていて、物事を論理的に考え、遂行していく力があります。そのため、研究職として働くだけでなく、営業職や開発職に異動になっても、早く戦力になることが多いです。そのような点で、研究を行ってきた人は優秀だと思います。ですので、三島食品では研究職として入社しても、開発や営業に異動する場合も多くあります。私も、彼(中村さん)も開発・営業を経てから、現在の研究所勤務になっています。

取材時の様子

研究開発とキャリア形成

開発や営業への異動によって、研究に対する価値観は変わりましたか

【馬場さん】
私は、研究所に管理職として移動してきたので、実際に商品開発はしていません。ただ、ずっと研究職として働いて、直接お客さんと話していない研究員の場合は、お客さんの要望がわからないことが多いです。やはり、営業や開発を通した“また聞きのまた聞き”になってしまうため、本当の意味の理解が難しいです。直接的にお客さんの意見を聞けることが、開発や営業として働く価値だと思います。私は管理職として、お客さんと研究員の間をつなげるように、研究員の不平不満を解除できるように頑張りました。また、研究員の中には、文系学部の出身で研究への基礎知見もなかった人もいますが、研究所に違った風を吹かせてくれるだけでなく、ユニークな商品を作りますよ。1億円規模の商品を作ったケースもありました。

【中村さん】
自分が経験したことを生かしながら商品開発ができることが、営業や開発を経験することの大きな利点だと思います。自身の経験値に自身のアイデアを加えて新商品を作ることや、“こういったものを作ってほしい”という要望に対して、さらなる付加価値をつける提案ができ、自分らしい視点からの発想や意見が生まれるようになりました。このように研究所の外に出たことが、いろんな意味で役に立っています。

大学時代や若手研究者時代にしてよかったこと、今役立っていることはありますか

【馬場さん】
何にでも興味をもつことですね。入社してすぐは、色々な研究をしました。その中で、小さな変化や事象に気付く重要性を学びました。それは諸先輩方の指導の賜物だと思います。若い時から、視野を狭くせず、広く取り組んでいくことが大切だと思います。

【中村さん】
大学では酵素の研究をしていたので、入社してすぐは、新しいことや知らないことばかりでした。特に、大学当時にやっていたことがすぐ何かに繋がったということはあまりなく、働きだして学ぶことばかりでした。

最後に、大学生や若手研究者へのアドバイスをお願いします

【馬場さん】
三島食品は“奇人・変人”を求めています。文字にするとちょっと変ですが、何にでも興味を持ってやってみる、ダメだと思わないでチャレンジすることで、新しい風を吹かせる人材になってほしいです。大学時代に勉強していることは基礎であり、会社に入ると色々なことをします。何でもしてみる・やってみるという気持ちを持つことが大事だと思いますね。また就職活動時には、元気よく・マニュアル通りにしないことを心掛けてほしいです。私は30年近く面接をしていますが、「いい答えだけど、どこかで聞いたなあ」と、いつも感じます。

【中村さん】
前向きによい方向に考えることが大切だと思います。人間は、考え方によって気持ちが変わってくるので、前向きに考えることが大事です。考え方一つで悪いことも、よい方向に転がっていきますよ。研究でもこの考え方が大切だと思います。悩む課題や問題について、ふさぎ込んで考えるのではなく、頭のどこかに入れながら他のことをしていると、フッと発想が浮かんできたりします。難しく悩むのではなく、ポジティブに物事を捉えていくことが良いと思います。

取材者感想

“ゆかり”で有名な三島食品ですが、それ以外の食品分野でも数多くの挑戦を行っていました。その研究所において、新たな発想を生み続け、新商品開発を行っている馬場さん、中村さんのお話から、食品業界における研究の重要性を再認識しました。また、内向き(研究室)ではなく、外向き(お客さんやユーザー)になることが、キャリアや研究を進展させていくポイントであると教えていただき、自身の今後に繋げていきたいと感じました。

取材担当:広島大学グローバルキャリアデザインセンター特別研究員 梅原 崇


up