第2回 生物圏科学研究科 准教授 長沼 毅先生

写真:長沼先生

取材実施日:2013年1月7日

生物圏科学研究科 環境循環系制御学専攻 環境評価論講座の長沼毅准教授に、研究内容、学生の指導方針、研究を続けていくうえで大切なことについてお話を伺いました。

現在の研究内容

授業では生物海洋学を教えています。海洋生物学と似ていますが、生物海洋学は、海洋学です。海洋学ですから海の研究の一環ですが、生物学的に研究しています。私としては、海に住んでいる生き物たちの間にある壮大な物語を教えたいと思っています。研究も同じ内容です。

物語と言った瞬間に考えなければならないのは舞台装置です。
舞台装置としての海洋、海を研究しています。海には浅い方は光があって深い方は光がないとか、浅い方は水圧がないけれど深い方は水圧があるといった構造があります。その構造に応じて生き物が棲み分けをしたり、いろいろ移動するにあたって適応したりする、そういったことを研究しています。
それから、物語のアクターであるプレイヤーたち、いろんなプレイヤーがいます が、大きく分けることができます。例えば、生産者、消費者、分解者というように、いわゆる植物、動物、微生物などです。そのように分けた中で、プレイヤー たちは様々なシナリオで劇を演じています。そのシナリオに重きを置き、どういったシナリオが海の中で展開されているのかを中心に研究、教育を行っています。

自分のライフワークとしての研究は、極限環境の生物です。深海底から始まり、地底、南極、北極、砂漠、高山、火山に及びます。どんな過酷な環境に行ってもいつも生き物がいる、そんな生き物の「スーパーな力」を目の当たりにして、それを研究、教育の材料にしたいと思っています。

最近では話が大きくなってきて、いそうもない場所にも生き物がいるので、「それじゃあ地球外天体にも生物がいるのではないか。」という話になってきて、宇宙生命体のほうにも視野を広げています。

通称「仕事ゼミ」

留学生がいるのでゼミは英語でやるようにしています。英語はつたない英語でも構わないので、出来るだけ日本人にも英語を話すように言っています。ゼミって言うと普通は論文紹介や、近々にある学会の発表練習などをすると思いますが、うちのゼミは仕事の進捗状況の話し合いをしています。

仕事に関しては日々メールでレポートをしてもらっているので、集まった時は中心的なこと、学生の中でこれは共通事項だなと思ったらそれを話題にしたり、その話題をネタにして私が知っている知識の話をしたりしています。学生には高いアンテナ感度を持って、最新の情報や面白い情報を入手してゼミで共有できることを期待しています。

論文はなるべく多く書いたほうがいいと思います。一に論文、二に論文です。就職やドクターに進む際に圧倒的に有利になります。学生の後々の人生のためにもひたすら論文を書くよう指導しています。

今だとインパクトファクターといって、点数の高いジャーナルに一本出したほうが数多く論文を出すよりもいいという風潮がありますが、それは違っていて、やはりたくさん出したほうがいいと思います。

写真:長沼先生

学生の指導方針

「世界標準で考える」

広大で育つ学生の人生を考えた場合、その人が世界的にも活躍出来るように世界標準で考えています。なぜ世界かというとそれはチャンスが広がるからです。

「結果の平等より機会の平等」

例えば他の大学の学生が与えられるチャンスがあったら、それは広大の学生にも与えられてしかるべきだと思います。学生を受け入れることはその学生との契約です。定められた年限内で卒業し、その後の人生で活躍できる様に、成長するための知識や技術を指導しています。また、人間の器や幅は経験値による部分が大きいと思うので、よく学生を北極、砂漠、火山など辺境の地に連れて行ったりもします。

大切にしている2つの言葉

「No pain, no gain」

私は自分が書くために生まれてきた (born to write) と思っているので、論文や本を書くことが苦痛だとはあまり感じません。確かに、連日ハードワークが続いて朝起きられないとか苦痛はあります。そういう時は、「No pain, no gain」若いころからこの言葉を頼りにやってきました。このPainful な状況を乗り越えれば、自分はもっとGainできると言い聞かせるようにしています。これはぜひみなさんも我がものにされてみてはいかがでしょう。

