第21回 文部科学省 井出 太郎 氏

文部科学省という大きな組織におけるキャリアとは

取材日:2019年1月29日

文部科学省の仕事は、科学技術や教育に限らず、文化やスポーツ政策なども含まれており多岐にわたります。また、他府省庁や海外、大学等で仕事をする機会も多く、ひとつのことを突き詰める博士課程とはまた違うキャリアスタイルがあります。博士取得者が役人として働くというキャリアパスや、やりがい、必要とされる能力についてお話をうかがいました。

 

 文部科学省 研究開発局原子力課
 廃炉技術開発企画官
 井出 太郎 氏

略歴

【学歴】

1994年3月 東京大学 工学部船舶海洋工学科 卒業
1996年3月 東京大学大学院 工学系研究科 船舶海洋工学専攻 修士課程修了
1999年3月 東京大学大学院 工学系研究科 船舶海洋工学専攻 博士課程修了

【職歴】

1999年4月  科学技術庁研究開発局宇宙利用課
2007年6月  研究振興局研究環境・産業連携課課長補佐
2009年6月   外務省在オーストラリア日本国大使館一等書記官
2012年12月 大臣官房総務課補佐
2013年9月  大臣官房会計課専門官
2014年4月  国立大学法人広島大学学長特命補佐
2018年4月  文部科学省研究開発局原子力課廃炉技術開発企画官

                                  (現在に至る)

【学位】

1999年3月 東京大学 工学博士

キャリア選択について

文部科学省という職業を選択した経緯について教えてください

博士課程まで進学すると、多くの人が研究の道に進んでいきますが、わたし自身は研究者になることに悩み、様々な業界で社会人として働いている学部時代の友人に話を聞かせてもらいました。その中で、役所で働いている人が忙しいけれどやりがいがあると話しているのを聞いて、今の道に進むことを決めました。研究者ではなく行政官として働くため、国家公務員試験を受けて入省しました。

博士取得者にとって文部科学省という職業選択はよくあるキャリアパスですか?

私が入省した当時、博士号を取得して入省する人は霞が関の役人の中ではかなり珍しいタイプでしたが、今の文部科学省においてはさほど珍しくありません。私の課でも複数の博士号取得者が働いています。
私は、現在のポストが15か所目になりますので、平均して1年数カ月で部署をかわっています。文部科学省内だけでなく他の府省に異動することもありますし、海外、広島大学でも仕事をしたことがあります。多くの人が文部科学省を出たり入ったりしながらキャリアを積んでいっています。

講演時の様子

部署異動が多いという文部科学省のキャリアスタイルについて

自分の希望による異動になりますか?

希望は通らない場合が多いと思います。というのも、1人1人の希望を聞くと、一部の部署に人気が集中して、人事がまわらなくなってしまうようです。ただ、海外赴任などは家族の関係もあるので要望を聞いてくれる場合があります。
また、異動した後に振り返ってみれば、事前には知らなかったその仕事の面白さがあり、経験できてよかったと思うことは多々あります。

文部科学省での仕事のやりがいについて教えてください

1人1人の仕事は、大きな組織の中の大きな仕事の一部になるので、自分の仕事の成果や状況の変化はなかなか見えにくいところがあります。
私自身は、政策そのものを新しく創っていくよりは、課題を解決していくことの方が楽しいと思います。また、チームで仕事をしているときに、みんなが楽しくやっていると自分も楽しいし充実していると感じます。

いろんな部署や他府省庁で働くということでジェネラリストの側面が強い仕事だと思いますが、博士課程というスペシャリストのキャリアだったからこそジェネラリストの職場の中でも役立っている、ということはありますか?

文部科学省で働く博士号取得者の中には、学生時代に培った論理的思考力が仕事で役に立つと話す人もいます。また、最近は少数ですが政策研究所などで、スぺシャリストとして歩み出す人もでてきています。そうした人たちは政策に関する「研究」をするので、博士号を取得しているメリットがあると思います。また、私が現在働いている原子力関係の部署は非常に専門性が高いので、長く原子力の道で仕事をしていく人もいます。そういう人は大学などで勉強したことがそのまま活きてくる、ということはあると思います。

必要な能力・しておいた方がいいと思う経験について

博士課程を経て文部科学省等で働いたからこそ感じる大学時代に身につけたらいいと思う能力やしておいた方がいい経験として何かありますか?

文部科学省には様々な仕事があるので、何を勉強しておいたらいいのか、という問いに答えることは難しいです。ただ、重要なことの一つには、タフかどうかということがあると思います。このタフさは勉強で身につくものなのかどうか分かりませんが、今までとは違う状況に遭遇した時に折れずにどう状況を打開していくのか、について考えることができることは大切です。先ほどの、博士課程で論理的思考能力を身につける、ということが役に立つ部分はあると思います。

これまでのご自身の経験の中で、タフさの育成につながったと感じるものはどのようなものですか?

これまでに仕事をしてきたなかで、困難なことは何度かありました。解決策が見つからないこともありましたが、そうした経験を経て、今は複雑な問題をどう打開するのかについて自分でノートに書いて検討し試してみる、という自分なりの方法論を作っています。

タフさというのは「落ち込んだ時の切りかえ」と重なる部分があると思いますが、自己解決も含めてこの切りかえにつながっていると感じるスキルや組織体制としてはどのようなものがありますか?

私自身はわりと自分で解決しようとするタイプかもしれません。他の人の意見を聞いて問題を解決しようとしても、人は人なんですよね。自分の同僚の解決方法と自分の解決方法は違っているし、置かれている状況も違うので、同僚から意見を聞くことはありますが、それがそのまま自分の問題解決の役に立つかというとそうではない場合が多いです。やはり自分の状況に合わせた自分なりの解決方法を考えていかないと、答えが出ないと思います。
ただ、年次や部署などによって研修があり、それは役に立つことがあったと思います。

研修もいろいろなものがあるんでしょうか

そうですね、入省時に長期の研修がありますが、その後も役職に応じた研修などがあります。他府省庁の人で同じような役職の人が集まってお互いの悩みを話し合ったり、専門家の講義を聞いたりといったことをします。同じ立場で同じような問題を抱えた人たちと話すことで、共感できたり、自分なりの答えが見つかったりすることがあり、振り返ってみると、こうした研修が自分の問題解決に役立ったと思うところはあります。

最後にメッセージをお願いします

文部科学省には前向きでやりがいのある仕事が多く、また職場では上司や部下とも話しやすいですし、働きやすいのではないかと思います。
ぜひ文部科学省に来てください!

取材時の様子

取材者感想

文部科学省での仕事は、こんなにも異動が多いと知って驚きました。また、文部科学省での仕事は、大きな仕事であるため、個人の取組による成果が分かりやすい形としては見えにくいという特徴があると知り、だからこそチームとして取り組んでいく必要性が大きい職業であると感じました。他府省庁の同じ役職同士の研修といった体制があることも、府省庁という大きな組織での仕事を遂行していく上で重要な取組なのだと多くの学びがありました。

取材担当:広島大学大学院教育学研究科 研究員 長江 綾子


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