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研究者への軌跡

人生・植物

氏名:近藤 勝彦

専攻:生物科学専攻

職階:教授

専門分野:植物遺伝子資源学、細胞遺伝学

略歴:
理学研究科教授。PhD。1944年生まれ。1968年東京農業大学卒業、1975年アメリカ合衆国ノースカロライナ大学チャペルヒル校植物学科博士課程修了、博士。1976年3月同国メリーランド大学カレッジパーク校生物学科講師、同年10月広島大学総合科学部助手、1979年11月同学部講師、1980年4月、同大学大学院環境科学研究科担当、1982年4月同学部助教授、1988年4月同大学大学院生物圏科学研究科担当、1989年4月同大学理学部教授、大学院理学研究科担当、同学部附属植物遺伝子保管実験施設長、1993年、同大学大学院理学研究科遺伝子科学専攻担当教授を経て、2000年、同大学大学院理学研究科生物科学専攻担当、同研究科附属植物遺伝子保管実験施設長現在に至る。野生ラン科植物の凍結保存にアブサイジン酸・乾燥法を開発、改良を加えて一般化技術とし、1997年名古屋国際蘭会議学術賞、2001年第7回アジア太平洋ラン会議学術奨励賞を受賞した。2002年インドから出版された“野生ランの保全”についての本の1章にまとめられ、さらに今年度中にベルギーから出版される“単子葉植物の凍結保存”という本の1章にもなる。

 

私の研究歴は、最初の論文を世に出した年から数えてすでに35年が経っている。その間の経験を振り返って、植物学を志す者は万国共通の性格を持っているんだなあとつくづく思う。『多くの人々はゴルフ、野球、サッカーなどを皆と楽しんで時間に流れていく。植物大好人間は植物に興じて、時間に流れていく。植物大好きで、植物のことしか考えていない』。私を植物一途にさせた動機といいましょうか、私を夢中にさせた植物たちとの出会いが2つある。1つ目は、小学校2年生の夏休みに父が伊吹山(滋賀県と岐阜県の県境の山)に植物採集に連れて行ってくれたことである。歩き回った頂上のお花畑は何とダイナミックできれいだったことか、いまだ忘れない。2つ目は、小学校4年生のとき、その頃はまだ珍品中の珍品であったハエトリグサという食虫植物を父が横浜から取り寄せてきて、栽培を始めたことである。この植物は、二枚貝状の葉を瞬時に閉じて虫を捕らえるものである。この植物とは思えない動く植物を見ようと毎日のように見学者がやってきた。そのうちの2名ほどは常連となり、さらには親までやってきて、分譲を求め、父を悩ませたが、私は他では見られないものを自分が持つことのうれしさでいっぱいであった。私にとってこれら2つのきっかけは強烈で、その後も忘れることも、違った分野に目を向けることも無かった。自分の人生は植物相手以外には有り得ないという思いは、小学6年生までにできていた。大学院も植物学を選び、食虫植物ハエトリグサの自生地のあるところを選んだ。大学院での研究課題は違っていたが、ハエトリグサの自生地へはこまめに出掛けていた。好きな植物が相手で、勉学はさほど苦痛ではなかった。植物への思いは年が経っても変わらないどころか、ますます植物研究としてのめりこんでいる。
 

植物学は、方法論は種々あるが観察科学であり、目で見て確かめたことを素直に既知の事実か新知見か区別する。これを徹底して教え込まれてきたことを理解できるようになったのは大学院で学ぶようになってからである。新知見の周りには既知の事実が何重にも取り巻いていることを十分に理解、区別でき、知識として自分の体に染み込ませる事ができるようになった。集中力を長時間、長期的に持続させ、地味でまじめ一筋、教えられた正しい手順で、こまめに手を動かして結果を蓄積させていくと、研究のおもしろさが軌道に乗ってきた。そして、関連論文を見、勉強するくせもついたら、何がオリジナリテイなのか判ってきた。レポートのまとめは論文を書くことへの経験につながり、書けば書くほど良い論文原稿が書けるようになった。経験が重要であった。私の大学院時代でのトレーニングはこのことに尽きたし、徹底してそれらのくせをつけさせられたから、今があると強く感じている。これが私がプロの研究者になって植物学をやっていこうと自信をもって決意した経緯である。
 

広島大学で育てたオリジナル研究としては、(1)モウセンゴケ属は、双子葉植物で唯一分散動原体型染色体植物で、独自の進化を進めている。(2)タヌキモ属植物種子内部は未分化胚で、水環境によって器官を自在に分化させる。(3)食虫植物は貧栄養土壌の閉鎖的環境を好むため、窒素成分の調節だけで生活史を完全制御できる。(4)中国のトウツバキの起源を発見した。(5)マングローブ構成植物の授粉生態学をまとめた。(6)マツクイムシ被害によるアカマツとクロマツ間雑種化進行現象は、両種遺伝子を後代へ残す手段である。(7)野生ラン科植物の凍結保存にアブサイジン酸・乾燥法を開発、一般化した。(8)世界的絶滅危惧植物種の大量増殖と戻し導入の技術開発に努力してきた。(10)ソテツ類染色体介在部に共通の巨大アラビドプシス型テロメア・シークエンス・レピートがある。(11)ソテツ類ザミア属の進化は染色体動原体部位のロバートソニアン・フージョンとフィッションによる。(12)キク属は108属1,741種間でシンテニーをもつことを発見、これを広義キク属と呼んでいる。特に核DNA塩基配列は高い相同性をもち、各種は同質倍数体が生態型として分化している。(13)野生広義キク属で得た技術をキク栽培品種に応用し、遺伝的多様性を充実させた。(14)野生植物に対応できる植物分子細胞遺伝学的方法論を確立した。などが主なものである。
 

私が現在進めている広義キク属を中心とした日本の植物相関連ユーラシア大陸産植物についての植物遺伝子資源学的研究は日露政府間で合意された共同研究で、野外調査→採集→栽培系統化→特性評価(属間、種間関係を知るための遺伝学、交配、生理生態学、耐病虫害抵抗性や土壌適応性の研究など)→大量増殖→分譲が1セットになって行う事業である。このような国際的植物研究は関連諸外国の植物学研究者の協力と共同研究、協定なしには事業は進まない。近藤チームの地球レベル・ネットワーク作りはほぼ完成しているが、グローバル・スタンダードは段々小さくなる地球にあって今後最重要課題であり、研究者間関係を大切にしながら研究事業を進めていかなければならない。

ロシア、バイカル湖畔で植物観察のためキャンプしている植物大好き中学生グループ(日本では小学6年生に相当する)。我々が日本から植物調査に来ていると知ると、植物についての質問が飛び交い、日本の植物研究者と記念写真を撮らせてくれと周りに集まってポーズをとった。


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