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研究者への軌跡

カエル三昧

氏名:三浦 郁夫

専攻:生物科学専攻

職階:准教授

専門分野:遺伝学

略歴:昭和56年3月 弘前大学理学部生物学科卒業昭和58年3月 広島大学大学院理学研究科(博士課程前期)修了昭和59年6月広島大学大学院理学研究科(博士課程後期)中途退学昭和59年6月 広島大学 教務員(理学部)平成元年11月 広島大学 助手 (理学部)平成7年1月 博士(理学)平成9年10月 広島大学 講師 (理学部)平成16年1月 広島大学 助教授(理学部) 現在に至る

 

カエルの仕事
2年ほど前、娘達に、「君たちの父が職場で仕事する姿を想像してイラストに描いてくれ」と頼んだ。目の前でスラスラと仕上げた絵が図の2枚である。長女の説明によると、まず、父は大学でカエルの帽子をかぶりながら働いている。帽子のヒモを引くとカエルの目がピコピコと瞬きをして楽しい。二女によると、父は大学でこのようにカエルを食べているのではなかろうかという。とても仕事をしているという姿ではないが、的も射ている。私の研究人生、一言で表現すれば、このようなものかもしれない。カエル三昧の研究生活がよく表現されているのである。
そして、家では、娘達は宿題や試験勉強に忙しい。妻も家で仕事を片付けることが多い。私の家族は勤勉である。私はと言えば、いつもビールを飲みながらボーッとしており、時々2匹の猫と会話をする毎日である。「お父さんは何もしなくて、いいね。」と皮肉を言われる。しかし、ここで私はいつも反論する。「考えることが仕事なのだ!!」。

カエルを使って遺伝学の研究をしている。実験の結果を解析し、その意味を推論する。そして一定不変な原理原則の発見と新しいコンセプトを創り上げる事を目標にし、24時間、頭から離れることはない。これが私の仕事である。
 

カエルへの道
生物学研究における材料の選び方には2通りの方法がある。ひとつは、解明したい疑問がまずあって、それを解くために最適と思われる材料を選ぶ方法である。もうひとつは、好きな生き物を研究すること、つまり、生き物に逆指名される方法である。私の場合、まさにカエル様からのお告げがあったのである。
大学3年の頃、発生の実験に使うからということで産卵に集まってくるヒキガエルを採集に行った。帰りの途中、水田の畦にポツンポツンと白い泡の塊があるのに気づき尋ねると、モリアオガエルの卵塊だという。このカエルは必ずしも池の木の枝に産卵するとは限らないことを知った。それまでモリアオガエルを見た事がなかったので、なんとかその姿に一目会いたいと思い、その日から毎日あくせく、卵塊のある水田へと足を運んだ。2週間ほどしたある日、田んぼの畦を歩いていたその時、突然、目の前に大きなメスのモリアオガエルがポオ~ンと飛び出して来たのである。その緑色のなんとまあ鮮やかなこと。この世のものとは思えない美しさであった。それ以来、カエルに魅せられてしまった。これが私のカエル研究の始まりである。モリアオガエルとの出会いは一種の刷り込み(imprinting)のようなもので、未だに色あせる気配はない。
 

性の研究
オスとメスがどのように決定されるのか、そして、そもそも性とはどのようにして誕生したのか。これが私の研究テーマである。性を決める仕組みは、実にしなやかに、そして、多様に進化しており、そのメカニズムと進化学的理由を明らかにしたい。カエルの性決定や性分化は多様性に富んでおり、この手の研究材料としては最適である。性のしくみが破綻すると、生物は種として死滅の時を迎える。個体レベルや、今日、明日という近未来にすぐ影響が出る事はないが、種としての将来に決定的な影響を及ぼす。よって、性とは未来を維持し、形作る上で重要な仕組みなのである。人類への貢献という視点に立ったとき、即応用を求める研究は現在を重要視するあまり未来が犠牲となることが多い。これに対し、性の研究とは常に未来を視野に置く、未来のための仕事なのである。


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