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【研究成果】PET/CT検査のCT線量を抑えることで放射線の影響を減らせる可能性 ―157例を対象とした研究で、PET薬剤よりCTの影響が大きいことを確認―

本研究成果のポイント

  • CT線量の異なる2つの医療機関でPET/CT※1検査を受けた157例を対象に、放射線医薬品であるFDG※2の投与前、投与後、CT撮影後の3回採血し、放射線による染色体異常※3の変化を調べました。
  • 通常の放射線量でCT撮影を行った施設では、PET/CT検査前と比較して、CT撮影後に染色体異常数が増加しました。一方、PET画像の補正や位置確認に必要な画質を保ちながら放射線量を抑えたCTを用いた施設では、染色体異常の明確な増加は認められませんでした。
  • FDGの投与によって、CT撮影による染色体異常がさらに増加することは確認されませんでした。統計解析の結果、染色体異常の増加はFDG投与量ではなく、CTの放射線量と関係していることが分かりました。
  • 検査の目的に応じてCT線量を調整することで、必要な診断性能を保ちながら、放射線の影響をできるだけ抑えられる可能性が示されました。

概要

 広島大学原爆放射線医科学研究所 細胞修復制御分野の田代聡教授、広島大学病院放射線診断科の中村優子教授らの研究グループは、がんの診断などで広く行われているFDG-PET/CT検査について、放射線による体への影響を調べました。
PET/CT検査では、放射性医薬品「¹⁸F-FDG※4」を体内に注射して撮影するPET検査と、X線を使うCT検査を組み合わせます。そのため、患者はFDGとCTの両方から放射線を受けます。しかし、これまで、それぞれが体に与える影響を分けて調べた臨床研究はほとんどありませんでした。
 研究グループは、CTの撮影条件が異なる2つの医療機関で、FDG-PET/CT検査を受けた157例を対象に、FDG投与前、投与後、CT撮影後の3回採血し、解析可能であった156例について、血液中のリンパ球に生じた二動原体染色体※5や環状染色体※6などの染色体異常を比較しました。
 その結果、FDGを投与しただけでは、いずれの施設でも染色体異常数の増加は認められませんでした。一方、標準線量でCT撮影を行った施設では、CT撮影後に染色体異常数が増加しましたが、PET/CT検査用に線量を抑えたCT撮影を行った施設では、明確な変化がありませんでした。
 さらに、年齢、性別、喫煙歴、化学療法歴などの影響を考慮して解析した結果でも、CTの放射線量が高いほど細胞への影響(染色体異常)が増えることが示されました。一方、FDGの投与量との明確な関連は認められず、FDG投与がCTによる細胞への影響を強めることも確認されませんでした。
 本研究により、PET/CT検査に伴う染色体異常の変化には、放射性医薬品(FDG)投与よりもCTの放射線量が強く関与していることがわかりました。検査の目的に応じてCTの放射線量を適切に調整することで、診断に必要な画像の質を保ちながら、放射線による細胞への影響を抑えられる可能性があります。
 本成果は、画像診断分野の国際学術誌「European Radiology」に7月17日に掲載されました。

背景

 FDG-PET/CTは、がんの診断や治療方針の決定に欠かせない検査です。PETでは、ブドウ糖に類似した放射性医薬品である¹⁸F-FDGを注射し、体内の糖代謝を画像化し、特に糖代謝が活発な「がん」に多く取り込まれます。CTは、PET画像の補正や病変の位置確認に加え、詳細な形態診断にも用いられます。
 一方で、PET/CTではFDGとCTの双方から放射線を受けるため、必要な画質を保ちながら被ばくを最小化することが重要です。とくにCTについては、PET画像の補正や位置情報の取得を目的とする場合と、精密な診断を目的とする場合とで、必要とされる線量が異なります。また、実臨床では、明確な診断上の必要性がない場合でも、より詳細で見やすい画像を得る目的で、PET/CTと同時に診断用CTが撮影されることがあります。
 これまで、FDG-PET/CT後のDNA損傷を評価した研究はありましたが、FDGによる体内被ばくとCTによる体外被ばくの影響を時間的に分けて評価し、さらに異なるCT線量プロトコルを比較した臨床研究は限られていました。
 研究グループはこれまで、末梢血リンパ球の染色体異常を用いてCTによる生物学的影響を評価する手法を開発してきました。染色体異常は、電離放射線への被ばくによって増加することが知られており、放射線の生物学的影響を評価する指標の一つです。