「どっちか迷ったら苦しいほうをやれ」

もう一つ心に刻んでいる言葉があって、画家の岡本太郎さんの「どっちか迷ったら苦しいほうをやれ」です。嫌だなと思ったらそれをしなさい。これは岡本太郎さんの言葉として私の胸に刻まれています。例えば、朝起きるのが嫌だなと思ってしまった瞬間に、「あっ、思ってしまった。起きなくっちゃ。」と。そういうとこは自分が駄目人間だとわかっているので、No Pain No Gain や岡本太郎さんの言葉で自分を縛っている部分があります。ただ、Strict に生活していると継続しないので、手抜きをするというわけではありませんが、出来るだけ脱力するようにもしています。

写真:長沼先生

研究所から始まったキャリア

私のキャリアは、海洋科学技術センター(現・独立行政法人 海洋研究開発機構)から始まりました。正規職員として研究をしながら、総務や企画の仕事などもしていました。学者以外の仕事、役人仕事も色々経験しました。ここでの経験は社会の人々とお付き合いをする中で役に立っていると思います。リアルな部分を随分と育ててもらいました。

一方で、ずっと大学で研究を続ける道もありますが、そういう人は高度に専門化していろんな自分の優れているところを伸ばしていてうらやましいですね。Doctor を出て大学で研究を続けるのも、自分の持てる時間や能力を研究、学問に捧げることができていいと思います。

研究者としての気持ちの持ちよう

私は研究者として2つの気持ちを持っています。
1つ目は、「Dreaming Realist 夢見る現実主義者」とその反対の「Realistic Dreamer 現実主義的な夢想家」です。
結局どっちだと分けるのではなくて、Realist とDreamer の2つの気持ちを持つようにしています。Dream の部分がなくなってしまっては、面白くないですし、一方で現実的に考えなければならないこともあるので、2つの観点を大切にしています。

2つ目は、出来るだけ大きい研究テーマを持つことです。
「生命の起源」や「地球外生命」という大きいテーマを抱え、それに向かって、自分が作り出して行く環境の中で何が出来るか考えています。それらはハイリスクハイリターンなテーマですが、一方で難易度が高くなくても重要度の高いもの、学問的に重要なことや、地域連携など社会的意義のあることにコツコツと取り組むことも大切です。広島大学が置かれている立場から考えると、地域のニーズに応えていくことは重要だと考えています。地域に貢献をすることによって、学生の進路もずいぶんと変わってきます。

D進学を考える学生へのメッセージ「困難なくして成長なし」

困難に直面した時に逃げないで欲しいと思います。乗り切るには力が必要です。力があれば困難に直面し、克服すればいいし、もし自分に力が足りなければ求めてください。それは指導教官でも家族でも友人でも構いません。我々教員はその手助けをするために存在しています。困難を乗り切ればその後に必ず成長があるので、それをぜひ体験して欲しいです。

今、日本は先進国中Doctor の数が最低ですので、国を挙げてDoctor の数を増やそうとしています。一方で、文系のDoctor には就職口がないという問題があります。日本は科学技術で外資を稼いでいるので、科学技術に力を入れようとしていますが、文系といえども考え方によってはチャンスがあります。

科学者には、歴史的、哲学的、文学的な視点が欠けています。しかし、科学者には自分に何が足らないかわからない。例えば、文学という追体験を提供することによって科学技術を議論する場が広がるなどの提案をしてみるのはどうでしょう。南極の昭和基地でもアートをするという案もあります。何事もやってみないとわかりませんので、アイディアを売り込んでみるといいと思います。アイディアを出すとあっさりと採用されるかもしれません。

写真:長沼先生

取材者:市川 壮太(国際協力研究科 開発科学専攻 平和共生コース 博士課程前期2年)


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