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【研究成果】地球深部の主要鉱物は“ほぼ乾燥”していた~深部の水の行き先が判明~

発表のポイント

  • 地球深部の主要鉱物の一つデイブマオアイトが、従来想定よりはるかに少量しか水を取り込まないことを、超高精度高温高圧実験により明らかにしました。
  • これまで「下部マントルの水を担う可能性がある」と考えられてきたデイブマオアイトは、実際にはほぼ乾いた状態で存在することが判明しました。
  • この発見は、深部水が主に沈み込んだ地殻物質に集中するという新しい描像を提示しました。

岡山大学学術研究院先鋭研究領域(惑星物質研究所)の石井貴之准教授、広島大学の高市合流特任助教、愛媛大学、帝京科学大学、京都大学、高輝度光科学研究センター、中国北京高圧研究センターの国際共同研究グループは、大型放射光施設SPring-81)において、川井型マルチアンビル高圧発生装置2)と放射光X線を組み合わせ、地球下部マントルの主要鉱物であるデイブマオアイトの含水下の体積を、下部マントル最上部条件までの高温高圧下で精密測定しました。この成果は7月24日、英国の地球科学誌「Communications Earth & Environment」に掲載されました。デイブマオアイトの水含有量は、実験的に決定することが難しいため、地球深部の水循環モデルを構築するうえで大きな障壁となっていました。本実験結果から、乾燥・含水条件で合成したデイブマオアイトの体積はほぼ同じで、水溶解度は従来の推定の1/10以下(0.08wt%以下)であることが明らかとなりました。主要下部マントル鉱物が水を保持しないことから、深部の水は沈み込む地殻物質に集中するという新しい水循環モデルを提案しました。本成果は地球内部の物質循環と進化の理解を大きく前進させるものです。

研究者からのひとこと

今回の成果は、日本が世界をリードしてきた放射光×マルチアンビルプレス技術を、国内研究グループが最大限に融合させたことで実現しました。マルチアンビル実験は、「地球深部をそのまま実験室に再現できる」強力な手法として進化を続けています。この知と技を次世代へ継承し、学生や若手研究者が「自分もマルチアンビルで地球の謎に挑みたい」と心から思える環境を広げていきたいと考えています。興味を持たれた方は、ぜひ一緒に研究しましょう!

発表内容

現状

 地球内部の水は、岩石の融解、電気伝導度、レオロジー(変形しやすさ)など多くの物性を左右し、地球内部構造の理解や地球がどのように進化してきたかを解明するうえで欠かせない要素です。そのため、「どの鉱物がどれだけ水を保持できるのか」は地球科学の根幹をなす重要課題となっています。深さ410〜660kmのマントル遷移層では、上部マントルの主要鉱物オリビンの高圧相であるウォズレアイトやリングウッダイトが2-3wt%の水を保持できることが知られており、この領域における水貯蔵量は、海洋の数倍に達する可能性すら指摘されています。一方、深さ660km以深の下部マントルでは、主要鉱物であるブリッジマナイトとフェロペリクレースはほとんど水を含まないことが分かっています。しかし、もう一つの主要鉱物であるデイブマオアイト(CaSiO₃ペロブスカイト)の水含有量は長年不明で、「1wt%以上の水を含む可能性がある」とする研究もありました。この不確定性は、地球深部の水循環モデルを構築するうえで大きな障壁となっていました。