研究成果の内容

 本研究は、異なる線量プロトコルを用いた2施設で実施した前向き観察研究です。低減線量CTプロトコルを用いる施設と、標準線量CTプロトコルを用いる施設で、本研究を実施しました。臨床的にFDG-PET/CTを受けた患者157例を対象とし、以下の3時点で採血を行いました。
 1. FDG投与前
 2. FDG投与後約50~60分
 3. CT撮影後約30~60分
採取した血液からリンパ球を培養し、PNA-FISH法※7を用いて、二動原体染色体および環状染色体を中心とする不安定型染色体異常を評価しました。図の中のセントロメアとは、染色体の中央付近にあるくびれの部分です。一方、テロメアとは、染色体の両端にある保護構造です。(図1)。

 

 低線量CT施設では101例、標準線量CT施設では56例を登録しました。CT線量の指標である線量長積(DLP)の中央値は、低線量CT施設で260mGy・cm、標準線量CT施設で706mGy・cmでした。PET/CT全体の実効線量※8の中央値は、低線量CT施設で8.3mSv、標準線量CT施設で13.3mSvでした。
 FDG投与後の染色体異常数は、両施設とも検査前と比べて有意な増加を認めませんでした。一方、標準線量CT施設では、CT撮影後の染色体異常数が検査前と比べて有意に増加しました。増加量の中央値は1,000細胞当たり1.2であり、統計学的に有意でした。低線量CT施設では、3時点の染色体異常数に有意な変化を認めませんでした。
 さらに、患者ごとの年齢、性別、喫煙歴、化学療法歴、FDG実効線量、CT実効線量を考慮した多変量解析を行ったところ、CT実効線量は染色体異常頻度と独立して関連していました。FDG実効線量には明確な独立した関連を認めず、FDG実効線量とCT実効線量の交互作用も認めませんでした(図2)。
 これらの結果は、PET/CTにおける染色体異常の変化には、FDG投与よりもCT由来の放射線がより強く関与している可能性を示しています。
 

図3. PET/CT検査装置

今後の展開

 本研究は、PET/CTで行われるCT撮影について、検査の目的に応じた放射線被ばく線量を最適化することの重要性を示す生物学的な根拠となります。
 PET/CTにおいて、CTで詳細な診断画像が必要な場合には、適切な診断能を確保することが最優先です。一方、PET画像の減弱補正や位置情報の取得が主な目的である場合には、低線量CTを用いることで、不要な放射線被ばくおよび染色体異常の増加を抑えられる可能性があります。
 特に、PET/CT検診のように無症状の人を対象とする検査では、利益と被ばくのバランスを慎重に考える必要があります。本研究は、撮影目的に応じたCT線量の適正化や、低線量PET/CTプロトコルの活用を検討するうえでの基礎資料となることが期待されます。
 また、染色体異常を用いた生物学的線量評価は、今後普及が進む新規PET薬剤や放射性医薬品治療においても、放射線の生物学的影響を評価する手法として役立つ可能性があります。

研究助成

 このプロジェクトの一部は、日本学術振興会のJ-PEAKS※および文部科学省ネットワーク型共同利用・共同研究拠点「放射線災害・医科学研究拠点」の支援を受けており、広島大学では今後も、これらの支援により放射線医療研究を推進していきます。

※ J-PEAKS(地域中核・特色ある研究大学強化促進事業):
地域の中核大学や研究の特定分野に強みを持つ大学が、その強みや特色のある研究力を核とした戦略的経営の下、他大学との連携等を図りつつ、研究活動の国際展開や社会実装の加速等により研究力強化を図る環境整備を支援することにより、我が国全体の研究力の発展を牽引する研究大学群の形成を推進することを目的としています。

