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研究者への軌跡

コンピュータと生物学と私

氏名:植木 龍也

専攻:生物科学専攻

職階:准教授

専門分野:分子生理学

略歴:1967年兵庫県生まれ。1990年京都大学理学部卒業、1995年京都大学大学院理学研究科動物学専攻修了、博士号を授与される。同年5月から熊本大学医学部附属遺伝発生医学研究施設形態発生部門助手。1998年1月に、広島大学理学部附属臨海実験所(現、理学研究科附属臨海実験所)に転任、2003年3月に助教授に昇任。2004年4月、理学研究科生物科学専攻動物科学講座に配置換。日本動物学会中国・四国支部評議員、同本部広報理事。

 

生物学を志す

高校時代までは電子工学分野へ進むつもりだった。その頃、マニア向けのマイコンから一般向けのパソコンへと時代が移り、さらなる飛躍を遂げようとしている時代であった。私の分岐点、つまり電子工学ではなく生物学の研究をしたいと思うようになったのは、おそらく高校2年生の頃である。子供の頃から図鑑と科学者の伝記ばかり読んでいて、文学や歴史はいまだにからっきしダメである。特に魚釣りが好きで、小学校半ばから現在に至るまで膨大な記録を残している。

釣行録と自作ルアー

 

実家は中国山地の小さい盆地で、普段は川釣り、ほぼ毎日曜日にはやはり釣り好きの父と弟とともに海へ出かけた。工作も好きなので、手釣り用の浮子を作ったり、バス釣りを始めるとルアーを作った。コンピュータを作ることと、生物の研究を天秤にかけた結果、細かい思考プロセスは覚えていないが、道具を作るよりは道具を使って何か新しい発見がしたいと考えて、理学部へ入学し生物を志すことに決めた。京都大学理学部は学科の区別がなく、しかし教養課程では生物ばかり勉強した。高校では物理と化学だったから、わからないことが多かった(今でも半分くらいわからない)。3年生になって専門科目で米田満樹先生と佐藤矩行先生の発生生物学の授業を受け、初期発生過程での細胞分化に興味を持ち、両先生の講座で卒業研究・大学院へと進んだ。
 

ホヤ研究者の道へ

調節卵とモザイク卵という概念を私はそれ以前から知っていたのかどうかわからないが、ともかく佐藤先生が講義で紹介された線虫とホヤのモザイク性と細胞系譜の話に特に興味を引かれた。受精卵の段階ですでに発生運命はおおよそ決まっており、卵割が進むに従って形となって現れてくるというプロセスが、コンピュータのプログラミングに似た面があるからかもしれない。ともかく細胞分化のメカニズムに興味を持ち、佐藤先生の指導のもと、卒論ではホヤ卵割阻害胚の表皮特異的タンパク質発現に取り組んだ。とはいうものの3人の4年生に対して半年で一つのテーマというやり方で、まあ二次元電気泳動が出来るようになればいいよ、という感じだったと思う。私は修士課程に進学し、引き続き表皮特異的遺伝子発現の研究を進めることになった。発生学の分野で分子生物学の技術が導入されて成果が出始めていた頃であり、遺伝子クローニングとin situハイブリダイゼーションによる組織特異的発現の解析、その特異性を担うシスエレメントの解析、といった内容が中心で、この分野は少し後に分子発生学と呼ばれるようになり、比較ゲノムへと発展する。幸い修士課程の間に表皮特異的発現を行う遺伝子が単離でき、最初の論文をまとめることができた。論文はパソコンに電子タイプライターをつないで打ち出していた。デジタルカメラは普及しておらず、暗室で白黒写真を焼いた時代だった。

マボヤの受精卵

 

広島大学へ

大学院を修了した後、熊本大学の助手になり、ヤツメウナギとナメクジウオを3年ほど研究した後、向島の臨海実験所に着任した。これが私の広島大学でのスタートである。再びホヤの世界に戻った私は、ここで道端齊教授らとともにホヤによる金属濃縮の分子生理学的研究をすることとなった。向島臨海実験所は本学から約70kmの遠隔地にあり、4名のスタッフと数名の学生からなるこじんまりとした施設である。全国にはこのような理学部系の臨海・臨湖実験所が22カ所あり、それぞれ専任のスタッフが地域性・環境を活かした研究を行っている。遠隔地ゆえの不便さは少々あるが、研究・教育に没頭できるすばらしい環境とも言える。なんといっても蛇口から海水が出るのが有り難い。釣りやバーベキューなどレクリエーションもまた楽しい。その後、諸般の事情により西条のメインキャンパスに移ったが研究は続く。残念ながら蛇口からは海水は出ない。

マボヤとスジキレボヤ

 

何を知りたいか

私がいわゆる研究を始めた大学院から数えると15年以上の月日がたった。私自身のコンピュータスキルはその間それほど進歩していないが、コンピュータはどんどん使いやすくなり、道具として成熟してきた。生物学の分野でもゲノムサイエンスの隆盛に象徴されるようにコンピュータは大きく研究を加速した。その道具を使って自分は何を知りたいのか、つねに自分に問いながら生物と向き合っていきたいと思う。


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