第1回 大塚製薬株式会社 加藤 雄介氏

徳島から世界へ―世界で通用する新薬開発を目指して―

取材日:2016年10月13日

 「新薬開発の研究もエントリーシートもオリジナルで自分らしさを追求することが大切!」。博士号を取得されている大塚製薬 製剤研究所所長の加藤雄介氏から、企業理念や人材採用で重視しているポイントなどについて熱く語っていただきました。

大塚製薬株式会社 製剤研究所 所長 加藤雄介氏

大塚製薬株式会社 製剤研究所 所長 加藤雄介氏

略歴
1992年4月~1995年3月 京都大学大学院 工学研究科 合成・生物化学専攻 博士後期課程 単位取得退学
1995年4月~1997年3月 新技術事業団(現JST)国際共同研究「超分子プロジェクト」研究員
1995年7月 京都大学 博士(工学)
1997年7月 大塚製薬株式会社 製剤研究所 入社
2013年6月~2014年6月 MIT Sloan School of Management, Sloan Fellows Program, MBA
2014年6月~2014年12月 大塚製薬株式会社 製剤研究所 副所長
2015年1月~現在 大塚製薬株式会社 製剤研究所 所長

大塚製薬ってどんな会社?

固定観念を外して自由な発想を大切にします

 大塚製薬というとポカリスエットやカロリーメイトなどが思い浮かぶかもしれませんが、グループ全体の売上の約7割は医薬関連品であり、新薬開発などの医薬関連事業に力を入れています。

 私の所属する製剤研究所は、ものまねに頼らず新しい研究をして新薬を開発することで様々な病気の患者さんを救いたいと考えています。今日はジェネリック医薬品を作る会社も多くなりましたが、そればかりでは国内における優れた新薬の開発が滞ってしまいます。常に新たな発見を求め、オリジナリティのある研究に取り組んでいます。

 そのため、製剤研究所の周りには固定概念を覆すようないくつかのモニュメントを設置しています。その1つがトマトの木です。「土に植える」という固定概念を取り払い水気耕栽培にした結果、多いときには1万個もの実をつけるまでに成長しています。

 凝り固まらず柔軟性を持って仕事に取り組もうという意図が込められており、研究者も柔軟な頭で想像力を発揮させ、オリジナリティある研究を行うことを大切にしています。

大塚製薬 トマトの木 

徳島という場所と自由な企業風土が魅力

 製剤研究所は徳島にあります。東京であれば様々な学会や講演会に参加することができますがそれはできません。しかし逆に言えば、膨大で溢れる情報や流行りの研究に惑わされることなく自分たちオリジナルの研究に没頭できる環境でもあります。

 新薬開発の会議は、研究員同士が本気で意見を交わし合います。私自身入社後にとても驚きましたが、相手がプロジェクトリーダーであっても疑問があれば徹底的に追求します。

 これらは大塚製薬ならではの強みでありそこから優れた研究が生まれると考えています。

加藤氏のこれまでの歩みとこれらの展望

企業で働き社会に貢献したい

 京都出身の私は、幼い頃から京都大学に強い憧れがありどうしてもそこで学びたいと考えて進学しました。

 その後、躊躇なく修士に行き、博士に進学しました。博士課程修了後は大学教員という道もありますが、私は企業就職を希望していました。企業は市場価値がなければ時代や社会に淘汰されてしまいます。市場価値を追いながら研究したいと思い、新技術事業団で2年間共同研究をした後に大塚製薬に入社しました。

 生まれ故郷の京都に未練もありましたが、お世話になった先生に「親を徳島に呼び寄せるくらいやないとあかん」と言われ、大塚製薬で頑張ろうと決意しました。

 40歳を超えた頃、社内でMBAの募集がありました。上司の進言もあって応募し、MBAで学ぶ機会を得ました。徳島を離れて家族と一緒にボストンに移り住みMITで1年間学んだ後、再び徳島に戻ってきて現在に至ります。