用語解説

※1 PET/CT:
PET(陽電子放出断層撮影)とCT(コンピュータ断層撮影)を組み合わせた画像検査です。PETで体内の代謝や機能を評価し、CTで体の形や病変の位置を確認します。
※2 FDG:
ブドウ糖に似た放射性医薬品。がん細胞はブドウ糖を多く取り込むため、その性質を利用してPET検査でがんの位置や広がりを調べます。
※3 染色体異常:
細胞内の染色体に生じる構造上の変化です。本研究では、二動原体染色体や環状染色体などを評価しました。これらは放射線の生物学的影響を評価する指標の一つです。
※4 ¹⁸F-FDG:
ブドウ糖に似た性質をもつ放射性医薬品。糖を多く取り込む組織に集まりやすいため、がんなどの検出に使用されます。
※5 二動原体染色体:
通常は1つである染色体の動原体が2つ存在する異常染色体です。放射線によるDNA損傷後に生じることがあります。
※6 環状染色体:
染色体の両端がつながり、輪のような構造になった異常染色体です。
※7 PNA-FISH法:
蛍光標識した人工核酸プローブを用いて、染色体の動原体や末端部分を可視化し、染色体異常を評価する方法です。
※8 実効線量:
放射線による全身への影響を、臓器ごとの感受性を考慮して一つの値で表す指標です。単位はシーベルト(Sv)です。

論文情報

論文題目:
Biological effects of 18F-FDG administration and CT dose during PET/CT: chromosomal aberrations in a two-center prospective observational study

著者:
Yuri Kawashima1,†, Yasuha Kinugasa2,†, Mana Ishibashi1, 3, Wataru Fukumoto3, Yoshihiro Miyata4, Reiko Ideguchi5, Chiemi Sakai6, Mari Ishida7, Seiko Hirota8, Shinji Yoshinaga8, Ikuno Nishibuchi9, Yuji Murakami9, Gloriamaris Loy-Caraos10, Namkhai Bayasgalan2, Suvd Bayarjargal2, Lin Shi11, Jiying Sun2, Yasunori Horikoshi2, Morihito Okada4, Yuko Nakamura3, Kazuo Awai3, Takashi Kudo5, Satoshi Tashiro2,*
†共同筆頭著者
* 責任著者

所属:
1 Research Institute for Radiation Biology and Medicine, Hiroshima University,
Hiroshima, Japan
2 Department of Cellular Biology, Research Institute for Radiation Biology and Medicine, Hiroshima University, Hiroshima, Japan
3 Department of Diagnostic Radiology, Graduate School of Biomedical Health Sciences, Hiroshima University, Hiroshima, Japan
4 Department of Surgical Oncology, Research Institute for Radiation Biology and Medicine, Hiroshima University, Hiroshima, Japan.
5 Department of Radioisotope Medicine, Atomic Bomb Disease Institute, Nagasaki University, Nagasaki, Japan
6 Department of Cardiovascular Physiology and Medicine, Graduate School ofBiomedical Health Sciences, Hiroshima University, Hiroshima, Japan
7 Department of Health and Nutrition, Faculty of Health Sciences Hiroshima Shudo University
8 Department of Environmetrics and Biometrics, Research Institute for Radiation Biology and Medicine, Hiroshima University, Hiroshima, Japan
9 Department of Radiation Oncology, Graduate School of Biomedical and Health Sciences, Hiroshima University, Hiroshima, Japan
10 Department of Science and Technology, Philippine Nuclear Research Institute, Philippines
11 Department of Radiology, The Second Affiliated Hospital of Shandong First Medical University, Shandong, China

掲載誌:European Radiology
掲載日:2026年7月17日
DOI:https://doi.org/10.1007/s00330-026-12731-0

発表者・研究者等情報

広島大学原爆放射線医科学研究所 川島 友莉 特任助教(研究当時、現:大阪公立大学大学院医学研究科ウイルス学・寄生虫学 助教)
広島大学原爆放射線医科学研究所細胞修復制御分野 衣笠 泰葉 助教(研究当時、現:医療法人徳洲会湘南鎌倉総合病院、湘南先端医学研究所 がん医療研究部、主任研究員)
広島大学原爆放射線医科学研究所 石橋 愛 特任講師
広島大学病院放射線診断科 福本 航 准教授、中村 優子 教授、粟井 和夫 名誉教授
長崎大学原爆後障害医療研究所アイソトープ診断治療学分野 工藤 崇 教授
広島大学原爆放射線医科学研究所腫瘍外科分野 岡田 守人 教授
広島大学原爆放射線医科学研究所細胞修復制御分野 田代 聡 教授

【お問い合わせ先】

【研究に関するお問い合わせ先】
原爆放射線医科学研究所 細胞修復制御分野 教授 田代 聡
Tel:082-257-5818 FAX:082-256-7104
E-mail:ktashiro*hiroshima-u.ac.jp

 (*は半角@に置き換えてください)


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