第9回 中外テクノス株式会社 小林 強志 氏

人類が経験したことのない未知なる状況にどう対処していくか

取材日:2018年5月22日

中外テクノス株式会社は、環境、産業、インフラなど、多方面の社会問題の解決に向けて、分析、調査、計測、ものづくりの技術を提供しています。今回は、「福島原発の廃炉」に向けて、原子力に関する業務に携わっている小林強志氏から、壁にぶつかったときの対処法や学生時代に取り組んでほしいことなどについて、お話を伺いました。

 中外テクノス株式会社 小林 強志 氏

略歴

【学歴】

2000年3月 広島大学工学部 第一類機械系卒業

【職歴】

2000年 4月 中外テクノス株式会社 入社
       中外テクノス株式会社 R&D事業所(原子力保全)
2006年 4月 中外テクノス株式会社 電機システム事業本部 産業装置システム部
2011年 4月 中外テクノス株式会社 原子力保全システム開発部
2017年 3月 中外テクノス株式会社 原子力保全システム開発部 企画室課長

(現在に至る)

中外テクノス株式会社・原子力業務との出会いは

 中外テクノス株式会社、原子力保全システム開発業務というキャリアを選択した理由ですが、もともと、特に原子力分野に限っていたわけではありませんでした。中外テクノス株式会社にはR&Dという事業所がありました。そこでは研究開発から、物を作ってそれを自分で試して、使う現場までもっていって実際にお客様に使ってもらうというような、本当に役に立っているところが味わえるというんですかね。そういう開発全般に携われることに興味があって、それが実際に世の中の役に立っていることを実感できる、そこが大きいきっかけで、今も原動力になっています。
 大学では生産システムで「最適化」、どうやったら最適になるかというような研究をしていました。例えば、生産ラインをどう組めば最適になるかとか。そういった意味では、今仕事としてやっていること、どういう装置の組み合わせにするのが一番合理的なのか、とか、廃炉において一番安全に取り出すにはどうシステムを組めばいいのか、そういった分野ではとても役に立っているのかなと思います。あとは大学のときに習った授業や、そこで得た知識というのは今フルに活用しているんです。大学のときの教科書を今でも使っているんです。ここまで大学で習ったことが使えるとは正直思っていませんでした。

取材時の様子

産業装置システム部から原子力保全システム開発部へ

ご所属を変わられたきっかけは

 正直、技術者として伸び悩んでいたときでした。原発の保全装置の設計、すごく難しかったんです。今でも難しいんですが、一般の設計に比べて条件がすごく厳しいんです。狭いとか、放射線があるとか。その中で装置や機械を成り立たせていくというのが難しくて、壁にぶつかっていた状態ですね。それで他の分野というのも経験したくて、他の部署へ移動を願い出たのです。産業装置システム部というのが一般産業分野での装置に関わっていて、そこでもう少し全般的な技術を学び直しました。自分で言うのもあれですが、そこである程度技術力がついてきた頃に、東日本大震災が発生し、原子力保全システム開発部でもう一回やろうと決意しました。そして、人類が経験したことのない“廃炉”という仕事に立ち向かっていくことになりました。

他にどのような「壁」にぶつかりますか

 日々壁にぶつかります。一個一個のものを作っていく上で乗り越えないといけない課題の壁を、少しずつのぼっていきます。そういった技術的な面に加えて、今の事業って1技術者だけでは全然できなくて、周りの技術者と協力しながらやっていく必要があります。そこでのチームワークというんですかね、チーム体制を築いて情報を共有していくといった、チーム運営みたいなところでも同じようにいっぱい壁にぶつかります。人の育成なども入ってきます。技術的な面と、体制的な面ですね。新しい道を開き仕事を進めていくためには、技術がよければ仕事が進むというわけではないんですよね。チーム力も必要ですし、大学の先生や有識者の方にこれならいけそうですと認めていただかないといけませんし。そういった人と人とのやり取りもうまく進めていく必要がありますね。

「壁」を乗り越えるために行っていることは

 技術的な面でいくと、私は技術士で、技術士会での活動も行っています。同じような技術士が集まって情報交換をしたり、皆でスキルアップしようという集まりです。そういったところで外部の情報を得たり、モチベーションをもらったりしています。
 体制的な面で言うと、今、何か事業をやっていこうというときに、時代の流れがすごく早いと感じます。そういった中でいかに将来役に立つような事業に結び付けていくか。それは、現地福島の新たな状況が分かり、流れが変わってゆく廃炉の事業と同じじゃないかと思います。難しいのはこの仕事に限ったわけじゃないよね、という気持ちを自分の中で持つようにしています。
 やっぱり、現場を見てみるということが、そのままモチベーション向上や打開策になったりもします。ぶつかったときに、ぶつかって何かがたぶん硬直しているんですよ。何かの情報がないからいけないとか。一歩ころっと転がすには何を行動に起こせばいいか。私は原子力保全システムに関する業務に携わっているので福島に行きましたが、まずとにかく行こうと決めるだけでも前に進みだすんです。そこは難しく考えなくても、壁にぶつかっている状況を見て自分にできることをやってみる。やらないのが一番何も状況が変わらないかな。

中外テクノス株式会社における博士人材や研究経験者のニーズは

 中外テクノス株式会社は研究というより受託研究が多く、お客様と一緒に研究開発をします。そういった形で活躍している博士人材や研究経験者のメンバーはいます。うちの部署でも物を作って実用化するっていうところもあれば、まだ世の中にないものを作るといった研究に近いような分野もありますね。そういったところは大学の方と一緒にやらせていただいたりもしています。ただ、原子力保全システム開発部では、今は博士を取られている人はいません。技術士というもう少し実用寄りの資格を持った人は私以外にもいます。でも、今は博士を取られて民間の会社に就職される人も多いみたいですね。純粋な研究職というよりも私の携わっている「技術士」のように、もう少し実用分野寄りのニーズは多いと感じます。ですので、研究経験者の方もそういった分野に目を向けてみるのもいいと思います。

学生時代に意識して取り組んだ方がよいことは

 仕事の原動力となるのは「自分が大切にしているもの」だと思います。自分が昔から好きだったことややりたかったことって皆さん持っていると思うんです。これが「大切にしているもののひとつ」かもしれません。そこを考えてみるというのはいいかもしれません。壁にぶつかってそこを乗り越えられるかどうか、本当に自分がやりたいことなのかどうかというときに、自分自身、昔からやりたかったことというのが、一歩乗り越える原動力になりました。
 あとは、私は学生の頃は他の分野のことというのはほとんど考えていなかったんです。ですが、今の時代は情報を得やすくなっていると思いますし、産業の垣根が薄れてきているなかで自分の分野だけ、というように的を絞っていると、やっぱりどこかで行き詰ったりするんじゃないかなと思います。広い視点を持ってもらうのがいいんじゃないかと思います。

取材者感想

 ご自身が壁にぶつかられたときに、現地の状況を知るため福島に行かれたというエピソードをお伺いし、とても感銘を受けました。インタビューを通して、「一歩踏み出す力」は重要なものとして一般的にも知られていますが、未知の領域や新しい経験に負けないような意思の強さ(原動力)に支えられているからこそ、今必要な行動を選択し、行動を起こすという決断ができるということを実感しました。

取材担当:広島大学グローバルキャリアデザインセンター特別研究員 田村紋女


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