 MBA修了後は製剤研究ではなく経営などの管理部門に異動することもできましたが、世界で通用する次の新薬を出したいとの思いが強くなり、帰国後は無理を言って研究所に戻してもらいました。

アルツハイマーの新薬開発に成功したい

 将来的にはアルツハイマー治療薬を出したいと強く思っています。2025年にはアルツハイマー患者が700万人に上ると言われています。きちんと治せる薬を作ることが目標です。

 私は自分たちの存在価値がなければ社会で生きていけないと思っています。何のために自分が存在しているのかを考えたとき、微力でも社会に役立ちたいと考えています。一朝一夕で成果が表れる研究ではありませんが、ものまねをせずひたむきに取り組み続ければ可能だと考えています。希望を持って研究し続けたいと思います。

採用時における企業の視点

修士と博士、何が違う?

 大塚製薬の研究部門での博士の採用比率は3割を超えました。近年は修士卒で入社後に社会人ドクターとして博士号を取得する人も増え、現在約30人の社会人ドクターが在籍しています。企業における博士人材の必要性は今後も変わらないと予測しています。

 採用時は、研究への取組の深さ、正確さ、やる気、粘り、協調性などを多面的かつ包括的に評価します。私たちは、研究力と優れた人間性を併せ持っている学生を求めています。修士の学生に対しては、研究内容や結果だけでなく将来性も見て採用する一方で、博士の学生は投稿論文の質や数など、結果でも能力を示すことが必要だと考えています。

 学生からは、「企業に近い研究をしている学生の方が採用に有利なのか」と質問されることがありますが、そうとも限りません。私自身も、大学時代の研究と就職後に取り組んできた研究は異なります。就職先と関係ない研究であっても素晴らしい研究であればその良さは分かりますし、培われた問題解決能力や視点は就職後も役立ちます。

コンソーシアム人材セミナーでご講演の様子

講演で学生に語りかける加藤氏

「Why?」を追及しよう

 今年の採用面接では、1000人近くのエントリーシートを見ました。多くの学生の志望動機は、社名だけ変えてそのまま同業他社に提出できるようなものが見られました。そうではなく、「Why大塚?」(大塚製薬でなければできないこと、大塚製薬でやりたいこと)、を書いてほしいですね。そのためには、大塚製薬の商品を消費していたエピソードや説明会で会った社員と話して感じたことを記載するなど、自分と大塚製薬の接点を探し、自分にしか書けないオリジナルの内容を盛り込んでください。

 「Why就職?」(なぜ大学教員になるのではなく企業就職か)、「Why me?」(なぜ他の学生でなく自分を採用することが会社にとって有益なのか)、などを突き詰めて考えることも必要です。

博士を目指す学生へ

求められる能力は研究に深く取り組むこと

 何かを面白いと感じたらそれを深く掘り下げることが求められます。仮説を立てたり仲間と議論したりしながら、課題を自分で見つけ、解決方法を必死に考えることが大事です。

 みなさんは、何か新発見をした研究者の「自分は運が良かった」、「アイディアが降ってきた」という言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、そこに至るまでには多くの時間や精力を投資しているはずです。だからこそアイディアが降ってきたのでしょう。

 研究で一つのことを成し遂げるためには、質と量の両方を充実させてひたむきに研究に取り組む姿勢が求められていると言えるでしょう。

講演後、取材者(二宮)と一緒に写真を撮っていただきました。

取材者:二宮 舞子(総合科学研究科 総合科学専攻 社会環境領域 博士課程前期2年)

【編集後記】

取材を始めて1年半。日々インタビューの難しさややりがいを実感しているところです。今回の記事は、主に研究と採用について。まさに学生が知りたいことが盛りだくさんとなりました。採用では、研究力と優れた人間力を持っている学生を求めているそうです。
就活をする学生の視点だけでなく、採用者の視点も知ることで、両方の視点から考えることができるようになりますね。学生にとっては、採用者の考えを聞ける貴重な機会になったと思います。


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