「世の中をびっくりさせたい」というわくわく感で世界を変えていく
取材日:2018年5月8日
生産機械科出身から、スマートハウスの研究・開発の道へ進んだ大和ハウス吉田博之主任研究員。皆にもっとびっくりしたり、わくわくしたりしてほしいと言います。そんな吉田さんのお話を通して、キャリア選択、研究者に求められる姿勢や資質の視点について紹介していきます。
大和ハウス工業株式会社 吉田 博之 氏
略歴
【学歴】
1988年 3月 熊本大学工学部生産機械工学科 卒業
【職歴】
1988年 4月 大和ハウス工業株式会社入社 四国工場にて自動化ラインの構築に従事
1990年 5月 住宅研究開発部デザイン室にて住宅商品開発業務に従事
1994年10月 総合技術研究所設立後スマートハウスの研究開発に従事
(現在に至る)
大和ハウス工業を選択した理由と、研究職についたきっかけについて教えてください
大学では、工学部生産機械工学科に在籍していました。機械科出身ですが、もともと絵が好きだったので、デザインの仕事をしたかったというのがありました。ただし、機械科出身で工場に行くとそういう機会は少ないだろうと思い、また、住宅会社に入ればそういう仕事に携われるのではないかという期待があり、大和ハウス工業に就職しました。キャリア選択でいうと、機械系から住宅会社には普通は行きませんが、以上の理由から住宅会社を選択しました。
入社した後、実は最初2年間工場に勤務していまして、生産機械の管理などをやっていたわけです。機械科を卒業したので、当然の配属先ですね。とはいえ、もともとの志望はデザインというか、住宅の内装、インテリアデザインでした。それに携わりたいという気持ちが強くなって、2年目に上司に相談しました。大阪に住宅研究開発部があって、そこにデザイン室があるため、そこに行ってみたらどうだという話をもらいました。それで、大阪に転勤したというのがデザイン業務に関わるようになったきっかけです。
配属された部署は住宅研究開発職、研究開発部という名前にはなっていたのですが、商品開発を実際に行っている部でした。そのため、研究職としてそこに行ったというよりも、商品の開発のためにそこに行きました。そこで4年在籍しました。ちょうどその頃、奈良に、住宅研究開発部と住宅商品開発部が合体し研究開発機能を集約させた「総合技術研究所」が設立されました。そこで、奈良に引っ越して、そこから研究職のような仕事になりました。総合技術研究所に配属後に、いきなり今日から研究しなさいといわれました。何を研究したらいいのか、そういう話は一切なくて、とにかく研究しなさいと。では何をしようかということから考えました。そこで自分のキャリアから考えて、工場で機械の制御をやっていたので、もともと通信制御の知識はあること、そしてインテリアデザインが好きだったことという2つをくっつけてやれば自分の強みを出せるのではないかと思い、スマートハウスに取り組むことになりました。
講演する吉田氏
これまでの中で大変だったことは何ですか
機械系の大学を出たので、建築業界と全然話す言葉が違うし、やはり常識も全部違います。例えば、機械の世界といえば、誤差はコンマ何ミリという単位ですが、建築の世界であればミリ単位であるように、誤差の感覚が全然違います。それから話す言葉も全然違います。今でこそIT関係の話は大分通じるようになりましたが、始めた当初、1996年頃は、インターネットはあまり普及しておらず、プロトコルという言葉も理解されません。それを説明するのに非常に大変な思いをしました。スマートフォン、当時はガラケーですが、それによって電気を点けたり、エアコンをつける機能など、色々開発して上司に見せると、「遊んでんじゃないよ」といわれました。周りから見ると遊んでいるように見えてしまっていたのですね。一般に広く定着していない言葉や機能を説明していくのが非常に大変でした。
現在取り組んでいる研究について伺います
大和ハウスでは、大和コネクトというプロジェクトで、家電や住宅設備をつないで、さらなる付加価値を出していこうという取り組みの一環として力を入れています。スマートハウス実用化の研究に非常に重きを置いています。スマートハウスといえば、「こういうものを作ればいい」とか、「お客さんにウケる」と具体的にソリューションを考え出すのも重要です。もう一方で、考え出したサービスを実装していくこと、世の中に出していくことも重要です。そのためには、サービスを開発するコスト、運用するコストを考えて、実際に事業として展開していかなければならず非常に難しいところがあります。地味な作業ではありますが、そういう実用化研究に力を入れています。