研究成果の内容

 岡山大学惑星物質研究所・愛媛大学・広島大学・帝京科学大学・京都大学・高輝度光科学研究センター・中国北京高圧研究センターの国際共同研究グループは、大型放射光施設SPring-81)のBL04B1にて、川井型マルチアンビル高圧発生装置2)と放射光X線を組み合わせ、人工的に合成したデイブマオアイトの含水下の体積を下部マントル条件までの高温高圧下で精密に測定しました。
 その結果、乾燥条件と含水条件で合成したデイブマオアイトの体積は誤差範囲内で一致し、含水化による体積変化はほとんど認められませんでした。観測された体積差はわずか–0.02%で、1wt%の水を含む場合に予測される–0.2〜–0.5%の減少よりはるかに小さい値です。さらに、回収試料の二次イオン質量分析法でも水はほとんど検出されず、デイブマオアイトが下部マントル条件下で実質的に“ほぼ乾燥した状態”で存在することが裏付けられました。第一原理計算3)の結果と合わせると、水溶解度は0.08wt%以下であり、従来想定の1/10以下であることが明らかになりました。
 この成果から、マントル岩石ペリドタイト中の主要下部マントル鉱物(ブリッジマナイト、フェロペリクレース、デイブマオアイト)はいずれも水をほとんど保持できないことが示されました。一方で、本研究メンバーを中心に、地殻中の主要鉱物シリカは下部マントル条件で水を大量に保持できる高圧鉱物へと相転移4)することを近年明らかにしました。つまり、下部マントルの水循環を支配しているのは主要マントル岩石ではなく、シリカ高圧鉱物を含む沈み込む地殻物質であるという新しい水循環モデルが浮かび上がります。

社会的な意義

 水は、生命の起源・存続だけでなく、地震や火山活動など私たちの生活に直結する地球現象を左右する重要な物質です。本研究は、地球という惑星の内部で水がどのように分布し、どのように移動しているのかを実験的に明らかにしました。深部の水循環が明確になったことで、地球内部の物質循環の理解やマントルの進化過程など、地球科学の基盤となる知識が大きく前進します。

図1.沈み込むプレート内の水の分布。沈み込むプレート内部では、深さによって水の保持能力が大きく変化します。マントル遷移層までの深さでは、ウォズレアイトやリングウッダイトが数wt%の水を保持できるため、プレート内部の水は主にこれらの鉱物を含む領域に蓄えられます。一方、プレート表層の地殻物質層では、シリカ鉱物が一部の水を取り込むことが知られています。下部マントルに入ると、ブリッジマナイト、フェロペリクレース、デイブマオアイトなどの主要下部マントル鉱物は水をほとんど保持できません。そのため、プレート内部の水はペリドタイト中にはとどまらず、より水を保持できるシリカ鉱物を含む地殻物質層へ再分配されます。シリカ鉱物は下部マントル条件で高圧相へと相転移4)し、さらに多くの水を保持できるようになるため、深部へ進むにつれて水は地殻物質層に集中していきます。このように、下部マントルでは水の輸送と保持が近く物質層によって制御され、深部の水は主にシリカ高圧鉱物を含む沈み込む地殻物質に蓄えられると考えられます。

論文情報

論文名:Limited water incorporation in davemaoite under lower-mantle conditions
掲載誌:Communications Earth & Environment
著者:Takayuki Ishii, Goru Takaichi, Yu Nishihara, Kyoko N. Matsukage, Shoichi Itoh, Yanhao Lin, Tetsuo Irifune, Daijo Ikuta, Bin Zhao, Dilan H. F. Diyalanthonige, Noriyoshi Tsujino, Sho Kakizawa, Yuji Higo
DOI:10.1038/s43247-026-03856-7
URL:https://www.nature.com/articles/s43247-026-03856-7

補足・用語説明

1) 大型放射光施設SPring-8
兵庫県の播磨科学公園都市にある、世界最高性能の放射光を生み出す理化学研究所の施設で、利用者支援等は高輝度光科学研究センター(JASRI)が行っています。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8GeV(ギガ電子ボルト)に由来します。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、磁場によって進行方向を曲げた時に発生する、指向性が高く強力な電磁波のことを言います。SPring-8では、この放射光を用いて、ナノテクノロジーやバイオテクノロジー、産業利用まで幅広い研究が行われています。

