English website is here .

研究者への軌跡

おもしろい海の生き物ギボシムシ

氏名:田川 訓史

専攻:生物科学専攻

職階:准教授

専門分野:分子発生生物学

略歴:一九六六年生まれ。京都教育大学教育学部理学科修了、京都大学大学院理学研究科博士課程修了(理学博士)、テキサス大学MDアンダーソン癌研究所博士研究員、ハワイ大学博士研究員、日本学術振興会特別研究員(PD)、ハワイ大学助手、テキサス大学ヘルスサイエンスセンターヒューストン校リサーチアシスタント、関西学院中学部教諭を経て現職。

 

私が研究者になろうと思ったのは、大学3年生の時だったと思います。高校生の時は医学部を目指して受験しましたが夢を見ただけに終わってしまい、1年の浪人生活をへて京都にある教育大学へ進学しました。目的のない大学生活をダラダラ送って3年目の時に、たまたま受講したある生物学の講義によって私の興味が呼び起こされ、“これは面白い。大学院へ進学してもっと勉強したい。”と考えるようになりました。高校生の時から将来自分がどのような道へ進むのか、確固たる信念を持って大学へ進学する人はそれほど多くはないと思うのは私だけでしょうか?当時私の周りでは、理系へ進むのか文系へ進むのか大まかに考えるというのが普通だったような気がします。ですから皆さんもまだ正確に進路が決まっていなくても焦らずじっくり考えて下さい。
 

大学時代は化学専攻で、有機化学の研究室へ在籍していたのですが、その先生が非常に教育熱心な方で週一回英語の勉強を見て下さいました。私の進路としては所属研究室とは全く関係のない他大学の生物専攻だったのですが、そんなことお構いなしに物理専攻の先生と一緒に、同じ研究室の学生や生物専攻の学生を集めてTIME誌を読んで訳すことを行って下さいました。しかしながら道は険しく希望の大学院へはなかなか入れず、家族からも“いつまで夢を見ているのだ、さっさと就職して働きなさい”といわれながら結局2年間の浪人生活を送りました。これで最後にしようと決意して臨んだ3年目でようやく合格して大学院生になれたのですが、その時思ったのは、“大学に入る時にどうしてもっと頑張れなかったのだろう?あの時本当に自分の力を精一杯出し切って頑張れたのだろうか?”という後悔の念です。これから大学受験をされる皆さん、また大学院を受験される皆さんへのメッセージとしては、“自分は本当に頑張っているのだろうか”自問自答されることをお勧めします。自分に向かって正直に自分で頑張っていると思えたら心配ないと思います。自分を欺くことはなかなか難しいと思いますよ。
 

さて、大学院の進路として私が選んだのは、発生生物学の研究室です。発生というのは、1つの卵が1つの精子と出会うこと、つまり受精すること、に始まりその卵が成長して一人前の大人になるまでの過程を意味します。私はなぜ、色々な研究分野がある生物学の中から発生生物学を選んだのでしょう?

もともと生物学をきちんと学んだことのなかった私は、自分なりに悩んだのですが、“発生生物学は生物学のあらゆる分野へつながりがある学問だ”と考えたからです。私が入った研究室では、ホヤの発生生物学を研究していました。ホヤは魚市場ではホヤ貝として売られていますが、貝とは全く別の動物で、私たちヒトと同じグループである脊索動物門に属する動物です。私が現在研究している動物は、ギボシムシとよばれるもので、おそらく皆さんが聞いたことがない生き物でしょう。海底の砂や泥の中を自由に動き回っているミミズのような細長い動物です。手で触るとネバネバニュルニュルするし、結構きつい臭いのする余り触って気持ちの良いものではありません。どうしてそのような奇妙な生き物を研究しているのかといいますと、ギボシムシは、成体構造の中に我々ヒトを含めた脊索動物に特徴的な構造を持っており、古くから脊索動物と関連づけて研究されてきました。また一方で胚発生の様式や幼生の形態が、ヒトデやナマコなどの棘皮動物によく似ているという特徴をもちます。ちなみにトルナリアとよばれるギボシムシの幼生は親個体とは全く違って、透明で非常にかわいらしいです。ギボシムシは半索動物門に属し、系統学的に脊索動物門・棘皮動物門と同じ新口動物群というグループに分類されます。その中でギボシムシがこれら動物群の起源と進化を探る上でカギになる生き物だと考えているからです。私はこれら3つの動物門に共通なところ・違うところを遺伝子レベルで調べて比較し、どのような共通祖先からこれらの動物が生まれてきたのかに迫りたいと考えています。ギボシムシの分子生物学的(遺伝子を使った)研究は、まだ始まったばかりですし、これからどんどん色んな人に研究していただきたいと思っています。


up