このスマートハウスというのは、住宅会社ならではの取り組みです。家電単体であれば家電メーカーさんがやるべき取り組みだと思います。そこに住宅会社が関与するのであれば、“住宅会社でないとできない取り組み”をやるべきでしょう。住宅設備、住宅にきっちり組み込まれている家電機器、例えば、給湯器であったり、蓄電池であったり、太陽光や、照明器具など、そういったものをつなげて制御してモニタリングすることで付加価値を出します。住宅メーカーでないとできない取り組みに力を入れています。
研究開発で大切にしていることは
コンセプトの共有ということですかね。方向性を合わせる、まず言葉を合わせることです。向かっていく方向を合わせないと、非常にチグハグなことになっていきます。そのために、わかりやすいコンセプトがやはり必要です。“萌え家電プロジェクト※”の時は、SonyCSLの研究者と共同開発しましたが、エネルギー一辺倒でないものをスマートハウスで作ろうという考えで一致していました。少し、あえて踏み外していこうと。そのため、“エネルギー制御”と“省エネ”に“萌え”という全く正反対の部分をくっつけてやると面白いじゃないかということで、考えが一致して、一緒にやろうということになりました。
※「大和ハウス工業×ソニーCSL スマートハウスの家電機器を、ゲーム感覚で制御する公開実験を実施」
http://www.daiwahouse.co.jp/release/20110707094432.html
そういった仕事をしていく中でやりがいを感じることは、皆さんの反応を聞けることですね。「こういうサービスはウケるんじゃないか?」「喜んでもらえるのでは?」一方で「これはちょっとだめだな」とか、リアクションをもらえるのが楽しいです。
大和ハウス工業や建築業界において博士人材や研究者のニーズは
論理的に物事を考えられるか、ということに尽きるのではないかと思います。したがって、大和ハウスの中にも博士が多くおりますが、必ずしも研究をずっとやっているわけではありません。博士を取る過程で、きちんと物事を系統立てて論理的に考えていく力がついているはずです。その力というのは、色々なものに生かせる点ではないかと思います。
個人的な意見ですが、私は「世の中をびっくりさせたい」というわくわく感が大事だと思っています。研究所に所属する人は研究員であり、何をやっていようが、そういう名前がついている以上、世の中を変えていくことに微力ながらも手伝わないといけません。そのためには、皆がやっていることではなくて、視点を変えて、全然違う角度を持つことです。私は、皆さんがびっくりすることをやることが好きなのです。萌え家電でもきっと皆さんがびっくりするのではないかなと。やはり世の中にインパクトを与えて、世の中を変えていく、そういうことをやっていける人材が必要なのではないかと思っています。
大学生や若手研究者へのメッセージをお願いします
わくわくしたことをやるというような、「世の中変えてやろうぜ」という意欲を持ってほしいですね。極論すると、新入社員に「世界を変えるために何をしたい?」ということを聞きます。皆さんはきょとんとしていますが、それぐらい夢を抱えてやるのだという意気込みを持って会社に入ってほしいです。そうして入ってくると、必ず鼻っ柱を折られますが、だがやはりくじけずに、ちゃんと下積みをしてある程度年数を過ごせば、それなりに自分で仕事を動かしていけるようになります。世の中を変えてやろうというわくわくした気持ちを持ち続けながら仕事をしてほしいと思います。
取材者感想
「大和ハウス、中国で住宅開発を再開」というトピックについて尋ねてみました。「今研究室の中でも中国の方がたくさん入ってきていて、すごく国際色が豊かになっています。海外から日本に招くだけでなく、逆に日本から海外に出ていける人材を育てようと会社でも願っています」といわれました。今の時代は国際化が求められており、企業でもグローバルな人材の育成が喫緊の課題となっていると感じました。
取材担当:広島大学グローバルキャリアデザインセンター特別研究員 趙 碩(チョウ セキ)