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研究者への軌跡

植物と向き合って

氏名:坪田 博美

専攻:生物科学専攻(宮島自然植物実験所)

職名:准教授

専門分野:系統・分類学,生態学,植物地理学

略歴:1973年広島県生まれ。1992年広島城北高等学校卒業、1996年広島大学理学部卒業、同大学大学院理学研究科博士課程後期中途退学後、1999年広島大学大学院理学研究科助手。2000年博士(理学)の学位を取得後、2006年同助教授を経て、2007年より現職。2005年日本蘚苔類学会奨励賞、2007年日本植物分類学会奨励賞受賞。趣味は庭いじりやパソコン、日曜大工、読書、音楽、山歩き、知らない場所に行くことなど。PCは○ャープからはじまり、AT互換機のはしりの時期を経て、長年非主流派。好きなOSはBSD系ですが、最近は業務で使う都合からWindowsとLinux。

 

はじめに
理学部あるいは理学研究科は、「何をするところ?」あるいは「何をしているのか分からない」などと評されることの多い ところです。ひと言で言えば「なぜだろう」に立ち向かっていく力を育むための教育・研究を行っている学部・研究科です。私自身は、理学部・理学研究科で教 育を受け、現在大学で教育研究を行う立場になっています。拙文ではありますが、私の経験や経歴、考えて来たことを読んで頂いて、一人でも生物学を志す方が 出て頂ければと思います。
 

高校生から大学生のころ
自分自身をふり返って、高校生のころに理学や生物学、大学、研究者についてきちんと理解していたかというと、部分的に しか理解していなかったといえます。高校生のころの私は、生物学にはもちろん興味がありましたが、数学や電子工学にも非常に興味がありました。また、すべ ての科目が得意というタイプの生徒ではなく、得手不得手のある生徒でした。クラブ活動では、運動は得意ではありませんが、野外とくに森林に行くのが好き で、ワンダーフォーゲル部に所属していました。しかし、クラブ活動もそれほど頻繁にあるものではなかったので、パソコン部などにも顔を出していました。 
 

それではなぜ生物学を志すようになったかといえば、生き物とくに植物が好きだからというのが一番の理由でしょう。植物は与えられた環境を最大限に利用し て生きていますが、同時に環境を作り、周りにさまざまな影響を与えています。そんな植物の裏方的な生き方が好きです。
また、興味があるものに対して納得が いくまで追求するという性格や周囲の人の影響、置かれた環境などから、実家から通える広島大学の理学部に入学しました。その後、理学研究科に進学して、学 位を頂きました。結局、教員免許を少し使っただけで、免許の不要な大学教員になって現在に至ります。

生物学を志した理由
生物学は暗記科目という評価がなされていますが、大学で行う生物学には、受験勉強では気がつかないおもしろさが多くあ ります。また,まだまだ人類が知らないことが数え切れないほどあります。私が生物の道に進んだ最大の理由は、ひとつは自分が生きている間では絶対に解決で きない未知の分野であることです。未だ人類は1つの細胞を何もないところから作る技術を持ち合わせていません。もうひとつの理由は、当時の生物の教科書に ほとんど触れられていなかったDNAというものを高等学校の授業の中で聞いて、非常に衝撃を受けたことです。DNAを使えば自分の好きな植物の理解が進む のではないか、そういったことに関わる仕事を将来してみたいと考えるようになりました。

研究について
「なぜ植物を研究するのか?」と聞かれれば、「植物を研究することでこんな良いことが明らかとなり、ひいては人類のた めになるから」というのが建前でしょうが、理学というのはなかなか直接的に役に立つとは限りません。しかし、理学は人類が存続して行くために必要不可欠な 学問です。理学を大切にしてきたからこそ、今日の人類の繁栄があるのだと思います。また、さまざまな問題を解決して、新しいことを発見したり、明らかにす る過程とその達成感。その結果、世の中で最初に自分が知る喜びや満足感。自然の中でただ一人そこに存在し、その美しさに感動し、感激する。こういった感覚 も私が研究を続ける理由です。
現在、私自身は植物を対象に研究しています。とくに、植物系統・分類学、植物生態学、植物地理学に関する研究を行っています。いろいろな分野に手を出し ていますが、コケ植物を対象とした分子系統学的な研究が一番の専門です。陸上植物の祖先は、海から陸上に上がってきました。コケ植物はその上がった直後の 状態を残した生物と考えられています。このためコケ植物は植物の陸上進出という進化的に重要な出来事を理解する良い対象となります。
 

生物のおもしろいとこ ろは、進化することと、子孫を残すことにあると考えています。これらの生物特有の事象について、分子系統学的な手法を用いて研究しています。以前は進化な ど空想の世界の話でしたが、今ではDNAやアミノ酸の情報にもとづいて、コンピュータや数学を使って、生物がどのように進化してきたのかかなり正確に復元 できるようになっています。そのような過去の歴史の推定をすることで、それぞれの植物の所属を明らかにしたり、どのような植物の組み合わせで森林が作られ ているのか明らかにしたり、どのような遺伝的な性質をもつ個体が地球上でどのような分布をしているのか明らかにするヒントを得ることができます。ほかに も、あるタンパク質がどのような性質を持っている可能性があるのかを推定したり、ある遺伝子が他の遺伝子群とどのような関係にあるのか予測したりといった ことも分子系統学で推定可能です。

大学教員という仕事
大学の教員が研究ばかりしているのかといえば、そうでもありません。研究が重要な仕事であるのはもちろんですが、教 育、社会貢献も重要な仕事です。例えば、学部生の実習や卒業論文のため配属された学生の指導、小中高等学校の野外観察会や生物部・科学部の実験の指導、植 物観察会なども私の仕事の一部です。それ以外にも施設の維持・管理や、事務書類の作成、受験業務、外部からの問い合わせへの対応などさまざまです。しか し、時間をかけてさまざまな問題を解決したり、研究の成果を学会発表や論文の形で発表したり、若い人材を育てていったりという、非常に達成感のある仕事だ と思います。私自身は、学生に接するに際して、社会に対していかなる状況であっても正しく判断し、実際に行動できる人材を育てることを心がけています。

参考になれば
以前、別のところで高校生・中学生向けに書いたものでは、実行力や語学力(とくに母国語力をつけること)、考える力、就業意識をあげましたが、その他に皆さんに参考になると思うことをいくつかあげたいと思います。

(1)出会いを大切にしましょう。私自身、大変多くの先生方、先輩や友人に影響を受けました。一瞬の出会いであっても、私に大きな影響を与えた方もいます。また、自分一人ではほとんど何もできないものです。周囲の人の力があってこそ、今の私があるのだと思います。

(2)いろいろなことに挑戦しましょう。また、いろいろな問題に真っ向から向かい合いましょう。趣味でもかまわないと思います。いろいろな経験を積むことで、自分がいかに無知であるかが分かり、謙虚になれるはずです。

(3)本を読みましょう。若い間に読書をしてください。仕事に就くとなかなか本を読む時間がとれなくなります。本を読むことで、いろいろな考え方を知るとともに疑似体験をすることができます。それが将来の皆さんの糧になるはずです。

(4)体を思いやりましょう。体が一番の財産です。あまり好き嫌いをせず、きちんとした生活をしましょう。大学に入学すると親の手を離れて生活が乱れる学生が少なからずいます。こういった学生は、修士や社会に出てから体調を崩すことが多いように思います。
 

皆さんの前にはすてきな未来が待っています。皆さんの活躍を期待しております。


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