第11回 理学研究科 准教授 木村 昭夫先生

写真:木村先生

~ 第一線研究の世界に身を置く ~

取材実施日:2013年11月20日
第11回先生訪問は、理学研究科 物理科学専攻 物性科学講座 光物性研究室 木村 昭夫(きむら あきお)准教授にお話を伺いました。

Profile
1990年 大阪大学基礎工学部 物性物理工学科卒業
1995年 大阪大学大学院 基礎工学研究科博士課程修了
1995年-1999年 東京大学物性研究所軌道放射物性研究施設 助手
1999年より広島大学理学部物理科学科助教授に着任、2000年より現職

現在の研究内容 — 「私たちの生活を豊かにする研究」

私は放射光を用いた物質中のスピン電子状態の研究を行っています。物質中の電子は私たちの生活を豊かにしていく上でとても大切な役割を担います。身近な物では、蛍光灯やLED、太陽電池などが電子の働きを利用しています。つまり、物質中の電子状態を観測することは、より高い機能性を示す新しい製品の開発に役立つということです。
物質中の電子状態を観測するための一つの手法として、一定エネルギーの電磁波を当てると、物質中の電子が飛び出てくることを利用した光電子分光があります。広島大学には、その電磁波を放出するための施設 (広島大学放射光科学研究センター;HiSOR) があります。そこでは、電子をレーストラック状の加速器の中で光速近くまで加速させ、その進行方向を磁力により変えることで、紫外線より短い波長を含む強力な電磁波を発生させます。この電磁波のことをシンクロトロン放射光と呼び、物質中の電子状態を高い精度で観測するために利用しています。

下図:HiSORの設備の一部

写真:HiSORの設備の一部

私が最近、特に注目している物質はトポロジカル絶縁体です。これは物理学の世界で多くの関心を持たれている物質であり、世界中の研究者と争いながら研究をしています。トポロジカル絶縁体は、私たちの生活をより豊かにするようなデバイスを作る物質となる可能性があります。例えば、最近はコンピュータの計算処理能力が上がってきていますが、その能力を革新的に向上させることができるようになるかもしれません。そうなると、例えば数ヶ月後の気象の正確な予報や今までできなかった計算が可能になります。しかしながら、発見されたばかりの物質であるため、実用化にはまだまだ課題がたくさんあります。

学生の指導方針 - 「学部の間から第一線の研究を勧める」

学生には、今大きな注目を浴びている、あるいは競争の激しいトピックスにあえて取り組ませるようにしています。特に研究に着手する4年生のうちから頑張って欲しいと思っています。そのため、学部生だからと言わず、4年生から背伸びをしてもらい、第一線研究の世界に身をおくことを勧めています。しかし、最新の研究を自分のテーマを持って行うことはとても大変なことで、周りの人達とコミュニケーションを上手くとることが必要です。そうした研究活動を通してコミュニケーション能力や自主性を育てることができ、さらには研究の面白さも感じられるようになると思います。また、教科書から得た知識だけでなく、研究から得た知識も大事にしています。どの分野にいくにしても、自分が第一線の研究をした経験は自信に繋がるでしょう。
広島大学の学生は素直で、本当に勉強が好きな人が多いです。そのため、時間がかかることでも継続する力を持っています。長期的にみると、誰も真似することのできない高い所に到達することができるでしょう。私は、そうなれるような援助を惜しまず学生にしていきたいと思っています。

研究継続における上で大切なこと - 「競争の激しい世界へ」

その研究を楽しいと思うことが大切だと私は思っています。それは、多くの人が注目している競争の激しい研究を行うことと関連しています。多くの人が注目している研究を行うことで、学会発表後に質問が殺到したり、掲載された論文が引用されたりします。そうすると、自分が世界の中で頼りにされているのだと感じることができ、その実感は、研究を継続させる一つのきっかけになります。
ただ、良いことばかりではなく、研究は一喜一憂なものです。例えば、論文として投稿する寸前に似たような研究が発表され、非常にショックを受けることもあります。しかし、これが正に第一線の研究を行っている証であり、「次は負けないぞ!」というやる気に繋がっていきます。そのため、勇気のいることではありますが、競争の激しい研究を行うことは研究継続において、とても大切なことです。

写真:木村先生

大学で研究を続けようと思ったきっかけ ― 「楽しいことを追い続けた」

私は、大阪大学基礎工学部物性物理工学科に入学しました。それは、「物性物理工学科」という名前が当時ではとてもユニークでカッコいいことがきっかけでした。工学科という割には基礎的な内容が多く、理学部のようでした。入学当初は、そこまで勉強に興味をもっておらず、音楽活動にほとんどを費やしていました。その中で、大学3年生の時に「物性科学のすすめ」という東京大学物性研究所が中心となって編集された本と出会いました。この本との出会いをきっかけに、自分が何をしているのか、何のために勉強しているのかが分かったため、研究への興味が湧き、修士課程へ進もうと考えました。
大学4年生の時には「固体の電子状態」の理論に関する研究室に所属し、修士でも同じ研究室に進もうと思っていました。しかし、希望者が多く、結局は別の研究室に進むことになりました。そこは、私が研究に興味を持つきっかけとなった本を出版した東京大学物性研究所より着任されてきた先生の研究室でした。そこで、前の研究室で取り扱っていた物質に関する実験を行っていました。前の研究室の理論を実際に実験で証明することはとても楽しく、以前お世話になった先生も私の研究が論文として出たことをとても喜んでくださりました。また、自分の研究分野が新しいこともあり、学会発表をすると色々な人が面白いねと言ってくださったり、学生である私に対して他の研究者が質問してくださったりして、とても楽しいなと感じていました。そうやって、楽しい、面白いと思えることを追っていった結果が今の自分だと思います。

博士課程進学を考える学生へのメッセージ ― 「積極的なコミュニケーションを」

D進学を考えている人には、積極的にコミュニケーションをとるようにし、自分一人ではないことを知ってもらいたいです。例えば、分からないことがあったとしても、それは自分のせいではなく、ただ経験していないからです。分からないことは経験豊富な人に訪問する、メールを送るなどして積極的に聞いてみることを勧めます。そうすることで、新しい方向性が生まれ、聞いてよかったなと思うことが大半だと思います。また、そういった人間関係が面白いと思えるかもしれません。
もう一つは、先生の言うことは必ずしも正しくありません。だから、間違っていてもいいので、自分の意見を素直に、遠慮なく先生に言うことを心掛けて欲しいです。その議論の中で、何か大事なことが生まれてくるかもしれません。そして、結果的には、先生が知らないことを先生に教えられるような人を目指して欲しいです。
一貫しているのは、D進学を考えている人には、コミュニケーションを大事にして欲しいということです。色々な研究者と自ら積極的に、遠慮せずにコミュニケーションをとる力を身に付けて欲しいと思っています。

写真:木村先生の実験室の様子

取材者:杉江健太 (総合科学研究科総合科学専攻 人間行動研究領域 博士課程前期1年)


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