2) 川井型マルチアンビル高圧発生装置
川井型マルチアンビル高圧発生装置は、地球深部と同じような「超高圧・高温」の環境を実験室で再現するための装置です。外側に配置された複数の硬いアンビル(押し金具)が、中心に置かれた試料を三次元的に均等に押し込むことで、地球内部の数万~数十万気圧に相当する超圧力環境をつくり出します。さらに高圧力セル内部に設置している電気炉によって加熱することで、例えば660km不連続面周辺の温度である1600℃を超える高温条件も同時に実現できます。大型放射光施設SPring-8のBL04B1では、特にこの装置を用いた研究を推進しており、世界でも屈指の技術力と研究実績を有しています。
この装置と放射光を組み合わせることで、地球内部の深さ数百~数千 kmに相当する極限環境を人工的に再現し、その地球内部環境下で鉱物がどのように変化するのかを直接調べることができます。今回の研究で明らかになった含水条件下でのデイブマオアイトの体積変化も、SPring-8の放射光×川井型マルチアンビル高圧発生装置によって実証することができました。

3) 第一原理計算
原子の動きや結晶構造を物理法則に基づいてコンピューター上で再現する“原子レベルのシミュレーション”であり、実験では直接観察できない水の入り方や構造のゆがみを理論的に評価するために用いられます。先行研究では、デイブマオアイトに水が入った際の構造の変化をシミュレーションするために使用しました。

4)高圧相転移
結晶を構成する原子は規則正しく配列していますが、圧力・温度が変化すると、全く違った配列に変化することがあります。これを相転移と言います。地球を構成する主要な鉱物は、地球深部の深さに相当する圧力で様々な相転移を起こし、より高密度の鉱物(高圧鉱物)になります。下部マントルのシリカ鉱物は、この高圧相転移により、より水を保持しやすい構造に変化しています。

【お問い合わせ先】

【研究内容に関するお問い合わせ】
岡山大学 学術研究院先鋭研究領域(惑星物質研究所)
准教授 石井貴之
(電話番号) 0858-43-3754 (FAX) 0858-43-2184
(メール) takayuki.ishii*okayama-u.ac.jp

広島大学 大学院先進理工系科学研究科
特任助教 高市合流
(電話番号) 082-424-5271 (FAX) 082-424-0735
(メール) goal5050*hiroshima-u.ac.jp

愛媛大学 先端研究院地球深部ダイナミクス研究センター
教授 西原遊
(電話番号) 089-927-8150 (FAX) 089-927-8405
(メール) nishihara.yu.mc*ehime-u.ac.jp

帝京科学大学 生命環境学部 自然環境学科
教授 松影香子
(電話番号) 03-6910-1010 (FAX) 03-6910-3800
(メール) matsukage*ntu.ac.jp

京都大学 大学院理学研究科 地球惑星科学専攻
准教授 伊藤正一
(電話番号) 075-753-4152 (FAX) 075-753-4189
(メール) itoh.shoichi.8a*kyoto-u.ac.jp

高輝度光科学研究センター
回折・散乱推進室 試料環境開発チーム
研究員 辻野典秀
(電話番号) 050-3496-8988
(メール) noriyoshi.tsujino*spring8.or.jp

<SPring-8/SACLAに関すること>
公益財団法人高輝度光科学研究センター(JASRI)
利用推進部 普及情報課
(電話番号) 0791-58-2785 (PBX) 050-3502-3763
(メール) kouhou*spring8.or.jp

【報道に関するお問い合わせ】
岡山大学 総務部 広報課
(電話番号) 086-251-7292
(メール) www-adm*adm.okayama-u.ac.jp

広島大学 広報グループ
(電話番号) 082-424-4518
(メール) koho*office.hiroshima-u.ac.jp

愛媛大学 総務部 広報課
(メール) koho@stu.ehime-u.ac.jp

帝京科学大学 入試・広報課
(メール)koho*ntu.ac.jp

京都大学 広報室 国際報道班
(電話番号) 075-753-5729
(メール) comms*mail2.adm.kyoto-u.ac.jp
 

(*は半角@に置き換えてください)


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